8話 クリア報酬
自分の文章には華がない。
そう思ってしまう今日この頃です。
一応、改善を目指して地の文など、部分的にちょっとふざけた感じで書いてみました。
ユーリと別れてからしばらくのこと。カケル達は出店で買い漁った品物を、ベンチに座りながら食していた。
カケルは当初コトネに対して、礼儀正しく見た目以上に大人っぽい、という印象を抱いていた。
しかし今、笑顔でたこ焼きを頬張っているその様子からは、逆に見た目以上に子どもっぽい印象が感じられる。
「…………」
「どうかしましたか?」
横からの視線が気になったコトネは、カケルに問いかけた。
「いや、えらく美味そうに食うなと思って」
「ッ!?」
そう言われたコトネの顔が、カーッと赤くなった。
カケルとしては深い意味は無かったのだが、本人としては食い意地が張っていると言われたように感じたのだろう。
「どうした?」
自分の失言に気付かないカケルは、食事の手を止めたコトネを不思議そうに見ている。
「…何でも、ありません」
カケルの指摘に落ち込みつつも、コトネは食事を再開する。
残してストレージにしまおうかとも考えたが、コトネはそうしなかった。
二人が食べているたこ焼き、実はカケルの奢りで買った物である。
買う際にコトネが遠慮するという悶着が起こったのだが、まぁそこは割愛しよう。
とにかく奢りであるためか、コトネとしては目の前の食べ物を残すのは気が引けるようだ。
しばらくの間、黙々と食べていると、ふとコトネが何かを思い出したように声を発した。
「そういえば、このゲームのクリア報酬が何か、まだ聞いてませんでしたね」
「ん、ああ、そういや言ってなかったか」
寺では突然ユーリが現れたので、丁度その部分で話が中断してしまった。
一応、毘沙門天との戦闘中に聞く時間もあったが、あまりにも常識離れした戦闘のせいで忘れていたのだろう。
カケルは紙コップのお茶を一口飲んで、喉を潤すと言葉を続けた。
「このゲームをクリアすると、一つだけ願い事を叶えてもらえる」
その言葉を聞いたコトネは、一瞬理解ができずに固まった。
「……はい?」
わずかに遅れて、コトネはカケルの言葉を理解したが、頭の中には疑問符しか浮かばない。
「それって、どういう意味ですか?」
「そのまんまの意味。
現実世界、仮想世界を問わず、現在SLOの運営を担っている企業団体が、叶えられる限りの願いを叶えてくれるってこと」
その言葉を聞いたコトネは、ボソボソと呟きながら何やら考え込み始めた。
「…叶えられる、限り…なら、兄さんは何を」
カケルはその考え込んでいる様子を見て、邪魔をするのもどうかと思ったが、あえて発言した。
「おーい、たこ焼き冷めるぞ」
「あ」
カケルの言葉で、考え事に没頭していたコトネはすぐに正気に戻った。
さっきも似たようなやり取りがあったなと、カケルは内心で苦笑する。
「そういや、コトネは戦闘職を目指すんだよな?」
「え? あ、ああ、はい」
コトネは質問に答える際、若干返答に戸惑う様子を見せた。
しかしカケルは単に、話の内容が急に変わったせいだろうと判断して、話を続ける。
「じゃあ、戦い方とかはユーリに教わるのか?」
「いえ、そういうのは友達から教えてもらいます」
「…いいのか? 強くなりたいんなら、あいつに教わるのが一番だと思うぞ」
戦闘能力の向上を図るならば、熟練のプレイヤーに教わるのが効率的な方法だ。
実力や兄妹という関係性から言っても、教え役としてユーリ以上の適任など、そうはいないだろう。
カケルの言葉に対し、コトネは苦笑しながら答えた。
「戦いたいっていう理由だけで、この世界に来たわけじゃありませんし。こういうゲームって人との交流を楽しむものでしょう?」
「…………」
