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私の旦那様達は魔物です。  作者: 春夏秋冬巡
一章 異世界にて魔女になっちゃいました。
8/11

八話

 空は清清しいほど気持ちの良い快晴で、魔物と契約するのを祝福してくれるように感じる。

 始めに魔法陣の中に入ったのは桜花。

 呪文を唱えていないにも関わらず、陣は淡く発光している。

 魔力量が多い証拠だ。

 羨ましいと思うが、もう嫉妬するのは止めた。

「開け、無数に存在する扉よ」

 詠唱を開始すると、どことなく水の香りが漂ってくる。

 順番はジャンケンをして決め、小百合は一番最後になった。

 魔法陣の中に少年や青年が五人現れた。

 水の精霊らしく、全体的に青っぽい。

 桜花は胸を反らして腰に手を当て、呼び声に応えた精霊を見渡す。

 全員をくまなく嘗め回すように見て、一番背の低い少年で視線が留まる。

 無遠慮に見られて居心地悪そうに困った表情をする少年に、満足そうに桜花は頷き笑う。

「あたしと契約を結びなさい。まずは、短期契約でいいわ」

 少年を指すと、他の精霊達の姿が消える。

 ただ一人になった少年は嬉しそうに首を縦に振り、小百合には聞こえなかったが真名を名乗った。

 桜花も応えるように真名を名乗るが、魔法陣の影響なのかやっぱり聞こえない。

「ノルアールでは真名が大事だからねぇん。聞こえないようにフォローしてるのよぉ」

 横から榎奈が説明してくれる。

 その後、柳美、桃花と順調に契約をし、とうとう小百合の番になった。

 魔法陣の上に立つ。

 緊張の為か足が震えるのを叱咤して、腹の底から大きな声を出す。

「我が呼び声に応える者よ、扉を潜り我が元に出でよ」

 眩しい光と共に扉が開く。

 目を開くと魔法陣の中に、陣が見えないくらいびっしりと人型の精霊が集まっている。

 あまりの数の多さに慌てて、助けを請うように榎奈を見ると楽しそうに笑っている。

 魔法陣の外部と内部が遮断されているので声は聞こえないが、「頑張ってねぇ」と一応形だけは応援してるものの、人事だと思って面白がってるのは一目瞭然だ。

 がっくりと肩を落としてどうしようかと思案してたじろいていると視線を感じた。

 精霊達が興味津々と言った風に小百合を見ている。

 魔物と言う種族は人間の女性に好意を抱かれるようにと皆容姿が整っている。

 芸能人にスカウト間違いないくらいの美形から熱い視線を受け、小百合は恥ずかしさと居た堪れなさで、直視することができない。

「小百合、目を逸らしちゃ駄目じゃない!」

 桜花に怒られて視線を上げる。

 耳まで真っ赤に染めながら、耐えるように眉を寄せて周囲を見渡すと一点で視線が止まる。

 集まった精霊の中で一番年上の姿で、年齢は五十代から六十代くらい。

 左目に眼帯をして百八十には届かないだろうけど長身だ。

 背は曲がっておらず、シャンと真っ直ぐに伸びている。

 柔和な表情をしているが、武人っぽい雰囲気がして強そうだ。

 何よりも、今まで見た中で一番格好良い。

 普通の老人だったなら「お爺さん」と言うのに、この精霊には「お爺様」と思わず様付けしてしまうくらい。

 優しそうな目と小百合の目が交わる。

 途端に体に電流、いや、それよりも激しく稲妻が走った。

 彼が欲しい!

 彼でなければならない!

 他の精霊など目に入らなかった。

 目線が逸らせず、心が叫び求める。

「私、私、あの、貴方と」

 言葉がつっかえてなかなか喋れないのがもどかしい。

 告白など中学や高校以来。

 元々奥手だったので、恋愛経験も乏しい。

 それでも、精一杯の思いを相手に伝えようと口を動かす。

「貴方と契約を」

「お嬢さん、私と婚姻契約を結んで下さい」

 小百合の言葉を遮り、精霊が跪いて恭しく婚姻契約を申し込んでくる。

「私とで、いいんですか?」

 目を見開き頬を染める小百合に、精霊は重々しく頷く。

「はい、貴女がいいのです。どうか、お嬢さん。私の申し入れを受けて下さい」

 断るという選択肢などある筈がない。

 考える間もなく小百合は頷いた。

「はい」

 申し込みを受けた途端、周囲の精霊達の姿が消える。

 陣の中で二人っきりになる。

「私の真名を愛しい貴女に捧げます。ツァルアードット・エグス・デリアと申します」

「ツァルアードット・エグス・デリア?」

 聞きなれない名前なのにすんなりと口にできる。

 一目見たときから、何となくそんな感じの名前だと思っていたからなのかもしれない。

「そうです。そして、私に新しい名を下さい。貴女のモノだという証しを」

 契約魔法は相手の真名を握った後に、新しい名を与えて他者に真名が分からないように隠す。

「柊」

 ポツリと言う。

 今まで色々と考えていたが、ふと出てきたのは違う名前だ。

 小百合が名前の中に百合と植物の名があるし、柊という名も植物なのでお揃いみたいで良いかもしれない。

「柊と言う名はどうでしょうか?」

 浮かれるのを押さえながら、旦那様になる精霊に尋ねる。

 もし、嫌だと言ったら別の名前にしよう。

 眉を下げて自身なさそう表情をする小百合に、精霊は立ち上がり抱きしめてくれる。

「ありがとうございます。愛しい貴女が決めた名なら、私はどんな名でも嬉しいです」

 精霊が、柊が喜んでいるのが伝わってくる。

「お嬢さん、貴女の名をまだ教えてもらっていません」

「私の名は前田小百合です。小百合って呼んでください」

 照れくさそうにはにかむ。

「分かりました、小百合さん」

 じんわりと胸の奥が温かくなってくる。

 見詰め合っていると自然と二人の距離が近くなっていく。

 当たり前のように口付けを交わすと、見えない鎖が小百合と柊を結ぶ。

 原理など分からないが、確かに契約は成されたと小百合は感じる。




――これが、小百合の最初の旦那様との婚姻契約だった。



一章完結です。

ど、どうでしょうか、柊さんは?

お爺様って言ってますが、私的なイメージはとあるゲームの武人さんです。

でも、あの人の場合はお爺様と言うよりも小父様ですが。

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