一日の過ごし方(夜)
【久しぶりの再開】
ぐっすり眠ったアルシアを抱え、そっとベッドに寝かせた。
「ほんと大きくなったな」
レオンは思わず、ぷにぷにのほっぺを指でつつく。小さな寝息を立てる姿に、口元がほころんだ。
階段を降りると、ふわりと煮込みの香りが漂ってきた。
1階ではマルダが食事を並べて待っていた。
「あんたが来ると気が抜けるみたいだ」
「はは、可愛いもんだな」
「起きた時にいなくなってたら泣くかもしれないね」
「……あ、そのことなんだけど」
途端に空気が少し張りつめる。
「今回魔物の被害で招集がかけられたのは知ってるだろ?」
「あぁ……昨夜の件だね」
「実はな、俺が調べてる北の森でも妙な痕跡を見つけたんだ」
「……北の森、か」
「今回の件とも無関係じゃねぇかもしれねぇ。だからしばらく、この家を拠点にさせてもらえないか?」
マルダはため息をつき、皿を置いた。
「ふん。もともと世話になるつもりで来たんだろ?」
「ははは、バレてたか〜」
レオンが肩をすくめると、ふっと緊張が解ける。
「アルシアもお前に会えるのを楽しみにしてるからね」
「……マルダもだろ?」
ニヤリと子供っぽく笑うレオン。
マルダは憎たらしそうに目を細めたが、その目はどこか柔らかい。
「こわ〜」とおどけて笑いながら、レオンは目の前の食事を平らげていった。
「うまっ!……こんなに鶏って柔らかかったか?」
「くぅ〜、久しぶりにこんな美味い飯食ったぜ」
皿を置くとすぐ顔を上げる。
「マルダ、もうないのか? おかわり!」
「こっちの煮物も最高だな。もう一杯!」
「いやぁ、生き返った……今日からこんな飯が毎日食えるのか〜」
「……」
マルダはレオンを横目に見て、小さく息をつく。
「こりゃ、早めに追い出さないと」
わざと聞こえるように独り言を言うと、レオンは「やべっ」と肩をすくめ、慌てて立ち上がった。
「きょ、今日の晩飯の素材は俺が狩ってくるから!」
慌てた声に、マルダはふっと口角を上げる。
「私は魚が食べたいね。アルシアは育ち盛りだから、栄養のある美味い肉を食わせてやりたい」
そう言いながら扉を押し開け、無言の圧を込めた。
「楽しみに待ってな!」
さすが冒険者というイキイキした表情で狩りに出掛けて行った。
「無理するんじゃないよ〜」
マルダの聞こえたのか遠くでブンブン手を振って、あっという間にレオンの姿が見えなくなった。
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ドタドタドタ――
『マルダ!!! レオン兄ちゃんはもう帰った???』
昼寝から飛び起きたままの格好で、アルシアが髪をボサボサにして階段を駆け下りてきた。
「落ち着きな。レオンはしばらくここに住むことになったよ」
『ほんと!!』
「あぁ、今は外に出てるから夜になったら帰ってくるだろう」
『わーーい!!!』
嬉しさを抑えきれずにマルダへ抱きつくアルシア。
「なんだい。甘えん坊になっちまったね」
口調は呆れたようでも、手は優しくアルシアの髪を撫でている。
『レオン兄ちゃんはどこで寝るの?』
「アルシアの隣の部屋だ。夜まで時間があるから片付けておくれ」
『やったー!』
再び勢いよく階段を駆け上がっていくアルシア。その背中を見送りながら、マルダはふっと笑みをこぼした。
「……あんなに嬉しそうに。まったく、レオンに妬いちまうよ」
2階から再び元気な声。
『マルダ〜! 布団を干すのを手伝って!』
「やれやれ……しばらく騒がしい日が続きそうだね」
そう言いつつも、マルダの表情はどこか誇らしげだった。




