一日の過ごし方(夕食)
【にぎやかな食卓】
「ただいま〜!」
ドアが勢いよく開き、レオンが笑顔で現れた。
両腕には大きな鳥やウサギ、山菜の束まで抱えきれないほどの獲物。
足元には森の泥がまだ少し残っている。
『おかえり!』
階段の途中から顔を出したアルシアが、ぱっと笑顔になる。
『うわっ!いっぱい!レオン兄ちゃん、それ全部一人で?』
「もちろん!久しぶりの狩りで腕が鳴っちまってな!」
「ずいぶんと張り切ったもんだね」
マルダが呆れたように言いながらも、口元がほころぶ。
レオンはどや顔で胸を張ると、抱えていた獲物を慎重に床に下ろした。
「アルシアの笑顔のためなら、これくらい朝飯前よ」
「はいはい、口がうまいねぇ。」
マルダはレオンから獲物を受け取って手際よく仕分けを始めた。
『マルダ〜私も手伝う!』
「じゃあ、庭からローズマリーとバジルを採ってきておくれ」
『うん!』
アルシアはカゴを持って外に走っていった。
小さな足音とドアの開く音が遠ざかる。
その背中を見送りながら、レオンは手を振る。
「美味い飯を頼むぜ〜!」
「うちは飯屋じゃなよ……まったく」
マルダがため息をつくと、レオンは肩をすくめて笑う。
「風呂が溜まってるから入ってきな!」
「うおっ!悪いな!」
レオンは嬉しそうに答えると、鼻歌を歌いながら階段を上っていった。
森の匂いと、外の風を少し連れて。
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『これぐらいでいいかな?あとは……』
収穫したハーブをカゴに入れて、最近育てはじめた野菜を確認する。
『んーもう少しかな。あ、トマトは食べれそうだ!』
ウキウキしながら収穫を終え、キッチンに戻っていく。
『マルダ〜トマトも食べれるようになってた!』
「ほんとだね。せっかくだ、最後に盛り付けるとしよう」
『へへへ、緑の時に食べたら硬くて食べれなかったよね?』
「いい勉強になったろ?」
2人は笑いながら、料理をしていると、
「お、いい匂いだな!」
風呂上がりのレオンが髪をタオルで拭きながら顔を出す。
湯気で少し赤くなった頬が、子どものように嬉しそうだ。
『もうすぐできるよ〜』
アルシアがテーブルに皿を並べながら声をかける。
香草と肉の焼ける匂いが混ざり合い、空腹を刺激する。
「今日はごちそうだねえ」
マルダが湯気の立つシチューを鍋ごと運んできた。
「おぉ!こりゃ頑張って狩ってきた甲斐があったな」
『すごい大きな獲物でビックリしたよ』
「今度アルシアも一緒に行こうぜ」
『うん!』
「ほら、いつまで立ってるんだい?座りな」
マルダがやってきて席に着く。
『いただきまーーす!』
「いただきまーーす!!!」
「いただきます。」
三人の笑い声が重なる。
窓の外では、森の木々が静かにざわめき、夜の気配がゆっくりと降りてくる。
薬屋の小さな家から、笑い声とランプの明かりが漏れていた。
その温もりは、闇の中でもやさしく光を放っていた。
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「アルシア、明日も早いからそろそろ寝るんだよ」
いつも寝る時間になっても、2人で遊んでいるところにマルダが声をかけた。
『うぅ……もっと起きていたい……』
「しばらくいるから、また明日な」
レオンはアルシアの頭を優しく撫でる。
名残惜しそうに『……約束ね』と呟くと、2人に軽くハグをして、しょんぼりした声と表情のまま自分の部屋へトボトボと歩いていった。
アルシアが部屋に入ったのを見届けると、レオンが腰を上げる。
「さてと、俺も仕事の時間だ」
「気をつけて行くんだよ」
「あぁ」
マルダはそっと、昼間に頼まれていた薬をレオンに手渡した。
「おっ、ありがとな」
「それと、これも使いな」
そう言って、奥から黒いローブを持ってくる。
「これは?」
「防護魔法がかかってるローブさ」
「くっそいい代物じゃねぇか!」
「怪我して帰ってきたら、アルシアが心配するだろう?」
素直に「心配だ」と言えないマルダの遠回しの言葉。
レオンは少し照れくさそうに笑い、ローブを羽織る。
「2人に心配させないように、ちゃんと帰ってくるよ」
「じゃあ、行ってくるわ」
玄関の扉が静かに閉まる。
さっきまでにぎやかだった部屋に、静寂が戻った。
「さてと……明日のご飯の仕込みでもして寝ようかね」
マルダは小さく呟き、片付けた食卓の上にランプの光が揺れた。
夜は、ゆっくりと薬屋の家を包み込んでいく。




