一話
時計を見ると、八時四十五分を指している。家を出たのが遅かったから、いつもよりもアクセルを強く踏む。
前田小百合、二十四歳。
平均的な身長に化粧っけのない顔は、地味だが良く見れば整っている。
洋服を着ているとあまり目立たないが、元々着やせする体質で胸はある方。
特徴と言えるのは、黒縁の眼鏡をかけていることくらいだ。
そんな小百合は苛々と前を走るトラックを睨みつけている。
寝坊した自分が悪いのは分かっているし、トラックは法定速度を守っているドライバーの鏡。
文句言うのは筋違いだが、「とっとと走れ!」と言うのが率直な気持ちだ。
追い越せれば良いが生憎反対車線からは車が頻繁に来る。
憎らしいことに渋滞ではないのだが、トラックを追い越そうと思う度にちまちまと来るのでなおのこと腹立たしい。
嫌がらせではないが、ピッタリと後ろにくっ付いて走ってやる。
ジッとトラックを見ていると、荷台に積んである荷物が揺れているのに気づいた。
固定しているロープが解けかかっている。
これ、まずくないか?と思っていると、案の定勢い良く荷物が小百合の車目掛けて突っ込んでくる。
近づきすぎていた為に回避のしようもなく、どうすることもできないまま直撃を受ける。
頭や上半身に強い衝撃がきて、抵抗できないままに押し潰される。
走馬灯が見えないまま、痛みを引きずって意識はブラックアウトした。
「……い、起きろ!」
肩を揺らされ、小百合は誰かに起こされた。
長身で手足が長いモデル体型の美青年……と思いきや、セーラー服を着ている。
女装している変態かと距離を取る前に、胸部にささやかながらも胸があるのが確認できる。
小百合が胸を凝視しているのに気づいたのか、女性は苦笑したものの怒ってはいないようだ。
「目覚めて良かった。大丈夫ですか?」
女性にしては低い声は顔に良く似合い、可哀相だがより男性的に見せる。
「えっと」
女学生から目を逸らし、辺りを見回す。
小百合は今まで車を運転していた筈なのに、目を覚ますと何処かの建物の中にいる。
事故を起こして病院に運ばれたにしては医者も看護師もいない。
人がいないかと見てみれば、倒れている少女が一人と女性が一人いる。
傍には車椅子が横倒しになっていて視線が止まる。
「何、あれ」
呆けた様子で指差す小百合に女学生も視線を辿り、気づいたようだ。
車椅子の下には日本語や英語でもない、小百合が知らない言語で書かれて文字が綴られている。
謎の言語辿っていると車椅子の下だけにあるわけではなく、倒れている少女や女性、女学生は勿論小百合の下、四人を囲んでいる床までに及んでいた。
小説や漫画、ゲームに出てくるような魔方陣が敷かれている。
まるで、誰かが小百合達をこの場所に召喚したみたいで、不気味で気味が悪い。
「あの、とりあえず、この二人を起こしませんか?」
女学生の提案に頷き、小百合は自分の近くに倒れている少女の肩を揺する。
目を閉じている少女はビスクドールのような容姿をしていて可愛らしい。
小学生だろうか?
華奢な体つきのために強く揺さぶると怪我をさせてしまいそうで、自然と込める力は弱くなってしまう。
「ね、ねえ、起きて」
控えめながら声をかけるも、起きる気配はない。
「ん? あれ、貴方、誰ぇ?」
寝起きの為か舌っ足らずな声が横から聞こえる。
女学生が担当した女性が先に目を覚ましたようだ。
上半身を起こしてから女学生の顔を見て、スカートに移ると最後は胸部を凝視した。
小百合の時と同じ反応で思わず笑ってしまったが、声に気づいたようで首を向けて目を見開く。
「お姉ちゃん!」
いや、私、貴女のお姉ちゃんじゃないから。
心の中で突っ込むが、女性の視線は小百合にはない。
起こした上半身を下げ、腕の力だけでこちらに来ようとする。
真っ直ぐ進んでくる足を動かさない女性に、小百合は邪魔にならないように女学生の元に移動する。
彼女は横倒しになった車椅子を起こしている。
どうやら、車椅子は女性の物のようだ。
「お姉ちゃん、大丈夫? 起きて!」
少女の肩を思いっきり揺する。
消去法で考えれば少女が姉だと気づいていたが、あまりにもミスマッチで不釣合いなので目を逸らしていた。
魔法陣の中の四人は小百合を除いて個性的だ。
男性に見違えるような女学生に、車椅子の女性は大人っぽくお姉さんという感じで、その女性の姉が小学生にしか見えない美少女。
「……うるさい」
漸く少女が目覚めた。
「何、ここ何処よ」
怪訝そうに眉を寄せ、周囲を探るように見渡す。
小百合と女学生で目を止めてから、床の魔方陣を見て立ち上がる。
「そこのあんた、車椅子こっちに持ってきなさい」
女学生に命令して女性の体を支えようとして、唇を噛み小百合の方に目をやる。
「ぼうっとしてないで、あんた、桃花の体支えてよ」
一人で支えられないため、上から目線だが補助を頼む。
どう見ても小学生くらいにしか見えないが、見た目に反して年齢は上なのかもしれない。
少女とは反対側に周り、女性、桃花の体を支える。
ズッシリとした重みで辛いが、何とか持ちこたえる。
少女を見ると顔には出ていないが、腕がプルプルと震えている。
やせ我慢をしているのが丸分かりだ。
「私が代わる」
女学生は親切にも申し出て、左手を桃花の背中に右手を膝裏に持っていき、女性の憧れであるお姫様抱っこをする。
少女と小百合が二人係りで支えるのがやっとだったのに、あっさりと一人で抱き上げて危なげなく車椅子にエスコートした。
近年稀に見る頼もしさに、小百合はうっかり見惚れてしまう。
「あっはぁ。もう、気がついたのねぇ」
ねっとりとした声で色っぽいシスターがこちらを見ていた。
自分が好きな要素をぶち込む予定です。
異世界トリップ・逆ハー・ファンタジーなどなど。
逆ハー要素は、まだ一章では出てきません。
二章か三章くらいからです。
後は、ややご都合主義なところも多いと思います。
ではでは、お付き合いしていただけると嬉しいです。