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Second Life Online  作者: 三日
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3話 ボス戦開始



 戦闘パートです。


 間合いとかの距離感がいまいち掴めず、戦闘シーンが上手くイメージできません。


 描写で何かおかしなところがありましたら、遠慮なくご指摘ください。



 戦闘において体格というものは重要な要素の一つだ。

 格闘技において、体重によって参加できる階級が異なっていることからもそれは分かるだろう。


 子どもは大人に勝てない。人はクマに勝てない。

 自分の身体よりも一回りも二回りも巨大な相手。それとまともに戦うことなど現実ではありえない異常なことだ。

 しかし、そんな異常な光景でも、この世界の中でならばありえてしまう。



 ボスの名前が表記され、戦闘の開始が告げられると同時、ユーリは右足で床を蹴って、眼前の敵へと迫っていった。

 毘沙門天は迫るユーリに対し、迎え撃つべく槍を構えている。


 距離を10m程まで縮めたところで、まだ間合いの外であるにも関わらず、ユーリは手に持った薙刀を横に一閃した。

 振り払われた薙刀の剣先からは、三日月形の斬撃が飛ばされる。


 遠距離闘技 “飛斬”


 刀剣類を使うプレイヤーならば、だれでも取得しているだろう基本的な技の一つである。


 毘沙門天は繰り出された攻撃に対し、右手に持った槍を正面に一突きした。

 突き出された槍は飛来する斬撃を易々と貫き、かき消してしまう。

 しかし、ユーリは攻撃が防がれるのを確認するまでもなく、次の行動に移っていた。

 右手で槍を突きだした姿勢の毘沙門天。その右側に回り込むように、ユーリは間合いを詰める。


 ユーリの持つ武器は薙刀としては長い方で、170cm程はある。そこから繰り出される攻撃の間合いは、2m程度。

 一方、毘沙門天は体格も、得物の長さもユーリとは比べ物にならない。その巨体と槍から繰り出される攻撃の間合いは5m超、ユーリの2.5倍だ。

 そのため、正面から向かって行っても、こちらの攻撃範囲に入る前に向こうに迎撃されてしまう。


 最初の斬撃はただの囮だ。相手に迎撃の姿勢をとらせることで、次への行動を一瞬遅らせ間合いを詰める時間稼ぎとする。

 こちらが次の攻撃を繰り出すほどの時間は稼げないが、攻撃が届く範囲まで近付くことは出来た。

 毘沙門天は突きだしたままの槍を右に振り払ってくるが、ユーリは軽業師のようにバク転して、紙一重でその攻撃を避けた。


 跳びはねたユーリは空中で薙刀を持ち替え、身体の正面が床を向いた瞬間に、刃の付いていない柄の方を床に突き出した。

 そのまま押し出すように力を加えることでユーリはその場から更に跳躍する。

 ユーリは空中で体を捻りながら薙刀を振るい、遠心力を加えた斬撃を繰り出した。

 狙う場所は鎧に覆われていない首だ。


 しかし、毘沙門天はぎりぎりのところで後ろに跳ねて直撃を回避した。

 刃がわずかに掠った程度のダメージ。掠ったところからは、チリチリと血のような赤い粒子のエフェクトが流れている。


 攻撃が躱されてしまったことに対し、軽く舌打ちするが、悔しがっている暇はない。

 毘沙門天は後ろに下がりながらも、既に次の攻撃のための体勢をとっていた。

 ユーリが床に着地する頃には、すでに槍を持った右手を後ろに引き絞り、今にも突きを放つというところだった。


 ユーリは足が床に着いた瞬間、身を捻りながら右後方におもいっきり跳んだ。


 ゴウッ!


