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私の旦那様達は魔物です。  作者: 春夏秋冬巡
一章 異世界にて魔女になっちゃいました。
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五話

 召喚されてから一ヶ月ほど経った。

 生活には大分慣れてきたが、その分不満も溜まってきた。

 小百合は運動神経が良い方ではない。

 体力も人並みあるかどうか怪しいし、勉強のも平均と言いたいが下から数えた方が早かった。

 突然変わった環境、慣れないことの連続でストレスが蓄積されていく。

 日本にいた時、息抜きにパソコンやゲーム、漫画を読んでいたりしていたが、ノルアールにそんな便利な物はない。

 できることと言えば、魔法の練習に武術の訓練、ノルアールの世界の勉強、炊事洗濯針仕事。

 最初は花を愛でるだけでリフレッシュできたのに、何回も見ているうちに物足りなくなる。

 勉強も体を動かすのも嫌いだ。

 パソコンが恋しい。

 漫画が読みたい、ゲームがしたい。

 どうして、こんなことしなきゃいけないのだろうか?

 宝具を手に入れてから魔物を殺した。

 アリアリというふざけた名前の蟻の魔獣。

 魔法を使い殺した。

 武器を使い殺した。

 自分が殺した。

 魔物といえ生き物であり、小百合の倫理観が許せなかった。

 胃の中のものを全て吐き出し、その夜は眠れなくて何度も目が覚めた。

 次の日はげっそりと酷い顔をして、ご飯も喉を通らなかった。

 日々細くなっていく体に濃くなっていく隈。

 拒否反応を示すのは小百合だけではなかった。

 口には出さないが他の三人も同じような状況で、先頭切って桜花が榎奈に吼えた。

「ねえ、どうしてこんなことしなきゃなんないのよ!」

「あはん、そろそろ来る頃だと思ったわぁ」

 予想通りとあっけらかんと笑う姿に肩透かしをくらってしまう。

 出鼻を挫かれるが桜花は負けない。

「何よ? あんたにあたし達の気持ちが分かるって言うのっ?!」

 興奮気味に叫ぶのを榎奈は優しい目を向け、落ち着けるように頭を撫でる。

「今日の授業は止めて、お話しタイムといくわよぉ。まずは、そうねん。あたくしの事でも話そうかしらぁ?」

 一ヶ月も一緒に暮らしているが、榎奈のことをよく知らない。

 気にはなっていたけどタイミングを逃したり、さり気なく話題を変えられていた。

 小百合達は大人しく椅子に座り、榎奈の言葉に耳を傾ける。

「そうねぇ。まず、一つ。あたくしは女神様に召喚された人間の一人よぉ」

 予想外の言葉に小百合の息が一瞬止まった。

「やっぱり、そうだったんだ。ノルアールの人間にしては、地球について詳しすぎると思ったわ。で、勿論あんただけじゃないんでしょ」

 桜花は確信あるようで、疑問系ではなく断定系で尋ねた。

 困ったような表情で降参と両手を上げ、榎奈は頷いた。

「さっすが、桜花ちゃんねぇ。あたくしは初期メンバーの一人。貴女達は四度目の召喚で来たから四期生よぉ」

「四度目って何でそんなに何度も喚ぶのですか?」

 柳美は眉を寄せて、不思議そうな表情をする。

「そうねぇ。あたくし達にとってこの世界は住みずらいのよぉ。何と言っても異世界だし、風習も違ければ環境も違い、身近ではなかった争いがあるでしょぉ」

 榎奈の言葉に小百合達は頷く。

 そのせいで小百合は苦悩し、最近寝不足でご飯も喉が通らなくなっている。

「それから、生存率が低いのん。一期生はあたくしともう一人の子を除いて死んだわぁ」

