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Second Life Online  作者: 三日
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1話 大晦日の夜



 21世紀の後半、とある一つのゲームが世界中で人気となっていた。

 ゲーム名はSecond Life Online

 このゲームは、ゲームという枠を超えて、老若男女を問わず、多くの人間から親しまれた


 通常のVRMMOは基本的に戦闘を楽しむ者がほとんどである。

 しかし、SLOでは戦闘を楽しんでいるプレイヤーは全体の半数にも満たない。

 料理、服飾、スポーツに音楽、多種多様な楽しみ方ができるこの世界は、多くのプレイヤーからは、ゲームではなく、仮想生活空間と呼ばれていた。


 現実において社会的ルールや金銭的な問題から、容易にできないこともこの世界では気軽に楽しむことができる。

 車やバイクがいい例だろう。現実では車を買うには多額のお金が、運転するためには免許が必要となる。

 しかしこの世界では自由に乗り物を組み立て、乗り回すことができるのだ。


 更にこの世界では多種多様な文化が混在している。

 石造りの西洋風の街もあれば、コンクリートでできた近代的なビル群の街も存在する。

 各々が自分の好みの環境で生活を楽しむことができるという圧倒的な自由度。


 それらの要因からSLOという存在は、発売されてわずか数年で、世界中の人間に親しまれるようになっていた。




 大晦日の夜、多くの人でにぎわう西洋風の街の中、白いコートを着た一人の少年が歩いていた。

 歳は16・17くらい。触角のように少しはねた髪が、多少子どもっぽい印象を与えている。

 少年の髪と肌は白く、瞳の色は赤く染まっていた。

 その外見から少年がアルビノであることが見て取れる。


 もしここが現実世界であるならば周囲から珍しいものを見る視線が集まっていたことだろう。

 しかしここはゲームの中だ。

 プレイヤーの外見を自由に変更できるこの世界において、彼のような外見は珍しいものではない。

 そのため注目を集めることもなかった。


 少年がしばらく歩いていると、後ろから声がかけられた。


「おーい、ユーリ」


 ユーリと呼ばれた少年が振り返ると、赤髪の青年が軽く笑みを浮かべながら近づいてきていた。

 青年の髪は全体的に鋭くハネており、活発的な印象が見受けられる。



「カケルか」


 青年の姿を認識したユーリは彼の名前を呟いた。

 そして赤毛の青年、カケルはユーリのすぐそばまで近いて声をかける。


「よう、奇遇だな。まさか大晦日にお前に会うとは思わなかったわ」


 カケルの発言に対してユーリは疑問を浮かべる。


「そう? 別に知り合いに会うくらい、珍しい事でもないと思うけど?」


「そりゃ、普通の日ならそうだろうけどよ、今日は大晦日だぜ。

 ふつう、お前くらいの歳の奴は家族と過ごすもんだろ」


 たしかにその通りだ。現在では仮想世界内で年を越すものも少なくはないが、夜の通りを一人で歩く少年などなかなかいないだろう。


「ん~、まぁ、ウチは基本的に放任主義だからね。特に一緒に過ごしたりすることは無いんだよ。

 そういうカケルはどうなのさ」


「俺ん家は学生寮で親元からは離れてるからな。問題ない」


 カケルは威張るようなことでもないのに胸を張って答えた。


「友達とお参りとかには行かないの?」


「お前が住んでる所じゃどうか知らないけど、こっちの地域じゃ結構な吹雪になってんだよ」


 肩をすくめながら残念そうにカケルは言う。


「そんでまぁ、一人でテレビにかじりついてるのもなんかなって思ったからこっちに来たわけだ。お前は?」


「僕の方はこれからクエスト。前から予約入れてたんだ」


「予約制のクエストって言ったらあれか? 大晦日限定のおみくじクエスト」


 SLO内ではあらかじめ予約していたプレイヤーしか受諾することができない、人数制限つきのクエストが幾つかある。

 七夕やクリスマスなど時期限定のイベントクエストはたいてい予約制で、今回二人が話しているのもそういったクエストの一つだ。