 すさまじい勢いで放たれた槍が、先ほどユーリが着地した部分を通過する。まさに間一髪だった。


 攻撃の回避には成功したが、再びユーリと毘沙門天の距離が離れてしまう。

 しかし、せっかく詰めた間合いが開けたというのにユーリは動じない。

 ただ冷静に今のやり取りから得られた敵の情報を整理していた。


(予想より速いけど、速度はこっちが上。少なくとも鎧に覆われていない部分には刃が通る。

問題は、露出部分が少なくて狙いにくい事)


「このままじゃ厳しい、か」


 そのような事を考えながらも、ユーリは本気を出そうとはしていなかった。

 ユーリが今回の戦いに対する姿勢は、いうなればトレーニングだ。

 倒す事のみが目的であったのならば、薙刀を手放し、別の戦法をとっていただろう。


 ユーリの最終目標はあくまでゲームクリア。そして、それを目指すうえで戦闘技術は磨かなければならないと考えていた。

 だからこそ、わざわざ槍という相手と同じ得物を使い、相手の土俵で戦おうとしていたのだ。(正確には薙刀は槍ではないが)

 故に、この程度の苦戦ではまだ本気を出すには値しない。

 ボソリと呟いたユーリは、再び目の前の敵へと向かって行った。




 ユーリが戦闘を始めた時点で、毘沙門天の意識は全てユーリに向いていたため、張りつめていた威圧感も緩和されている。

 そのため、扉付近に居たカケルとコトネの二人は、今ではユーリの戦闘を冷静に眺められる程度までに緊張が解れていた。


「……無茶苦茶ですね」


 目の前の現実味のない戦闘風景に、コトネは呆然とした様子で呟く。


「…そうだな」


 カケルの方も言葉少なに同意しか返すことができない。


「あれが、この世界では普通なんでしょうか?」


「ないわ~。あんなのを一般的な強さの基準にしないでくれ」


「そうなんですか?……けど、兄が前に近接戦闘は苦手だって言ってたんですけど」


「そりゃ本人が苦手って言ってるだけだ。あんな動きができるの、ゲーム内じゃ1000人もいないだろうよ」


「? それって結構多いような…」


 MMO自体、あまり経験のないコトネには1000という数字は大きいように感じた。


「SLOの総プレイヤー数が何人かは知ってるか?」


「えっと、50万…くらい?」


 自信なさげに答えるコトネに対し、カケルは首を横に振る。


「たしか最新の統計で2000万ちょっとって話だ」


「! に、にせんまん!?」


 予想以上のプレイヤーの多さにコトネは驚く。


「1000って言えばその中の二万分の一。そこまで行けば十分、上級って呼べるレベルだ」


 その話を聞いて、コトネはユーリが戦っている方に視線を移す。

 ユーリと毘沙門天、二人の戦いは、コトネにとって目に映らないほどの速さ、という訳ではない。

 だが、結局のところそれは視界に入っている、というだけでしかないのだ。


 見えてはいても理解が追いつかない。

 ユーリは、攻撃の動作からさらに追撃、回避の動作につなげ、そこからさらに次の動作につなげる。

 わずかな時間も同じ場所にとどまるようなことは無く、ただひたすら動き回っている。

 コトネが一つの動作を認識できた時には、すでに一つ、二つ後の動作が始まり、もしくは終了しているのだ。

 もはや人間に可能な動きとは思えない。



 コトネは考える。あれが上級プレイヤー。自分もいつかあれほどの動きができるようになるのだろうか、と。

 しかし、あそこまで行ける姿が想像できないと、すぐに自分の考えを否定した。

 そんなコトネをよそに、カケルは戦いを眺めながらふと、軽くブルリと身を震わせた。


「にしても…寒いな」


 伊達に仮想生活空間と別称されていない。SLOでは気温や湿度すらもリアルに再現されているのだ。

 そして今は大晦日。体を動かすでもなく、ただボーっと突っ立っているだけでは体も冷えてくる。

 カケルはウインドウを開き、アイテムストレージから饅頭と紙コップに入ったお茶を二つずつ取り出した。

 両方とも出来たてのように湯気が立ち上り、見ただけで熱々だと言う事が分かる。


「喰うか?」


 カケルは取り出した饅頭とお茶をコトネの方に差し出した。


「あ、ありがとうございます」


