鈴の音 【シナリオ形式】
鈴木:鈴木一成。元スリ師で前科一犯。右手に鈴を付けている。ニヤニヤしてる感じ
の、中年~初老であまり目立たない感じの無気力サラリーマン風の男。
西垣:西垣孝史。ヨレヨレのコートを着た老刑事。鈴木より歳上。
若僧ども(A/B/C):生意気ざかりの若僧ども。
男A:被害者(回想)
男B:被害者(現在)
野次馬:自殺現場にいた野次馬の一人。
[1]
□
チリー…ン
鈴が鳴る。
□ そこは電車内。
席に腕組みし居眠りしている男。(鈴木)
右手首に小さな鈴をつけている。
□
その横で、煙草や携帯を手にくっちゃべってる若僧ども。
□
鈴木は薄目で若僧どもを見ている。(寝たふりしている。)
リー…ン
□ (擬音で繋ぐ)
若僧の一人のポケットに財布が見える。
[2]
□ 扉絵。
T「鈴の音」
モノローグ「ハコ師・鈴の音。前科一犯。」
(欄外注:*「ハコ師」電車内専門のスリ氏)
□
バシュゥゥゥ……
扉が開き、降りた若僧どもと入れ替わりに西垣が乗ってくる。
[4]
□
西垣「!」「よう。鈴の……鈴木じゃねえか」
□
西垣、鈴木の隣に座り
西垣「まだ『シゴト』してんのか?」
鈴木「とんでもない。」
□
鈴木、右手首の鈴を見せて
鈴木「このとおり、私ゃあ、引退したんですから。」
リン…
□
西垣「『鈴の音』と通り名で呼ばれた凄腕のハコ師が、今や『鈴付きネコ』かい。」
「ま、仮に引退めてなかったとしても、俺達にゃ言えねえやな。」
西垣、苦笑いしながら胸ポケットの警察手帳(または手錠)をしまい直す。(さり
げなく)
[5]
□
西垣「そういや会社も辞めたそうだな。どうしてるんだ、今?」
鈴木「失業保険でなんとか食えてます。」
□ 線路。
西垣の声「よくねえなあ。まだ働けねえ歳でもないだろ。」
鈴木の声「ははは。」
プァァァン・・・
電車が走り去っていく。
(バブルアウト)
□ (バブルイン、以下回想)駅のホームの雑踏。
アナウンス「……は、支障事故により遅れております。ご迷惑をおかけいたします。」
人垣ができてるが、そこへ鈴木が通りかかる。
□
野次馬の中に鈴木が混ざる。
鈴木「なにかあったんですか?」
野次馬「自殺だそうですよ」
[6]
□
野次馬の声「何も電車に飛び込まなくてもねえ……死んでまで迷惑かけないでほしい
もんです。」
駅員や保線区員、警官などが線路に。
死体は担架に乗せられ、毛布をかぶされている。が、左手がはみ出ている。
□
左手に腕時計。
□
鈴木はそれを凝視。
□ 小さなラーメン屋、夜。
カウンターで鈴木は食い終わったばかり。
TV「……駅で、失業したサラリーマンが自殺しました。」
[7]
□
TV「消費者金融で借りた現金をスリとられたことが直接の動機とみて、警察は
調査を続けています。では次のニュース。」
□
鈴木、ボーッとTVを見ている。
□
ガラ・・・
声(やる気なさそうに)「らっしゃいやし~。」
西垣は入ってくるなり鈴木に気づいて、
西垣「お、『鈴の音』かい。」
□
西垣、煙草を取り出して隣に座りながら、
西垣「おめえは証拠を残さねえなあ、いつも。」「あそこはおめえの縄張りだ。きっ
と事件に絡んでると思うんだがな。まあ、いつか尻尾を掴んで……。」
鈴木(TVを観たまま)「西垣の旦那。」
[7]
□
鈴木(TVの方を観たまま)「自首ってのは……どういう手続きがいるんですかね?」
□
火を付けてない煙草を口に、鳩が豆鉄砲食らったような顔。
西垣「……は?」
(回想終了、バブルアウト)
□ 電車の中。
西垣「なんであのとき自首したんだ? ホトケ心か?」
鈴木「ホトケ心?」
□
鈴木「生き馬の目を抜く東京ですよ。スリに遭うのは油断してるから。抗議のつもり
の自殺なら、お門違いです。」
□
西垣「じゃあなぜ…」
[8]
□
鈴木「さあ……疲れたからですかね。」
西垣「疲れた…ねえ。」
西垣、なんとなく煙草を取り出す。
□
リー…ン
鈴が鳴る。
□
西垣、自分の手に何も無いことに気づく。
□
鈴木、西垣の煙草を手に、
鈴木「旦那、電車では禁煙。」
[9]
□ 電車が走って行く。
プァン!
