32話 探り合い
すみません。
3週間もかけて、結局予定の半分程度までしか書けませんでした。
これ以上更新が遅れてしまうのもまずい気がするので、何とか比較的区切りのいいところまでを投稿いたします。
ツクモが案内されたのは、広い会議室のような部屋だった。
中央には大きな四角いテーブルと、それを囲むように配置された椅子。
既に外は明るいというのにカーテンは閉め切られており、室内を照らすのは天井に取り付けられた、白色の照明の光だけだ。
レンヤは入り口側にある椅子を一つ引くと、ツクモにそこに座るよう促し、自分は向かい合うように窓側の椅子へと腰かけた。
「それで、用件は何ですか?」
ツクモは椅子に腰かけるなり、すぐさまレンヤに問いを発した。
「その質問はちょっと不適当だね。
さっきも言ったが、僕の方に用事は無い。用事が有るのはむしろ君。その質問をするのはむしろ僕だ。
さぁ、君の聞きたいことは何かな?」
返された言葉にツクモはピクリと、僅かに目元をひくつかせた。
その理由は、無駄に長引かせるような話し方に苛立ったから、だけではない。
先ほどのロビーでのやり取りから、ツクモは自分にとって何らかの有益な情報をレンヤが握っていると考えていた。
だからこそ急いでいるにも関わらず、わざわざ場所を変えての対話を受け入れたのだ。
ツクモにとって問題だったのは、今のレンヤの態度でその情報が簡単に引き出せるものではないと悟ったからだ。
自分の方に用事は無い、などとレンヤは言っているが、それは嘘だろう。
ツクモは知っていた。目の前に居る男が、他人のために無償で行動するような、善意に満ちた人間ではないことを。
自分の欲する情報を餌に、何らかの要求をしてくるだろうことは予想していたが、今のレンヤの発言でその予想はほとんど確信に変わっていた。
(自分が聞き手に回って、会話の主導権を握るつもりか……)
相手に先に要求を口に出させようとする回りくどい話し方から、交渉を有利に進めようとする打算が感じられた。
「それじゃあ、本題の前に聞きたいんですけど……あなたはこちらの事情を把握しているんですか?」
交渉では焦ってしまえば負けだ。焦りや欲望、感情を表に出した時点で、それらは相手に足元を見られる要素になりかねない。
ツクモもそれが分かっていたからこそ、急いでいる状況でありながらあえて遠回しな質問から入った。
本来ならば、「マグナの居場所を知っているのか?」と単刀直入に聞きたかったところだった。
「ん~、漠然とした質問だね。
君の言う事情というのは、ここ最近のPK騒ぎが君たちの仕業だという情報のことを指してるのかな?」
(やはり、知っていたか)
ツクモにとって半ば予想していた答えではあったが、それでもはっきりと口に出されたことに内心で舌打ちしてしまう。
最近のPKに関して、ツクモ達は仲間内にも隠れてやっていたことだ。それが筒抜けであったことに、悔しさを感じざるを得ない。
「それに関してなら、とりあえず安心して良いよ。
少なくとも下の階に居る子たちは何も知らない。多分この支部で気付いてるのは僕だけだ」
安心しろと言われても、言葉通りにそうすることはできない。
他の大勢に知られることよりもただ一人、目の前の男に知られていることが、より厄介なことであるように感じたからだ。
(それにしても、どうやってそのこと知った?)
どうやってレンヤが自分たちの行動を知りえたのか、そんな疑問を浮かべるツクモに対し、その内心を読んだかのようにレンヤは言葉を発した。
「支部長として、部下の動向を把握しているのは普通だろ?」
プライベートな行動まで把握するのは普通ではないように感じたが、そのような指摘をする前にツクモは指摘するべきことがあった。
「それはつまり、今もマグナの居場所は把握していると?」
「もちろん。
知りたいのはマグナ君の居場所かい?」
「……ええ」
「僕に聞かなくても、マグナ君の連絡先ぐらい知っているだろ?」
(この男、分かって言ってるのか?)
いつまでも笑みを浮かべ続けるレンヤの口ぶりと表情から、何やら演技めいたものを感じたツクモは苛立ちを募らせる。
「連絡が付くようなら、わざわざここまで来ません」
「あ~……まぁ、昨日あんなことをしたばかりだし、怒るのも仕方ないねぇ。
さすがに剣で刺すのはやりすぎだよ」
「ッ! 見ていたんですか?」
ここで初めて、ツクモは驚いたような感情を表に出した。
いくら動向を把握しているといっても、二人だけの間で起こったやりとりまで知っているのは、さすがに予想外だ。
「けどまぁ、やっぱりマグナ君が悪いのかな?
君が憎まれ役になってまで警告したのに、ふてくされて勝手な行動をとるんだもの。
これじゃあ、『何が起こったって』自業自得だよね」
「どういう、意味ですか?」
見ていたのかという質問には答えず、焦らせるような話し方。
そして、まるでマグナに何かが起こっているかのような事を示唆する内容に、ツクモの中で落ち着きが失われていく。
「いや、別に深い意味はないさ。
元々僕らって、他の派閥から良い感情持たれてないし、マグナ君の場合、特殊なものを持ってるからなおさらだ。
一人でいる時に何かが起こっても不思議じゃないだろ?」
組織として、多くの人が集まった場合、その内部で意見の違いから複数の派閥に分かれることは珍しい事ではない。
そしてレンヤ達の居る組織もまた、内部で幾つもの派閥に分かれているような、大きい規模の組織だった。
ツクモはレンヤ達が、その組織内に置いて他の派閥から嫌われていることについては知っていたので、レンヤの言っていることについてはきちんと理解していた。
しかし、冷静にその事実を理解していながら、レンヤの言葉を聞いた瞬間に、ツクモの中にうっすらと寒気が走った。
たしかに、マグナには人から狙われるだけの理由はある。
それでも、だからといって実際に襲われる可能性など、日常的に心配するほどのものではない筈だ。
しかしツクモの耳には、レンヤの口ぶりがまるで、何かが起こる事を確信しているかのように聞こえていた。
「……マグナは、今どこに居るんですか?」
当初からの目的であった、マグナの居場所に関するストレートな問い。
ツクモの中では悠長に話を進める余裕などないようで、もはや会話の流れは完全にレンヤのペースだった。