カケルは何やら、呆けたような視線をコトネに向けている。
「どうかしました?」
「いやー、兄妹なのにユーリとは似てねぇなぁと思って。
あ、別に悪口じゃないから」
コトネはそう聞いて、何やら複雑そうな表情を浮かべた。
「……まぁ私たちの場合、似てないのはある意味当然なんですけど」
「?」
ボソボソと呟かれた言葉に対し、カケルは疑問符を浮かべている。
「ど……」
「ちなみに、どうしてそう思ったんですか?」
―――どういう意味か、と聞こうとしたところで、丁度コトネから質問を被せられた。
カケルは自分の疑問を引っ込めて、とりあえずその質問に答える。
「んー、こう言っちゃ失礼かもしれないけど、あいつってお前さんほど社交的じゃないだろ」
「社交的って……私だって、そういうタイプではないんですけど」
「そうか?」
本人はそう言っているが、会って間もないカケルと普通に会話できているあたり、コミュ力は結構高いように思える。
そういった部分が、ユーリとは似ていないようにカケルは感じた。
「あの、思ったんですけど、カケルさんって兄さんとは付き合い長いんですか?」
ユーリのことをよく理解しているような口ぶりから、そんな疑問を感じたコトネは聞いてみた。
「長い、のか? たしか知り合ったのは結構前だけど、実際会ってる回数はそんな多く無いぞ」
コトネの質問に対し、カケル自身どれぐらいの付き合いになるのかと考え込んでいる。
「…いや、多い方か。 最低でも月に一回くらいは会ってるし……」
返答というよりも半ば独り言のようだ。
その呟きのような言葉が聞こえたコトネは、新たな疑問を発した。
「月に一回? 定期的に会う用事でもあるんですか?」
「ああ。俺、武器屋をやってんだけど、あいつはそこのお得意様みたいなもんだな」
「武器屋…それじゃあ兄さんが使ってたあの薙刀も?」
武器と聞いてコトネが真っ先に思い浮かんだのは、毘沙門天との戦いでユーリが使っていた薙刀だ。
「いんや。俺が扱ってんのは、銃みたいな近代的な武器ばっかで、普通の剣とかは置いてない」
「兄さんって、銃も使えるんですか!?」
売っている商品に対する感想よりも、そこで買い物をするユーリに対する感想が出た。
先の戦いで薙刀やら魔法やらを使っておいて、その上銃も使えるのかと、コトネは内心で兄のスペックの高さに呆れてしまう。
「ああ、銃も買うことはあるな」
「銃『も』?」
「武器以外にも色々とアイテムを扱ってんだよ。
なんなら、コトネも欲しいものが有ったら言ってくれ。俺にできる限りのものは用意するぞ。もちろん金は必要だけど」
そう言いながらカケルはウインドウを開き、自分のメールアドレスをコトネに見せた。
「ほれ、ここに連絡くれりゃいいから」
「あ、ありがとうございます。それじゃあ、私も」
自分だけアドレスを教えてもらうのもどうかと思ったコトネは、カケルにならってアドレスを見せた。
「はいよ。んじゃ店の住所、メールで送っとくな。
けど、俺基本的に店には居ないし、店番とかもいないから、来るなら事前にメールしてくれ」
「え、それって、経営成り立つんですか?」
「いいんだよ。俺の場合、ほとんど趣味みたいなもんだし」
趣味と言っているが、ユーリ程のトッププレイヤーが通い詰めるあたり、商品の質は確かなのだろう。
コトネもそのことが理解できたため、カケルが扱う商品に興味がわいてきた。
「さてと。これからどうする?」
会話が途絶えたところでふとカケルが口を開いた。
時刻はもうすぐ3時になるというところである。
買った食べ物も、会話の途中で全て平らげてしまったし、これからどうしたものかと思ったのだ。
「そうですね……この世界って初日の出とか観られますか?」