 現実と仮想世界のギャップに打ちのめされていたコトネは差し出されたものに大した疑問を持たず受け取る。

 そして受け取った饅頭に口をつけようかとしたところで、ふと正気に戻り、疑問が浮かぶ。


「…なんですか? これ」


 カケルは饅頭を頬張りながら答える。


「ん、肉まんだけど…嫌いだったか?」


「いや、中身の話ではなくてですね…はぁ」


 そこでコトネは疲れたようにため息を吐いた。


「何で、いかにも出来立てのような肉まんとお茶が有るんですか!?」


 RPG的に考えて、持ち歩くようなアイテムと言えばポーションとか毒消し草だろう、というのがコトネの抱いていたイメージだ。

 食料系アイテムを持ち歩くにしても、野菜や肉など、キャンプに持つような食材本体を持ち歩くのが普通なのではないだろうかと思った。


「冬場は温かい食い物、夏場は冷たいアイスが必須だろ?」


 それに対するカケルの返答は、コトネの望んだ回答とは、ずれたものだった。

 どう質問したらいいのか分からなくなったコトネは一つずつ疑問を指摘することにする。


「あーもう、なんていうか…すでに出来上がった料理とかストレージに入れられるんですか?」


「おう、入れられるぞ」


「…入れてて傷まないんですか?」


「基本的に、ストレージの中に入れておけば賞味期限も消費期限もないな」


「……なんで温かいままなんですか?」


「アイテムは、格納した時点の状態が、いつまでも保持されるからな」


「………そう、ですか」


 聞けば聞くほど、この世界のアイテムストレージは便利なもののようだと、コトネは理解していく。

 しかしその一方で


(なんかイメージが崩れるなぁ)


 なんだか釈然としない気持ちが湧き上がってきていた。


 一つのシーンを想像してみればこの時のコトネの気持ちも少しは分かるだろう。

 場所は雪山のダンジョン。洞窟の中、外は猛吹雪で脱出は不可能。このままでは体力が無くなりゲームオーバー。

 そういう時にパーティーメンバーの誰かが言うのだ。


『寒いな。誰か温かいもん持ってない?』


『あ、俺、肉まん持ってますよ』


『私は、たい焼きがあります』


『どうせなら、みんなですき焼きでもしますか?』


 スリルも何もあったもんじゃない。

 シチュエーション的に危機的な状況であるはずなのに、それが微塵も感じられない。


 ちなみにこの世界、寒さなどよるダメージは通常の損傷によるダメージとは扱いが異なる。

 たとえば寒くて指がかじかんでいる場合、温めることで治るし、ダメージの方もそれに合わせて回復する。

 もっとも過剰な寒さで凍死や凍傷などの肉体的損傷が起こった場合は回復しないが。


「はぁー…」


 戦闘に関してはシビアなくせに、変なところで便利な機能があるという、製作者側の妙な気配りにコトネは呆れてため息が出た。

 これは自分の感覚がおかしいのだろうか、それともこのゲームの方が特殊なのか。

 そんなことで悩むコトネに対し、隣に居るカケルが声を掛けた


「喰わないのか? 冷めるぞ」


「…いただきます」


 もう、あまり深く考えるのはやめようと思い、手に持った肉まんを口にする。


 もぐもぐ、ゴクッ。

 ズズーッ。


 しばらく二人は肉まんを頬張り、時折お茶をすすりながらユーリの戦闘を眺める。


 戦闘フィールドで、目の前でボス戦を見ながら食事とか、全く緊張感のないシュールな光景である。


「これって、時間内に終わるんですか?」


 戦闘を見ていると、ふとコトネは疑問を感じた。


 見たところ、ユーリは、今までまともに攻撃をくらってはいない。

 しかし、それは回避に余裕があるという訳ではなく、むしろ余裕が無いからこそ、こちらも攻めあぐねているという様子だ。

 一応、少しずつHPが減ってはいるが、このペースではとても時間内に終わらないだろう。


「ん~、大丈夫だろ。ゲージがイエローになったら、あいつも出し惜しみする余裕なくなるだろうし」


「??」


 コトネは、どういう意味かと首をかしげる。


「ま、見てりゃ分かる」


 そう言って、二人は再び戦場に視線を移した。


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