6話 会議
今回、6話の内容を消去して、急遽一から書き直したため、時間の都合によりいつもより一層短くなっております。
申し訳ありません。
館の中は玄関などが無く、入ってすぐに広い部屋となっていた。
部屋の中心には長方形のテーブルが置かれ、それを囲うように椅子が並んでいる。
現在、ユーリを含めて6人がその席を埋めていた。
「ふむ、マオとリオン、シドは欠席か」
ふと、金髪の女性が軽く全員を見渡した後に口を開いた。
どことなく凛々しい口調の凛とした女性だ。
「半分以上集まれば上々だろうよ。
むしろ、いつも話を引っ掻き回すあいつらは、いない方がいいんじゃねぇか?」
するとその言葉に、赤い着物を着た黒髪の男性が反応した。
「そういう訳にもいかないだろ。彼らしか持っていない情報も中にはあるんだ」
この場に居る全員は≪エニアグラム≫、つまりは担当者持ちだ。
担当者とは基本的に攻略関係の情報をプレイヤーに与える役目があるが、それは義務化されているものではない。
与えられる情報の内容も、そもそも情報を与えるかどうかという事すら、運営側の気まぐれで決まるため、
プレイヤーごとに所有する情報は異なる。
「んなこと言っても、今ここにいねぇんだからしょうがねぇだろ。いいからさっさと会議を始めようぜ」
「ふぅ……仕方がないか。
それでは、今回の七福神クエスト、当たりを引いたのは誰だ?」
女性が席に座る全員にそう問うと、ユーリとその隣に座る少女が、手を挙げた。
少女は白いパーカーを着て、フードをすっぽりと被っているため顔が良く見えない。
ただ、わずかに見える髪の端と肌の色がユーリと同様の白色だった。
「ユーリと、メリーか。此処に居ない分を合わせて、ようやく7枚揃ったな」
「で、誰が船に乗るんだ? 言っとくが俺は嫌だぞ、んなめんどくせぇこと」
着物の青年がそう言うと、メリーと呼ばれた白い少女が口を開いた。
「面倒なのはこっちも同じ。
だいたい、チケットを持ってこれなかったあなたに、そんな理由で拒否をする権利は無い」
その言葉に青年は、聞こえない程度に小さい舌打ちをしたが、特に文句は言わなかった。
荒っぽい様子に反して、それなりに筋は通す性分なのだろう。
さすがに面倒だからという理由は自分でも駄目かと思ったようだ。
「そういえば、島に着くのにだいたいどれぐらいかかるんだ?」
「だいたい4~6時間ぐらいで着くって。
ちなみに、道中でモンスターも出るらしいから退屈はしないんじゃない?」
金髪の女性の疑問に対して、ユーリが即座に答えた。
「そうか、それでは誰か行きたいものはいるか?」
その言葉に、手を上げる者は一人もいなかった。
これが従来の画面上で動作するゲームであるならば、新しいエリアを解放するのに、ほんの数分のイベントをこなせば済むことだ。
しかしVRゲームにおいて、そういったイベントは移動や会話など、実際に行動しなくてはいけないため、どうしても時間がかかる。
当然、イベントをスキップする機能などあるはずもない。
誰だって、4時間以上も船の上でモンスターを相手にするのは面倒だろう。
ユーリが退屈はしないと言っていたが、その言葉もさほど意味が無かったようだ。
しばしの間、沈黙が流れるが、しばらくすると茶髪の少年がおずおずと手を上げた。
「あの~、誰もいないんでしたら僕が行きましょうか?」
「ちょっと、カリス! なに安請け合いしてるの」
しかし、少年の隣に座る少女が少年を叱責した。
少女の髪は少年と同色の茶髪で、顔の造形も似ている。
歳もあまり離れていないように見えることから、双子であろうことが分かる。
「けど、どうせ誰かが行かなきゃいけないんだし、それに、マリス…」
「なによ?」
双子の少年の方はカリス。少女の方はマリスという名前らしい。
マリスは不機嫌そうな様子でカリスに返事を返した。
「新しいエリアとか、ちょっと面白そうじゃない?」
「そんなの、エリアが解放されてから行けばいい話でしょ」
「けどさ~……」
「それに、モンスターも出るんだし、私たちの戦い方じゃ船が沈みかねないわよ」
「あ、それなら多分大丈夫だよ。船は結構広いみたいだし、少しくらい派手に暴れても平気だと思うよ」
マリスの不安を否定するユーリの言葉にカリスが軽く目を輝かせた。
「ほら! 大丈夫みたいだよ」
「う……け、けど」
そんなカリスの喜ぶ様子にマリスは軽くひるむが、まだ反対しようとする。
しかし、カリスは反論する暇を与えないよう、マリスに近づいて耳打ちした。
「それに、ここで僕らが行けば他の皆に貸しができるよ」
「あの人たちがこんなことで恩を感じるような人間だと思ってるの? あんたは」
「む、そんなこと言っちゃ失礼だよ!」
マリスの言葉で、今度はカリスが怒ったのか、語気が強くなっている。
どうも彼は生真面目な性格らしく、マリスが他人を悪く言うのが気に入らないようだ。
