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私の旦那様達は魔物です。  作者: 春夏秋冬巡
一章 異世界にて魔女になっちゃいました。
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七話

 目が覚めるとベッドで横になっていた。

 立ち上がろうとして上半身を起こすと、ハンカチほどの大きさの布が落ちてきた。

 手に取るとまだ湿っぽく、テーブルには水の入った洗面器が置いてある。

 額に触ってみると少し濡れていて熱い。

「どうして?」

 自分の状態が把握できず、足を地面につけようとして上手く体に力が入らない。

 ノック音が聞こえて、桜花が入ってきた。

「小百合? 目覚めたのって、何してんのよ! 大人しく寝てなさいよ」

「あの、私、どうして」

「畑仕事行く途中で倒れたの。で、今日はそれから三日後。熱出して意識なかったのよ」

 床に下ろしていた足をベッドに戻され、掛け布団に落ちていた布を取り洗面器の水につける。

 されるがままになりながら、小百合は何となく思い出す。

 夜に寝付けなくて、朝、畑仕事の時間になり行く途中で倒れた。

 薄れゆく意識の途中、桜花の声を聞いた気がした。

「ありがとう、桜花が助けてくれたんだよね」

「当たり前。今、何か食べれる?」

「うん、水くれる?」

「分かった。大人しくしてなさいよね」




 一週間経っても、小百合はまだベッドの中にいた。

 その間、桜花達は代わる代わるお見舞いに来てくれる。

 花瓶に生けられた花だってそう。

 綺麗な花を摘んできてくれてわざわざ飾ってくれた。

 食の細くなった小百合のために食べやすい果物を探して切り分けてくれた。

 体調が良くなるように魔法薬だって調合してくれた。

 気遣いは嬉しいが重く感じる。

 小百合は皆にそんなことをしてもらう価値などない。

 騙しているわけではないが、心配するほど調子は悪くないのだ。

 少々無理をすれば動けるので、武術や家事を控えめにやれば日常生活に支障はない。

 溜め息を吐く。

 心配してくれる桜花達や教えてくれる榎奈には悪いが、小百合は今ホッとしている。

 これで、契約魔法をやらなくて済む。

 先延ばしにしているのは分かっているが、どうしようもない程怖いのだ。

 契約できなかったら自分をどう保っていけばいいのか分からない。

 答えを出すのが恐ろしくて堪らない。




「小百合ちゃん、調子はど~お?」

「……すみません、まだ、ちょっと」

 言葉を濁して俯く。

 この会話も何度繰り返しただろうか?

 申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「ねえ、小百合ちゃんは何をそんなに怯えてるのかしらん?」

