7話 ちょっとした昔話
現在、執筆が低迷しております。
全体として大まかなストーリーの構想はあるのですが、そこまで持っていくネタが思いつかない状態です。
前回に引き続き、短い内容で申し訳ありません。
ミレリアの言葉に対し、カリスとマリスが首を傾げている。
「攻略者が少ない理由なら僕たちだって知ってますよ?」
「ふむ、それじゃあ先に質問から入るが、その理由を言ってみてくれるかい?」
そう言われた双子の二人は交互に理由を上げていった。
「あ、はい。まずはモンスターとの戦いに耐えられる戦闘職のプレイヤー自体が少ない」
「あと、ダンジョンの進み難さもあるわね。道に迷いやすい上に罠が多いんだもの」
「それに、攻略の途中で自分の強さに満足して諦める人もいるって聞きました」
そこまで聞いたところでミレリアは二人の話を中断させた。
「まぁ、どの理由も間違ってはいないんだが……そうだな、なんと言うべきか」
どのように話したものかと悩むミレリアを見かねたのか、メリーから助け舟が出た。
「この世界の神に会った者はいない。
なのに、どうしてプレイヤーがみんな勝つことを諦めているか、二人は知ってる?」
メリーから発せられる言葉は、感情の読み取りにくい声音だが、聞き取りにくくは無い。
むしろ、淡々としたその口調は、かえって聞き取りやすくすら感じられるものだ。
「えっと、本物の神ですらない神話エネミーが強すぎたから、ですよね?」
カリスの答えに対しメリーは軽く頷いた。
「そう。けど、おかしいとは思わない?」
「え、何がですか?」
「神話エネミーなんて、一般のプレイヤーがそう簡単に見れるもの?」
続けられたメリーの言葉に二人はハッと気が付いた。
プレイヤーの間でそのように語られるという事は、それなりの数のプレイヤーが目撃したことになる。
しかし、通常神話エネミーは特殊なイベントか、ダンジョンの奥地にでも行かない限り見ることもできない存在だ。
ならば彼らはどこで見たのか。先ほど言っていたゲストとはなんなのか。
ここまでくれば容易に想像がつくだろう。
「ゲストって……」
「神話エネミーの事、ですか?」
呆然とした様子で呟くマリスとカリス。
ミレリアはため息混じりに二人の言葉を肯定した。
「ふぅ、ほとんどメリーに説明してもらったな。
まぁ、そのとおりだ。4年前、第二回の創世祭で、神話エネミーが出現した。
当時、私は外から見ているだけだったが実力の差は嫌でも分かったよ」
ミレリアは自嘲気味に笑っている。
一体どれほどの力の差が有ったのかと、マリス達が聞こうとしたところでテンヤが口を開いた。
「説明が終わったんなら話進めんぞ。ユーリ、そいつらが出る大会は分かるのか?」
テンヤの問いに対し、ユーリは首を横に振る。
「さすがにどの大会に出るかは教えてくれなかったよ」
その返答を聞いてもテンヤはさほど落胆していないようだ。元から、答えにさほど期待していなかったのだろう。
そのままユーリは「けど」と言葉を続けた。
「出場するゲストの数が5体って事と、低い階級の大会には参加しないってことは教えてもらったよ」
「「5体!?」」
古参であり、以前の大会についても知っているテンヤとミレリアの二人は、その異常な数に声をそろえて驚いた。
ちなみにメリーはフードで表情が見えないので、驚いているのかわからない。
「はっ、なるほど。お前がこんな情報を明かした理由がわかったぜ」
「つまりは、全員で共同戦線を張ろうという事か?」
「察しが良くて助かるよ。5体もいるってことは団体戦にも出る可能性が高いからね」
「此処に居ない3人も協力せざるを得ないだろうな。君たちも、協力すると言う事で異論はないか?」
ミレリアの問いかけに対し、メリーと双子は首を縦に振る。
全員、異論はないようだ。
「あの、協力するのは良いんですけど、敵の強さってどれくらいなんですか?」
「前に大会で見たやつは、たしか中級神だったな。
強さに関しては……少なくとも、今の私よりも上だったと思う」
マリスの質問にミレリアが答えるが、そのときの光景を思い出したのか、彼女の声音はだんだんと沈んでいった。
「中級!?」
「そんなのが二回目の大会で出るっておかしいでしょ!?」
二人の驚きに対し、テンヤが皮肉気な笑みを浮かべている。
「運営の鬼畜っぷりが、よく分かんだろ?
この事件のせいで、一気にゲーム攻略者は減っちまったからな」
神話エネミーには通常のモンスターとしてのランクとは別に、神としての階級も存在しており、強さがそれぞれ異なる。
なかでも中級以上の神は、未だ討伐されたことが無いというレベルなのだ。
そんなものがゲーム開始から間もない頃に登場したとあっては、無理ゲーどころの話じゃないだろう。
「話がずれてきてる」
「ん、あ、ああそうだな」
メリーの一言で話の軌道が修正され、落ち込んでいたミレリアは気を取り直した。
「さて、問題なのは誰がどの大会に出るかだが……」
そんなことを考え始めたミレリアに対し、ユーリから意見が上がった。
「少なくとも団体戦には全員で出るべきだと思うよ。人数的に、丁度チームも二つできる」
ユーリの提案には同感らしく、ミレリアは軽く頷く。
「そうだな。しかしそれ以外の大会に関しては、全員が揃った時に決めるべきだろう」
「つうかよ、今ある戦闘系の大会ってどんなのがあんだ?」
≪創世祭≫で行われる大会では、ひとえに戦闘といっても様々な形式のものが開催される。
単純な、個人やチームでのトーナメント戦や、市街地や密林を舞台にしたサバイバル戦。二人一組で行うタッグマッチなどがある。
テンヤ達自身、どれだけの大会があるのか把握はしていないのだろう。
「それも、調べておくべき要項だ。
各自でどんな大会があるのか調べ、次回の会議までに出場を希望するものを選んでおくこと。それでいいか?」
ミレリアの言葉に対し、全員が頷いて同意を示した。
一通り話がまとまり、これで会議も終わりかというところで、ふとテンヤが口を開いた。
「にしても、初めてじゃねぇか? 俺らが協力して事に当たるなんてよ」
そんなテンヤに対し、ミレリアがからかうような口調で問いかけた。
「誰かが裏切らないか、不安かい?」
ここまでの話し合いで、彼らは仲がいいように一集団に見えただろう。だが、それは間違いだ。
彼らは仲間同士でも友人同士でもない。彼らは本質的には同じ獲物を欲する競争相手でしかない。
本来ならば、協力したと見せて出し抜かれる可能性を危惧するべき、なのだが……
「はっ」
テンヤはミレリアの言葉を鼻で笑った。
「んな、非効率的な、馬鹿な事を考えるような奴が、ここまでこれる訳ねぇだろ」
「ふふっ、そうだな」
彼らが欲するのはゲームクリア。求めるものは同じ。しかし、だからこそ彼らは最低限の協力はするのだ。
ライバル同士で足を引っ張って、攻略自体が出来ないのでは本末転倒だろう。
何を優先し、何を妥協するのか。
そういった効率的な判断ができるからこそ、彼らは≪エニアグラム≫と呼ばれる程の強者となれたと言えるだろう。
「さて、他に話すことは無いか?」
全員を見わたし、挙手するものがいないことを確認したミレリアが言葉を続けた。
「それでは、今日のところはこれで解散としようか」
ミレリアのその言葉で会議は終了し、全員席を立ち部屋から去って行った。