「は?」

 あまりにも普段通りの調子で言うので、聞き流してしまいそうになった。

 小百合は疑わしげに、聞き間違いじゃないかと榎奈を見つめる。

「二期生は天才揃いで格の違いを見せつけられたけど、三期生も二人死んだわねぇ。あの子達はあたくし達一期生以上に才能がなかったのよねぇ」

 懐かしむにように遠くを見る。

 榎奈の外見年齢は小百合よりも少し上くらいだが、最初に召喚された一人なので実年齢はもっと上なのかもしれない。

 憂いを帯びた表情を浮かべる姿は、歳月を感じさせて老成している。

「本当に花織様には申し訳ないことをしたわぁ」

 目を伏せ、すまなそうにため息を吐くと桜花が噛み付く。

「何でそこで女神の名が出てくるのよ?!」

「あたくし、日本で暮らしている時、絶望的な状態だったのぉ。それを花織様に救っていただいて、役に立ちたいと願ったわぁ。でも、力が足りないのぉ。あたくしでは、花織様の願いを叶えて差し上げることはできなかったのよぉ」

 女神の願いはノルアールの人間と魔物の子どもを産めということ。

 榎奈の何が駄目か分からず、小百合は首を傾げる。

「病気で子宮を取り除いたのぉ。あたくしは、人間の子どもを産めない。じゃあ、魔物の子? それも無理。あたくし、魔力が低いってこともあるけど、一番の問題は同性愛者ということなのん。男は恋愛対象として見れないのぉ」

 シリアスな話をしている中、最後は色っぽい流し目で小百合達にウインクする。

 先ほどまで真面目な話をしていたのに、張り詰めていたような空気は一気に崩れる。

「心配しないでぇ。あたくしは花織様一筋だからねん」

 茶化してから真面目な表情に戻る。

「貴女達が召喚されたのは、あたくしのせいよぉ。あたくしが花織様に進言したのぉ」

 四人いて二人が死亡。

 一人は子どもも望めず、残ったのは一人だけ。

 広い世界で一人だけ素直に従って子どもを残しても、焼け石に水で大して滅びを食い止められないだろう。

 だったら、単純に人数を増やせばいいと榎奈はそう思ったのだろう。

「死ぬ筈の人間を召喚したらどうかしらぁ?ってねぇ。そんな子達なら、第二の人生として辛いかもしれないけど、頑張れるんじゃないかって思ってねぇ」

 第二の人生。

 小百合は榎奈の気持ちを知らず、恨んでばかりいた。

 死ぬ筈だったと言われても、あまり覚えていないので実感できなかったこともある。

 恥ずかしくて俯いた。

「その言い方って、あんたはあたし達と違ったの?」

 桜花の鋭い指摘に榎奈は苦く笑う。

「相変わらず、鋭いわねぇ。そうよ、一期生は完全にランダムで選ばれたのぉ。あたくしは寝ているうちに召喚され、泉の中に落っことされたのよぉ」

 女神、結構えげつない。

 小百合は場面を想像して身を硬くした。

「異世界の人間を引き込むのは、想像できないくらい魔力消費が激しくてねぇ。三期生で止めるつもりだったんだけど、どうしても足りなかったのぉ」

 一期生や四期生である小百合達が四人ずつ召喚されたので、二期生も三期生も四人ずつだったのだろう。

 そうすると、生き残ったのは一期生が二人、二期生が四人、三期生が二人で合計八人。

 その内の一人は子どもが望めず、実質は七人、いや、他の人も同じ状態か産む気がないのなら、さらに少なくなる。

「そもそも、女神の父の趣味って何だったのよ?」

 授業では語られず、小百合も気になっていた。

「うふふ、これ聞いたら怒るわよぉ。花織様のお父様、創造神・樹織きおりはゲイ寄りのバイで、女よりも男が好きなのん。つまりは、男を独占する為に女の数を減らしてしまい、女が絶滅してしまったのよぉ」