「そうだよ。ああ、良かったらカケルも行く? 話を聞いた限り暇なんでしょ?」


「あ~、どうすっかな。……ちなみに難易度は?」


「一応、最高レベル」


「うわ、それじゃあ俺が参加しても死ぬだけじゃね?」


「大丈夫だよ。ボス以外は大して強くないし、ボスは僕が戦うから。

 それに仮に死んでも、このクエストでデスペナルティとかも無いしね」


 通常、戦闘で死亡した場合、所持金の一部と、さらに特定の条件下では装備品のドロップがペナルティとして発生する。


「お、そうなのか。なら参加してみるかな……。他のメンバーは許してくれるのか?」


「うん。参加するのは僕と妹だけだから問題ないよ」


「え? お前、妹とか居たの?」


「まぁね。それでカケルには、僕が離れて戦ってる間、妹の面倒を見ていて欲しいんだよ。

 あの子、最近このゲームを始めたばっかりであんまり強くないからね」


「はぁ!? なんで初心者を高難度のクエストに連れてくんだよ?」


 カケルは馬鹿じゃねぇの? と言いたげな様子だ。


「自分が初心者だった時のことを思い出してよ。初めてモンスターを見た時どう思った?」


 ユーリがそういうとカケルは考え込み、しばらくすると納得した様子になる。


「ああ、なるほど。実際に戦闘シーンを見せて度胸をつけさせようって事か?」


 SLO内で戦闘を楽しむプレイヤーが多くない理由の一つとしてモンスターの外見があげられる。

 仮想世界であるこの世界においてモンスターの外見は、実際に生きていると言われても普通に信じてしまえそうなほどにリアルに表現されているのだ。


 自分より巨大なモンスターの威圧感による恐怖。

 毒々しい色のカエルや虫、ゾンビなどによる生理的嫌悪感。

 戦闘はお金を稼いだり、ステータスをアップさせるための効率的な手段であるが、その効率性を踏まえても、それらのモンスターと好き好んで戦うプレイヤーはあまり多くない。


「そういうこと。今回のクエストで出るスピリット系モンスターとか大して強くないわりに、結構怖い外見だからね」


「それでも普通、最初は町周辺のモンスターで慣れさせるべきじゃね?下手すりゃトラウマになるぞ」


「大丈夫、大丈夫。怖い敵でも蹴散らされていくところを見れば怖くもなくなるって」


「……お前って、意外と身内には厳しいのな」


「ん、そうかな?」


 ユーリとしては厳しいつもりは無いのだが、第三者からすれば最高レベルのクエストを初心者の度胸づけに使うなんてスパルタとしか思えない。


「まぁ、いいや。広場の時計前で待ち合わせてるから早く行こう」


 これ以上雑談を続けていては、待ち合わせに遅れると思ったのでユーリは会話を切り上げて歩き始める。


 二人がしばらく歩いていると大きな時計塔のある広場に着いた。

 ユーリは周囲を見渡し目当ての人物を発見するとベンチに座っている少女の方に歩いていく。

 少女の髪は長く、腰ほどまである。ユーリの髪とは正反対の黒色の髪だ。


 ユーリは少女のすぐそばまで近寄ると声をかけた。


「ごめん。待たせちゃったかな?」


 ユーリは申し訳なさそうに言う。

 来る途中のカケルとの会話が長引いたため、待ち合わせの11時半には間に合ったものの、ぎりぎりの到着となってしまった。


「ううん。私も途中道に迷って、着いたのはついさっきだから。あんまり待ってないよ」


 ユーリの謝罪に対して少女は気にしないで、という風に笑った後、視線をユーリからその隣に居たカケルへと移した。


「ああ。紹介するね。こっちはカケル。僕の友達で今回のクエストを手伝ってくれることになったんだ」


 ユーリが目の前の少女に対してカケルの紹介をするとカケルは軽く頭を下げる。

 そして今度はカケルの方に向き直って少女の方の紹介を始める。


「それで、こっちの娘が僕の妹で、名前はコトネ。

 さっきも言ったけどSLO初心者だから、良かったら色々と教えてあげて」


 ユーリの紹介に合わせてコトネもカケルの方を向いて挨拶をする。


「コトネです。始めたばかりで色々とご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」


「お、おお。カケルだ。こちらこそよろしく頼む」


