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 樂はソファの縁にしがみつき、俺はその足をつかみ引っ張っている。


「働きたくないぃぃいいッ!!」

「働け、ゴミニートっ! ニートのくせしてイザベルを顎で使うんじゃねぇ!」

「だって夢のご主人様気分~~っ!」

「うるせぇ! イザベルのご主人様はこの俺だ! てめぇは早く働けゴミニート! てめぇが来てからうちの食費は3倍になってんだよ!」

「王様に面倒見ろって言われたじゃんかーー!」

「ゴミニートを生産しろとは言われてねぇ! いいからとっとと掃除でもしろ! 働くまで晩飯は抜きだっ!」

「そんなぁっ!?」


 樂はこの世の終わりを見たように、顔を歪めた。


「イザベル、このゴミニートに仕事をやれ! なるべくキツイやつだ!」

「ご主人様あまりお怒りになられると、お体に障ります」

「そんなことはいいから、仕事だ!」

「仕事ですか、では草むしりなどいかがでしょう。庭師の方が、広さがあるため苦戦していらっしゃいましたし」

「そうか、それはいい! じゃあ樂、早くやってこい!」

「え~~」

「晩飯抜き!」

「クッソォォオオオオーーーーーッ!!」


 樂はドタドタと庭の方へ走っていった。食欲には勝てなかったらしい。


「ご主人様」


 ぜぇぜぇと息を整えていると、いつの間にかイザベルが横にいて、まっすぐにこちらを見ていた。


「ああ、イザベル。いい仕事を見つけてくれてありがとな。あと、これからはあいつの言うことあんま聞かないでいいから」

「はい、承知いたしました。それでは追加報酬をもらってもよろしいでしょうか?」


 イザベルは日頃から報酬はいらないと言っているほどなので、追加報酬という言葉には驚いたが、彼女が欲しいと言うなら、払うことは願ってもないことだった。


「お、おう、何がいい? なんでもいいぞ」

「そうですか、ではもう一度さっきの言葉を言っていただいてもよろしいでしょうか?」

「さっきの言葉?」

「『イザベルのご主人様はこの俺だ!』と、もう一度お願いいたします」

「うっ」

「『イザベルのご主人様はこの俺だ!』と、さぁ!」

「ううっ」

「……さきほどご主人様は、なんでもいいぞとおっしゃられましたよね?」


 俺は背がそんなに高くなく、身長差がほとんどないため、自然と目線も近くなる。その上至近距離でこちらを見つめてくるイザベルの圧力に、俺は負けた。


「いっ、イザベルの、ご主人様はっ……この俺、だ」

「力がこもっていらっしゃいません。もう一度お願いいたします」

「い、イザベルのご主人様は……この俺だっ!」


 イザベルは俺が抵抗するその口を屈服させて絞り出したその言葉を聞くと、澄まし顔でくるりと体を翻した。そしててくてくと数歩俺から離れると、こちらに顔を向けないまま言った。


「今回のところは合格にしておいて差し上げましょう、へたれなご主人様」


 いつもどおりその抑揚のない声で告げると、いつもどおり無音歩行で廊下へと去っていった。


「…………………………」


 いつもどおりのそれらの行動は、一見統一されていたように見えたが、部屋を出るときにチラリと見えた彼女の横顔は、いつもとは少し違うように見えた。




 ***



 心地良い陽の光を浴びながら芝生の上で寝転び、一時のまどろみを楽しんでいた俺を、遊びに来たのか、ミューラが覗き込んできた。白く長い髪が重力に従い、俺の顔に落ちる。


「るーくん、今日は暇なんだよねっ」

「おう、今日は一日休めるんだよ、久しぶりに」


 最近は本当に忙しかった。樂の件然り、通常業務然り、商談然り、これらのことが1通り落ち着いてきた今、俺は意図して今日に予定を何も入れずに休日を作った。おそらく2週間前の騒動の時以来の休日だ。


「やた~~、じゃあどっかあそびにいこっ」

「そうだな、家にいても仕方ないし、市にでも行くか?」

「うん、るーくんと出かけるの久しぶりだからすっごい楽しみ!」


 あどけない笑みを顔いっぱいに浮かべ、そう言ってくるミューラは自然と人を惹きつける魅力があった。


「よっしゃ、じゃあ早速出かけるか! イザベル、なんか必要なものあるか~?」

「では卵を1ダースほどお願い致します。時間はいつでも構いませんので」

「了解、じゃあ行ってくる」


 そんなこんなで出かけることになった。右腰に剣を帯び、ミューラと共に玄関をくぐった。市まではすぐだ。俺の屋敷は王都の中心部付近に建っているため、交通の便は良い。スラム住人から名門商家まで、様々な人間が集い風呂敷を広げるこの王都の名物である商い通り、通称市もその例に漏れずに屋敷から徒歩10分とかからない。


「うわ~、やっぱりいつ来てもすごいねっ、ここ」

「ああ、相変わらずの喧騒だな」


 市の入口の左右には2本のこの国のレリーフをあしらってある柱があり、銀メッキがところどころ剥がれて赤茶色になっているところは、この通りの年季を感じさせる。一歩道に踏み込めば左右から威勢の良い声が響き、常に客引きに勤しんでいる。道はまっすぐ続いており、端から端まで歩こうと思おうと日が暮れてしまうくらいには長い。


 入口付近に居を構えているのは、名門商家や大手の商会であり、比較的安価で日用品などを供給しているものが多い。真ん中付近に進めば進むほど店のランクは落ちてゆき、最終的には旅人が風呂敷包みを広げ路銀を稼いでいる所から、スラム街の子供が盗品を販売している場まである。

 

 しかし基本的に国は市には不干渉を貫いているため、よほどのことがなければ介入してくることはない。ここは王都で唯一、誰もが衛兵の目を気にせずに商売ができる場なのだ。


「ねぇ見て見てるーくん、これ似合うっ?」


 ミューラが木彫りの花びらに穴を通したネックレスを、首に付け楽しそうに笑っている。


「似合ってるぞ、うん。似合ってる」

「なんで二回言ったの?」


 ケラケラと楽しそうに笑っている。しかし今日のミューラは本当に機嫌がいい。何かあったのだろうか。聞いてみるか。


「なんかミューラ、今日すごい楽しそうだな」

「もちろんだよ、こうやってるーくんと市に来るの本当に久しぶりだもん。でもね……本当はもうひつ理由があるんだ!」

「へ~、どうしたんだ?」

「え~? 聞きたい?」


 ミューらの瞳にいたずらの色が浮かび、上目遣いに俺を見上げた。



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