□ (場面転換)町中、小道。
鈴木が背中を丸めて歩いている。
□
鈴木、ふと気づく。
□
例の若僧どもに、物陰へとつれて行かれる男B。
男B、オドオド。
□
鈴木(心の声)「やれやれ…暴力で金を奪うなんて、美しくねえなあ、最近の若…」
□
男Bの手に、見覚えのある腕時計が。(男Aのもの)
□
鈴木、がく然。
[10]
□
若僧ども、男Bを取り囲んで脅迫中。
ビビりまくってる男B。
□
後ろから来た鈴木、
ドン
鈴木「ごめんよ。」
□ (小コマ)
鈴が鳴る。
チリン!
□
若僧A「…おい、まてよオッサン」
[11]
□
ダッ!!
鈴木、走り出す。その手には、これみよがしに若僧の財布が。
若僧の声「あっ、俺のサイフ!」
□
若僧たち「待て!!」
鈴木は逃げ、若僧たちが追う。
□
鈴木(心の声)「被害者は……逃げたな。よし。」
□
若僧たち、走りながら
若僧A「おい、こっちは行き止まり…」
若僧B「ヘッ、バカめ」
□
鈴木、息が荒い。
[12]
□
鈴木、裏通りで若僧たちに捕まって、ボコボコ蹴りまくられてる。
若僧たち「オラオラ!」「ふざけんじゃねえぞ、スリ野郎!」
□
鈴木、殴られ蹴られながらも満足そうな微笑。
□
そのとき、若僧たちの後ろから、
西垣「こらっ、ガキども! なにやってんだ!」
[13]
□
若僧C(スゴんで)「何だよ、てめえはよ!」
西垣「こういうもんだ。」
西垣、胸ポケットから警察手帳を出す。
□
西垣「おまえらみんな、暴行の現行犯…あっ」
若僧たち「やべぇっ!!」
ダッ
若僧たち、一斉に逃げ出す。
[14]
□
西垣、座り込んでる鈴木に手を出し
西垣「世話のかかる奴だ、ほれ」
□
鈴木、上目遣いに
鈴木「助けてくれたあ言ってませんが。」
□
西垣、鈴木を助け起こして
西垣「怪我人ほっといてあいつらを追いかけるわけにいかないだろ。」
□
鈴木の服の汚れをはたきながら
西垣「落ちたもんだな、凄腕のスリ師が。やっぱ鈍るかい。」「それにしても困った
ぜ。おめえ一人じゃ調書もろくにとれねえ。」
[15]
□
鈴木「そうですか。じゃ、ほら。」
西垣「何だ?」
鈴木、何かを西垣に渡す。
□
チリー…ン (心理音)
それは、腕時計。
西垣、驚く。
鈴木の声「時計の遺失物届けがあったら、そいつが被害者です。」
□
西垣「鈴の音、てめえ……」
西垣、鈴木に掴み掛かる。
鈴木「おおっと! 私は落とし物を届けただけですよ?」
□
顔を引きつらせて見ている西垣。
リー…ン
□ (擬音で繋ぐ)
緊張した微笑の鈴木。
[16]
□
西垣、溜息。
西垣「…一杯、飲ませてやる。つきあわねえか?」
□
鈴木も溜息を吐いて
鈴木「いいですよ。オゴリならつきあいます。」
□
鈴木「今日はずいぶんと裕福なようですから。」
鈴木、笑いながら背を向け、膨らんだ札入れを西垣に放る。
西垣(慌てて)「あっ、俺の…てめえっ!!」
□ (小コマ)
鈴が鳴る。
チリー…ン
~~~ 「鈴の音」完
もともとは『マリオネット師』(小山田いく)の三次(=二次の二次)創作でしたが、一次作の要素が完全に消えたので、オリジナル作品として公開しました。
二次創作のオリジナル脇役を主人公にするって、他にもやってますけどけっこう書きやすいっすね。