そんな彼の様子にマリスは辟易し始める。
「ああ、もうわかったわよ」
結局、折れたのはマリスだった。
「はぁ……そういう事なので、今回は私たちが船に乗らせてもらいます」
マリスはため息を吐くと、全員に向き直って自分たちが行くと言った。
「そうか助かるよ、ありがとう。
それでは他に報告があるものは居るかな?」
金髪の女性は礼の言葉もそこそこに、次の話に移った。
今回の会議、目的はただ七福神クエストの結果報告だけではなく、担当者から得た情報の交換も兼ねているのだろう。
彼女の言葉に手を挙げたのは二人。
一人はユーリと、もう一人は着物の青年だ。
「テンヤが先でいいよ」
ユーリは着物の青年、テンヤと軽く顔を見合わせると、テンヤが先に話すように促した。
「こっちは別に大した話じゃないし、後でもいいぞ?」
「んー、こっちはちょっと長くなりそうだから、後でゆっくり話したいんだけど……」
「そうかい。んじゃまぁ、報告って言うか先にユーリとミレリアに質問が有るんだけどよ……」
テンヤはそう言って金髪の女生と、ユーリの二人に対し、視線を向ける。
「お前ら最近、辻斬りとかやってないか?」
「「は?」」
二人は声をそろえて疑問符を浮かべた。
「あー、辻斬りっつうか……街中でそこらのプレイヤー相手に魔法をぶっ放すとか、通り魔的な行動はしてないか?」
「「はぁ?」」
その言い換えにどれほどの意味があるのか。
辻斬りと通り魔ではほとんど違いなどないだろうに、なぜ言い換えたのかという問題も含めて、二人は二度目の疑問符を浮かべた。
「その様子じゃ、やっぱお前らじゃねぇのか」
「いったい、何の話だ?」
ミレリアは若干不機嫌そうに質問した。
いきなりわけの分からない事を言われ、一人で勝手に納得されては、多少の不快感も感じるだろう。
「ああ、俺も担当から聞いた話なんだがな、最近あちこちの街で高ランクの魔法を使ったPKが増えてるらしい。
どの被害も確実にExランクは有るような魔法で仕留められてるって話だ」
「ふーん、けど結局はただのPKでしょ?」
「まぁ、そうなんだがな。
ひょっとしたら担当者持ちが一人増えるかもしれねぇし、お前らじゃねぇのか一応確認しただけだ」
「へぇ、そこまで言うぐらい強いんだ?」
ユーリは最初興味がなさそうだったが、その言葉で僅かに興味がわいたようだ。
「言ってるのは俺じゃなくて担当だがな。
ランキング上位のプレイヤーを狙って倒してることからも結構な強さじゃねぇか、ってな。
お前らも一応気を付けとけよ」
「僕らの事を知ってるプレイヤーなんてほとんどいないし、大丈夫でしょ」
「ははっ、ちがいねぇ」
この仮想世界ではプレイヤーの戦闘能力を競う大会が定期的に開催され、順位付けが行われる。
ランキング上位のプレイヤーともなれば、野球やサッカーの選手のようにプロとして扱われ、各種企業と契約して収入を得ることもできる。
しかし、ユーリ達はそういったランキング戦には参加していない。
有名になると動きにくい、嫉妬や羨望の視線がうっとうしいなど、理由は多々ある。
とにかく彼ら担当者持ちは、実力があるのにも関わらず、大会などには出場せず、日頃からダンジョンにこもるという理由もあって、知名度がとことん低いのだ。
「それで、ユーリの方の話はなんだ?」
話がひと段落ついたところで、ミレリアがユーリの方の話は何かと聞く。
ユーリは椅子に深く腰掛け直してから口を開いた。
「次の≪創世祭≫の大会でゲストが出るらしいよ」
「「「!!」」」 「「??」」
ユーリの発言で、テンヤ、ミレリア、メリーの3人は驚いた様子を見せる。
一方、双子の二人は何のことかわからない様子だ。
「おい、ゲストって4年前みたいなあれのことか?」
虚偽やふざけた回答は許さないと言った様子でテンヤがユーリに問う。
「それ以外で、ゲストと言われて思いつくものは無いね」
テンヤの睨むような視線にもひるむことなく、ユーリは淡々と返答を返した。
情報の再確認をしたテンヤは忌々しそうに舌打ちした。
「チッ、ウチの担当は、んな情報渡さなかったぞ」
「私は今回クエストを受けてないからともかく、その様子だとメリーも知らなかったのか?」
ミレリアの言葉にメリーは無言で頷く。
「あの、ゲストって何のことですか?」
いい加減、話についていけなかったカリスが他の4人に質問した。
「なに? ……ああそうか、君たちがSLOを始めたのは比較的最近だったな」
ミレリアは一瞬、何を言っているのかと眉をひそめた後、すぐに彼らがそんな質問をした理由に思い至った。
余談だが、この『最近』というのはあくまで今いるメンバーの中では、という意味だ。
初めて1年や2年で担当者持ちになれる程、SLOというゲームは甘くない。
「ふむ、まぁいい機会だ。
そもそも何故これほど異常なまでに攻略目的のプレイヤーが少ないか、そこから話そうか」