 馬鹿馬鹿しい理由に小百合は呆気に取られ、沸々と腹の底から怒りが湧いてくる。

 要は男だらけのハーレムを作るために、邪魔になる女を排除して絶滅させた。

「それで、樹織は彼の母に怒られて、娘の花織様にプレゼントと称して後始末を押し付けたのぉ。ひっどい男よねぇ」

 最低すぎる駄目男だ。

「そんなくだらない理由で?」

 桜花の目が据わっている。

 きっと、この場に樹織がいたら魔法を使って相当酷い目に合っただろう。

 いなくて残念だと思う。

 どさくさに紛れて小百合も一発くらいは攻撃したかった。

「あはん。神様はいつだって残酷じゃない。彼らは悪人でない代わりに善人でもないわぁ」

 榎奈の言う通り、神様が善人だったら、この世に不幸な人間などいない。

「疑問なんだが、召喚などまどろっこい手段をとらずに女を創ればいいんじゃないか?」

 柳美の言う通り、神なのだから創造すればいい。

 神が具体的にどんな力を持っているのか知らないが、神話などを思い浮かべるとできそうな気がする。

「神話の時代なら簡単なんだけどねぇ。神代かみよの時代は終わり、今は人の時代なのん。世界にはことわりができ、神様も容易に曲げられないわぁ」

 意味が良く分からず、眉を下げている小百合達を見て補足してくれる。

「世界の理と言うのは、法律のようなものよぉ。生き物は親から産まれるというルールが決められてしまったから、新たに創る事ができなくなってしまったのん。だから、花織様は召喚という手段を用いるしかなかったのぉ」

「ねー、花織様って初めて会った時子どもで、すぐに赤ん坊になっちゃったけど、何でちっちゃくなっちゃたの?」

 榎奈は力を使い果たして、永い眠りについたと言っていたがピンとこない。

 どうして、姿まで小さくなる必要があるのか。

「あたくし達人間は魔力を使い切ると、暫く使えなくなるのよぉ。それでも使おうとすると、命を削り魔法が使えるわぁ。花織様にも同じ事が言えるのん」

「同じ?」

「ええ。ただ、神というのはあたくし達と在り方が違うのぉ」

「在り方?」

「そう、神に実態はないのよん。花織様の姿だって仮初め。人間達に分かるようにするために、あの姿をとっているに過ぎないのぉ」

「難しーよ」

 口を尖らせる桃花に榎奈は笑う。

「うふふ。そうね、花織様には決まった形がないから、たくさん色々な姿をとれるのよぉ。実はね、枯れてしまった泉も花織様自身なのよぉ」

 なるほど、同一の存在である花織が力を使い果たした為に、泉の水が引いていき水溜りほどの大きさまで減ってしまったのだ。

 もしも、あそこの泉の水が完全になくなってしまったら、花織が消滅したことになるのか。

「ねぇ、小百合ちゃん、柳美ちゃん、桜花ちゃん、桃花ちゃん」

 榎奈は順番に小百合達の顔を見る。

「花織様がくれた第二の人生を楽しんでみない?」

 楽しむ?

 真意が掴めずに榎奈の目を見る。

「ノルアールは日本で暮らしていた以上に辛いことがあるし、魔物だけじゃなく人間とも戦う時が来て殺し合いをするかもしれない。でも、安全な日本でも形は違うけど、同じ事があるでしょぉ?」

 テレビのニュースでしか見たことのない殺人事件や自然災害、交通事故、不治の病などを思い出す。

 実際、召喚される前に小百合は事故に合っている。

 平和な日本でも寿命以外で死を迎えることは珍しくない。

「せっかく助かった命だものぉ。精一杯生きて前以上に幸せになりましょうよぉ。ノルアールにだって、楽しいことはたくさんあるのよん。ね? 人生辛いことばかりじゃないのよぉ」

 微笑む榎奈は美しい。

 きっと、小百合よりも長くいる榎奈はたくさん辛い目に合っているのだろう。

 良い機会だ。

 前の生活に踏ん切りをつけ、新しく始めよう。

 すぐに受け入れるのは無理だが、少しずつゆっくりと時間をかけて第二の人生を歩き出そう。

 榎奈の告白を聞いて、小百合は強く思った。


魔物の魔獣の一種、アリアリは小型犬ぐらいの大きさです。

雑魚キャラなので、村人Aでも簡単に倒せます。

割とどこでもいる魔物なので、見かけることは多いです。

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