 いつもくれる言葉とは違うものに体が強張る。

「べ、別に私は」

「でも、体が震えているわぁ。大方、契約のことで悩んでいたのかしらぁ?」

 図星を受けて唇を噛む。

 もしかしたら、最初から榎奈にはお見通しだったのかもしれない。

「それと、桜花ちゃん達のことぉ」

 やっぱり、分かっていたのだ。

 米神の辺りに冷や汗が滲む。

「あたくし、小百合ちゃんの気持ち分かるわぁ」

「嘘吐き!」

 今までに上げた事のないくらい大きく叫んだ。

 榎奈に小百合の気持ちなど分かるわけがない。

 まなじりを吊り上げて睨みつける。

「わ、私なんかと違って、色々とできるのに、分かるわけないじゃない?! 私の惨めな気持ちが絶対分かる筈がない!」

 目頭が熱く、涙が零れる。

 理性が溶けて二十四歳の大人なのにみっともなく泣き喚く。

 顔は涙でグシャグシャだし、鼻水も垂れてきている。

 内にしまいこんでいた感情が爆発して、上手く制御ができない。

「でも、小百合ちゃん。貴女はあたくし程、無様ではなくてよ」

「そんなことない! 私達に色々と教えてくれたし、何だって上手くできるじゃない!」

カッとなり、手近にある枕を投げつける。

 榎奈は避けることもできたのに、真正面から受け止める。

 お前の攻撃など大したことはないと言われている様で、小百合の怒りは上がっていく。

「努力しても報われない私を見て嘲笑わらっているんでしょ。馬鹿な女だと見下して、憐れんで同情してるんでしょ。分かってる! 分かってるわよ!」

 フーフーと肩で息をする。

 興奮しすぎて呼吸するのが辛い。

「あたくしはね、仲間を守ることもできずに死なせたのぉ。話したわよねぇ、一期生が二人死んだってぇ」

 榎奈の告白で頭に上りきっていた熱が冷めてきた。

「一人は戦闘中に亡くなったのぉ。八手と契約してたのに、あたくしは彼女を助けられなかったのん。何でか分かって?」

 首を振る。

「今でこそ、人型だけど元々は非人型だったのよぉ」

「え?」

 何を言われたか分からず、目を瞬かせる。

 八手の精神は幼いが、見た目だけなら二十代。

 とても、教科書に載っていた蜥蜴とかげっぽい生き物には見えない。

「それほど、あたくしは魔力がなくて、勿論、武術の才能もからっきしだったのん。うふふ、無様でしょぉ? 教師として貴女達に偉そうに教えていたのにねぇ」

「ご、ごめんなさい」

 思わず謝罪した。

 いつも自信に満ち溢れている榎奈の始めての表情に小百合は戸惑う。

 悔しいと哀しい、苦しい、嫉妬、様々な色が浮かんでいる。

「優しいのねぇ。でもねん、そんなあたくしでも秀でていたものがあったのよぉ。何だか分かるぅ?」

「家事ですか?」

 料理も裁縫も掃除もそつなくこなすと、残りは家事しかない。

 自信なく言う小百合に、榎奈はキッパリと告げる。

「いいえぇ、特殊魔法よぉ」

 特殊魔法は、分類上は魔法だがどっちかと言うと体質的なものが多い。

 ゲームなどに出てくるスキルという感覚が最も理解しやすいだろう。

 異世界召喚されて泉に浸かった小百合達魔女は女神の祝福を受けて、魔力、不老、ノルアール言語、特殊魔法、契約魔法を使えるようになった。

 これも特殊魔法だ。

「あたくしはね、『特殊把握』という魔法が使えるのよぉ。名前の通り、相手がどんな特殊魔法を持っているのか分かるのん」

 息を呑む。

 特殊魔法の中には本人さえ知らない魔法を持っている者もいる。

 それさえも、榎奈は看破することができる。

 一見便利なようだが、敵対したならこちらの全ての手を知っていることになる。

 恐ろしい魔法だ。

 一歩身を引く小百合に榎奈は笑いかける。

「あはん、怖がらないでぇ。小百合ちゃんはあたくしと同じタイプなんだからぁ」

「私が、ですか?」

「そうよぉ。ほら、あたくしの目を見つめてぇ」

 榎奈に促され、目を見ると全身の肌があわ立つ。

 いつもと同じ黒い目なのにどこかが違う。

自分の全てが見透かされているようで落ち着かない。

 自信たっぷりに妖艶な笑みさえ浮かべていた表情は崩れ去り、榎奈の表情はどこか苦々しいものに変わる。

 もしかして、やはり自分には何もなかったんじゃないかと小百合に緊張が走る。

「末恐ろしい子ねぇ。大丈夫、小百合ちゃんは特殊魔法の才能があるわよん」

 自嘲気味に投げやりに言う。

榎奈の様子は気になるが、今は自分のことの方が重要だ。

「本当、ですか? 私に才能が……」

目を輝かせるが、信じ切れなくて言葉尻が小さくなる。

「ええ。視たところ、九つあるわねぇ。通常の人間は二つか三つで、魔女は四つか五つくらいよん。ちなみにぃ、あたくしは八つ」

 常人が二つ三つのものを、自分は九つもある。

 自分が特別になったようで、優越感が生まれてくる。

「まず、あたくし達魔女が保持している『女神の祝福』。すっごいわねぇ。『魅了』に『契約者成長補助』『自動治癒』『真名把握』『魔力回復』『魔力量成長』『金運』『魔力吸収』ねぇ」

 目に負担がかかるのか目を擦り、目頭を何度か揉む。

「ランクまでは視えないけど、大体こんな感じね」

『女神の祝福』は以前説明してくれた五つ。

 魔女なら誰でも持っているもの。

『魅了』はファンタジーによくある『チャーム』という魔法。

 小百合の場合、魔力が高い人、魔物程効果が高い。

『契約者成長補助』は契約した魔物の成長速度、つまりはレベルアップがしやすくなる。

 残念なことに自身には適用されないとのことで、小百合はガックリと肩を落とす。

『自動治癒』は自動的に怪我を治す。

 が、魔力量の少ない小百合には、怪我が治りやすいくらいにしかならない。

『真名把握』は魔物の真名を知ることができる。

 弱いものほど分かりやすく、強いものほど分かりづらくなる。

 又、弱っていれば分かりやすい。

『魔力回復』は常人よりも魔力が回復しやすい。

 そう言えば、自分の魔力量を意識させる為に魔力を使い切る修行をした時、翌日桜花達はへばっていたが小百合は彼女達ほど疲れを感じなかった。

『魔力量成長』は通常よりもレベルアップした時に魔力量が多くなる。

 魔力量が少ない小百合にとって嬉しい情報だ。

『金運』は文字通り、金運が上昇する。

 いかなる場合においても、お金に困ることはない。

『魔力吸収』は魔力を吸収することができるが、ランクが低いと吸収しきれないので注意が必要。

 現金にも美味しい内容に生唾を飲み込む。

「本当、ですか?」

 喉から出るほど欲しかった才能、自信が持てるもの。

 さっきまで泣いていたのが嘘のように、嬉しくなり笑顔になる。

 ぽっかりと空いてしまった心が満たされていく。

「そうよぉ。うふふ、元気が出たみたいねぇ」

「はい! って、すみません。私、榎奈さんに失礼なことを言って」

「いいのよぉ。あたくしも小百合ちゃんの気持ちが聞けてよかったしぃ。弱音も愚痴もあんまり吐かないし、意見も言わないから困ってたのよぉ。えい!」

「わぷっ」

 顔面に冷たいタオルを投げつけられる。

「んふふ、さっき枕投げてきたお返しよん。じゃ、明日からキチンと顔を出すのよぉ」

「は、はい!」

 元気良く返事をし、小百合は顔を拭いてから教科書を取り出す。

 開く項目は召喚。

 もう、逃げるのは止める。

 小百合は決意して、召喚の手順を読み直す。


派手じゃないですけど、魔法が出せました。

今回出てきた特殊魔法は、教会に行けば調べてもらえます。

普通の人は教会に行って教えてもらいます。

でも、無料ではなくて有料なので、お金に余裕がある人か冒険者とかしか行きません。

なので、自分のことなのに知っている人は少ないです。

5月16日、誤字を修正しました。

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