 コトネを見てカケルが思ったのは、まず大人しく礼儀正しそうな様子から育ちがよさそうだという事。

 次に思ったのが、ユーリと兄妹のわりにあまり似ていない、ということだ。


 仮想世界のアバタ―を設定する場合、デフォルトの状態では現実の姿と同じ状態。そこから顔のパーツや体形などを改良していくことになる。

 そのため、たいていの場合は現実の面影が残るのだが、そのことを踏まえてもユーリとコトネはあまり似ていないように思えた。

 しいて似てるところと言えば、華奢な体形ぐらいだろうか。


 自己紹介が済み、会話が途切れたところでユーリはクエストについて話を切り出した。


「今回のクエストなんだけど、カケルは今まで受けたことないんだよね?」


「ああ。今回が初挑戦だな」


「そっか、それじゃあ二人とも初めてってことだし、簡単にクエストの説明をしておくね」


「おう、頼む」


「まず11時45分になったら目の前にメッセージが表示される。

 その中の転移ボタンを押したらフィールドに跳んで、そこからすぐに戦闘開始になる。

 クリア条件は敵の全滅。ボスは僕が戦うし、フィールドの敵全てを倒すまでは出てこないから気にしなくていいよ。

 僕はフィールドのあちこちを走り回って敵を倒すから傍には居られない。

 とりあえずカケルは近づいてくる敵を倒すことに集中してくれたらオッケーだから。

 コトネの方は、僕らが戦っているところを見て勉強してね」


 二人に何をすればいいのか簡単に説明するとコトネが若干沈んだ様子で口を開く。


「なんだか私、足手まといにしかならないような気が……」


「気にすることないよ。このゲームって初心者にはあまり優しくないからね。

 熟練のプレイヤーに追いつこうと思ったら、誰かに協力してもらわないことにはほぼ無理なんだから」


 二人の会話を聞いていたカケルは疑問に思ったことがあったので聞いてみた。


「えっと、コトネ……さんは戦闘職を目指してるのか?」


「あ、はい。もともと動画で見た戦闘シーンに憧れて始めたので。

 あと、呼びにくいのでしたら呼び捨てでいいですよ?」


「お、そうか。それじゃ、そうさせてもらうわ。にしても動画か……」


 SLOでのプレイヤーの戦闘は仮想空間であればこその、人間離れした動きが可能となるため見栄えが良く、多くの人間を魅了する。

 そのためプレイヤーの戦闘シーンは人気があり、多くの動画サイトでアップされている。

 更に出来がいいものとなると企業が広告として採用し、CMになるものもあるほどだ。


 しかし、そう言った動画の多くは上級者プレイヤーの戦闘であり、彼らと同じ動きができるようになるためには年単位で時間が必要となってしまう。

 はたして目の前の少女がそこまで強くなれるものかと、カケルは思った。


「さて、もうそろそろ時間かな?」


 時計は11時43分を指し、残り一分ちょっとで時間になる。

 三人がしばらくそのまま待っていると鐘の音が響き、目の前にメッセージが表示された。


###これから大晦日限定クエスト、《七福神の加護》が開始されます###


【ミッション内容】

 ダンジョン内の本殿に存在するボスと戦い、勝利してください。

 本殿への扉はダンジョン内の四方にある塔の頂上のレバーを操作し、ダンジョン内全域に居る108体のモンスターを倒すと開かれます。


【注意】

・このクエストを受諾すると、クリアするか、1月1日午前1時00分になるまでダンジョンから抜けられません。

・このクエストでは七体の七福神の内、ランダムで一体が選択され戦うことになります。

・クエストの途中で敗北、及び制限時間を過ぎた場合はその時点における途中結果から報酬が決定されます。

・このクエストでは死亡してもデスペナルティはありません。

・下記にある転移ボタンを押すとイベント会場に転移します。すぐに開始しない場合はキャンセルを押してください。

 なおキャンセルされた場合、1月1日午前1時00分までならば各都市に存在する転移装置から転移することができます。


――――――――――


 メールの内容を確認したユーリが転移ボタンを押すと、三人はその場から一瞬のうちに消え去った。





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