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私の旦那様達は魔物です。  作者: 春夏秋冬巡
二章 新婚生活の始まりです。
9/11

一話

 契約から一週間、修行は休みに入った。

 畑仕事や家畜の世話と家事はするが、後は契約した魔物とのコミュニケーションの時間。

 会ってから日が浅くお互い知らないことが多いため、信頼関係を築くのは修行をしながらは難しい。

 神殿にいられる期間は半年しかない。

 魔女達はそれぞれ、自分の契約した魔物達と向き合うことになる。




 二人きりでいるのは慣れない。

 朝食を取ってから部屋に自分と相手だけという状態に、小百合の心臓は早鐘を打って落ち着くことができない。

 鏡を見なくても分かるくらい顔は真っ赤だろうし、やや俯き加減になって柊の顔を真正面から見れないでいるのも自覚はある。

 自室で向き合って座っているなんて、体験したことはないがお見合いみたいな雰囲気で緊張する。

「私の可愛い奥さん。どうかしましたか?」

 柔らかい微笑を浮かべながら柊が首を傾げる。

 いちいち様になる仕草に、小百合の胸はキュンキュンときめく。

 ああ、こんな素敵な人、いや魔物が自分の旦那様だなんて……。

 うっとりどこか思考が飛んでいきそうなのを堪え、小百合は早口で捲し立てる。

「な、何でもないでふ。えっと、ひ、ひひ柊しゃんは、わらひとの契約前、何をしてましたきゃ?」

 上手く口が動いてくれず、お酒を飲んで酔っ払ったかのように噛みまくる。

 穴があったら入りたい。

 ほとんど泣きそうな表情になる小百合に柊は苦笑する。

「落ち着いてください。緊張する必要はどこにもありません。私達は夫婦なのですから」

 宥められて、ようやく目を上げる。

 地球にいた頃の自分では信じられないが、目の前の紳士とは夫婦なのだ。

 そういう契約を小百合達は交わした。

「さて、小百合さんとの契約前、ですか。真名から分かると思いますが、私は二人の人間と契約していました」

 魔物の真名は人間のものと違い、契約を交わす度に長くなっていく。

 柊のフルネームは、ツァルアードット・エグス・デリア・柊。

 真名の最初と最後の間、つまりはツァルアードットと柊の間に二つ名がある。

 この二つは小百合より前に誰かが柊と契約していた証だ。

「始めは魔物使いの卵と契約しました。短期契約だったんですが、もう少し人間の世界を知りたくて長期契約を結びました」

 柊の昔話に小百合は興味津々で耳を傾ける。

「二人目は兵士です。丁度、戦争の最中さなかで、数え切れないほどの軍功を上げました。主が亡くなった後も国に残り、教官として兵士の訓練をしていました」

「契約はしなかったんですか?」

「そうですね。しませんでしたし、必要ありませんでしたから」

 必要がないとはどういう意味だろうか?

 不思議そうな表情をする小百合に柊が答えてくれる。

「二人目の主が身分の高い方だったんです。遠慮もあり、契約を申し出てくる人間はいませんでした。ですが、契約をしなくても構わないからここで働かないかと勧誘されまして」

 懐かしそうにはにかむ姿に、小百合の心は奪われる。

 やっぱり、柊が好きだ。

「時が経つにつれて、当たり前ですが部下達は老いていきます。もしくは、戦いで死んでしまいます。部下の子どもが同じように私の部下になり、同じような末路を辿ります」

 魔物の一生は人間とは違い長い。

 柊も小百合が考えるよりもずっと年上なのかもしれない。

「たくさんの人間が死んでいくのを見てきました。私は人間が好きですが、魔物と人間の寿命はどうしても超えられません」

 急に柊の瞳が陰ってくる。

 大きく見えていた体は小さく見え、私が守ってあげないとという気持ちにさせられる。

 柊は寂しいのだ。

 周りがどんどん自分を取り残していなくなってしまうことが。

 小百合なら死なない限り一緒にいることはできるが、果たして魔物の寿命はどのくらいなのだろうか?