「ああ、観れるぞ。ログインするときに北区の時計台を選択してみ。そこからなら眺めもいいし、結構おススメだぞ」
SLOではログインする際、プレイヤーはある程度、現れる地点を選択することが出来る。
そのゲーム開始地点は一つの都市に一つというわけではない。
今、二人がいる『アークガーデン』のような大都市の場合は、複数の開始地点が市内各地に存在している。
「それじゃあ、私は日の出まで仮眠でもとることにします」
ログインしてすぐの場所なら移動する手間もない。
一度ログアウトしてから入り直せばすぐに着くのだから、十分仮眠もとれるだろう。
「そうか。それまで結構時間あるしな。
んじゃ、俺もそろそろログアウトすっかな」
「今日は、色々とありがとうございました」
コトネはカケルの方に向き直って、礼を述べた。
「ああ、礼とかいいって。俺も退屈しないで済んだからな」
カケルは笑みを浮かべながらそう返し、コトネも浮かべられた笑みに対して微笑み返した。
「さてと。じゃあな」
カケルは最後にそう言ってログアウトした。
一人残されたコトネも、ログアウトしようとウインドウを開く。
(兄さんも、もう寝てるかな)
ふと、そんなことを考えながら、コトネも現実世界に戻って行った。
コトネ達がログアウトしたのとほぼ同時刻。
先ほどまで仮想世界でユーリと呼ばれていた白い少年、篠宮優利は暗い部屋の中で静かに目を覚ました。
高校生ぐらいの少年の私室にしては、あまりにも広い部屋だ。リビングとして使っても違和感無いだろう。
室内に存在する物の数があまりにも少ないことからも、その広さが一層際立っている。
「…………」
目を覚ました優利は、瞬き一つせずに天井を見つめている。
彼の目の下にうっすらとある隈から、どれほどの時間眠らずに仮想世界にいたのかうかがえる。
そのまましばらくぼーっとした後、優利は頭のヘッドギア型のVR機器を取り外して起き上がろうとした。
「…ぐ、くうっ」
しかし起き上がろうと上半身を上げたところで、優利は苦しげに呻きながら前方に突っ伏した。
現実の肉体と仮想世界のアバターでは視覚、聴覚、運動能力、あらゆる感覚が異なる。
そのため仮想と現実で能力の差が大きいほど、ログインやログアウトの際にひどい眩暈や倦怠感に襲われてしまうのだ。
「……ふぅ…ふぅ」
しばらくして眩暈が収まると、優利は後ろに倒れ込んで枕に頭を沈めた。
再び天井を見上げる体勢となった優利は、呼吸を落ち着かせた後、ベッドの端まで這っていき傍の台に左手を伸ばす。
優利は台の上から水の入ったペットボトルと、クッキー状の固形栄養食を掴みとると、モソモソと食べ始めた。
隈が出るほどの間、眠っていないのだから食事も当然とってはいないだろう。
だというのに、優利が動かす手も口もどこか重たげで、食欲が無いように感じられる。
もっとも、動作が鈍くとも食事量が少なかったため、食べきるのにさほど時間は掛からなかったが。
食事が済んだ優利はベッドの中央まで這って行くと、再度枕に頭を沈めた。
優利がそのまま眠ろうと目を閉じると、先ほどまでの会議の話がふと頭に浮かんだ。
(辻斬り、か。……コトネ達は大丈夫かな)
コトネやカケルがPKに会う可能性を考えた優利は、しかし即座にその思考を放棄した。
(まぁ、いいか。狙われてるのはランキングの上位陣みたいだし)
そんなことを考えながらユーリは眠りについた。
もしもこの場に第三者が存在し、ユーリの考えを読むことが出来たならば、こう言った事だろう。
それ、フラグじゃね?
一応言っておくと、現実世界の優利の外見は、仮想世界のユーリそのままではありません。
外見にどのような差異があるのかは、今回の話ではあえて書きませんでした。後々の話で書くつもりです。