 長寿だと習ったが不老ではない。

 柊の部下達のように、小百合も置いて逝かれるかもしれない。

 暗い考えが頭の中を支配していると、柊が小百合の両手を包み込み、真剣な表情で真摯に告げた。

「私との子を産んでくれませんか?」

「え?」

「愛しい貴女は笑うかもしれませんが、私は死というものが怖いです。もし、私が死んだら、貴女一人を残してしまう」

 背筋が冷たくなる。

 一人残されるのは嫌だし、柊を失うのは恐い。

「想像しただけで、心配で心配で……。恐ろしくて身が裂けてしまいそうな気持ちになりますが、私と小百合さんとの間に子どもができれば不安は和らぎます」

「子どもって、あの」

 榎奈から聞いたが戸惑ってしまう。

 人間と魔物の子どものでき方は違うし、小百合には出産経験もないので子育ての知識もない。

 きちんと子どもを育てられるのかが不安だが、何故柊が子どものことを話題にするのか理解できない。

「はい。子どもは親である私の分身のようなものです」

「分身?」

 意味が分からず聞き返す。

「人間の子どもと違い、魔物の子は男親の性質を濃く受け継いできます。容姿も能力も親と同じなので、親から見れば子どもは分身のようなものなのです」

 アメーバみたいな分裂を思い浮かべるが、すぐに首を振って想像を打ち消す。

 目の前にいる柊がファンタジー世界お決まりの精霊で魔物なのだが、見た目は見目麗しいと前置きはつくが人間にそっくりな容姿をしている。

 アメーバみたいに分裂したら、いくら格好良いと言ってもホラーなので遠慮願いたい。

「ただし、子どもは親よりも確実に強くなります。私が死んでも息子が貴女を守ってくれる。ですから、どうか私との子を」

 切実に哀願する柊を見て、反射的に小百合は頷いていた。

 自分のことで手一杯だが好きな人の願いは叶えてあげたいし、愛しい夫との子どもなら可愛いに決まっている。

 不安はあるが柊が自分に対して酷いことをするなどないと、ほぼ初対面なのだが小百合は確信していた。

「ありがとうございます。これを」

 柊の手からオレンジがかった茶色い米粒大の石が生まれる。

 驚く小百合に柊はさらにパニックになりそうな行動を取る。

 反対側の手の親指を噛み切ったのだ。

「な、何を!」

 慌てて手を伸ばす小百合とは反対に柊は落ち着きながら、先ほど生み出した石に血を滴り落とす。

 不思議なことに血は石の中に吸収され、表面には赤い液体は付着していない。

 見た目は変わっていないのに、先ほどの石とは存在がまるで違う。

 息を飲み恐々(こわごわ)と警戒しながら眺めていると、柊が小百合の手に乗せてくるので覚悟を決めていなかったため非難じみた目で見てしまう。

「大丈夫です。この子は種珠しゅじゅと言って、卵珠らんじゅになる前の子どもの姿です」

 人間に例えるなら種珠は精子で宝具が卵子。

 種珠を宝具に入れると受精になり、卵珠で胎児になった状態のことを指す。

 自分達の子どもだと思うと、オレンジがかった茶色い石の種珠が尊いものに見え、又重圧がかかってくる。

 震える手で宝具であるロケットペンダントの中に入れると種珠が脈打つと、確かな「生」を感じさせてくれる。

えも言われぬ感情が込み上げて、涙を流す小百合の頬を柊が拭ってくれる。




 夫婦生活は始まったばかり。

 これからが大変になるが、柊と生まれてはいないけど自分達の子どもとならきっと大丈夫。

 明るい未来を夢見て小百合は今の幸福を噛み締める。


漸く二章スタートです。

相変わらずタイトルが酷いところはスルーして下さい。

今回は妊娠?です。

これの説明で時間がかかりました。

上手く伝えられたか不安ですが、今のところの精一杯です。


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