新たな出会い
【神官様】
〜出会い〜
朝の柔らかい光が病院の窓から差し込む頃、
アルシアはすでに仕事に取り掛かっていた。
(今日は帰ったらレオン兄ちゃんがいるんだ!)
朝はレオンに会えず出てきたため、やる気に満ちていた。
洗濯の山を片付けていく。
『よし…昨日より汚れモノが少ないや』
腕まくりをして桶に水を溜める。
その間に大きい布と、小さい布、身につけるものにそれぞれ分けていく。
『ん〜♪』
ふと、廊下の向こうからコツ、コツと規則正しい足音が近づいてくる。
アルシアは仕事に集中していたため、気づかない。
『今日は爽やかな香りのオイルにしようかな』
そう呟きながら、腰の小袋を探っていると─
「何を探してるんだい?」
――低く、穏やかな声。
『えっと、この前作ったオイルを…』
顔を上げた瞬間、アルシアは言葉を失った。
光を受けて淡く輝く銀の髪。
長い前髪の隙間からのぞく瞳は、湖面のように静かで、
その姿はまるで絵の中から抜け出してきたようだった。
神官服の白と銀が、朝の光を受けて柔らかく揺れる。
(レオン兄ちゃんくらいかっこいい人、初めて見た…)
神官服に身を包んだ男性は微笑み、口を開いた。
「初めまして、私はシオンと申します。昨日の浄化の件で参りました。」
シオンが静かに頭を下げる。
その仕草に合わせて、淡い光がふわりと周囲に広がった気がした。
穏やかで、どこかあたたかい気配。
『は、はじめまして!アルシアです!』
慌てて頭を下げるアルシア。
シオンは微笑んだまま、
「どうか、いつも通りに。私は見ているだけですから。」
『……はい』
アルシアは静かに頷き、また黙々と仕事を再開する。
(緊張するよ…)
マリーやレオンと接する時とは違う、
マルダに薬について教えてもらってる時の緊張感に近い。
すぐに帰ると思っていた神官様は、ずっと同じ部屋に立っていた。
何をしているのかも、何を考えているのかも分からない。
静かに流れる時間の中で、アルシアは淡々と仕事をこなしていく。
やがて洗濯がひと段落し、
『えっと……ここの作業が終わったので、外に行ってきます』
と声をかけると、
「手伝いますよ」
と、柔らかい声が返ってきた。
思わず目を瞬く。
(神官様が……洗濯を?)
けれど、シオンは自然な動作で桶を持ち上げ、
外に向かって歩き出した。
その動作は不思議なほど静かで、優しかった。
『あ、ありがとうございます……』
風に揺れる銀の髪。
陽の光を受けたシオンの横顔は、まるで絵画のように穏やかだった。
そんな姿に、アルシアのこわばっていた肩が、少しずつほどけていく。
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「これで最後ですね」
『はい!』
全ての洗濯物を干し終え、いつもの休憩時間。
アルシアはマルダが持たせてくれたパンを半分に割り、恐る恐る差し出した。
『これ、よかったら……どうぞ』
「ありがとう。」
2人は近くにあった椅子に腰を下ろす。
春の風が吹き抜け、二人の髪をやさしく揺らす。
(1人じゃない休憩は初めてだ…)
そっと隣を見やると、ちょうど目が合った。
思わず視線を逸らそうとするアルシアに、シオンはふっと柔らかく笑う。
「……穏やかですね。」
『え?』
「この場所が、です。
……どこか、優しい気配がする。」
アルシアは少し驚いて、
『……わたしも、そう思います』
と返事をする。
「次は何をするんですか?」
『あ、掃除を… 各部屋の掃除をしに行きます。』
「では、行きましょうか。」
『は、はい!』
(いったいシオン様は、いつまで一緒にいるんだろう…)
そう思いながらアルシアは掃除道具を手に取り、各部屋に出向くのであった。
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昨日と同じように、怪我を負った騎士たちの病室の前まで来ると、重々しい気配はなく、少し柔らかく感じる。
『これが……浄化の力……』
思わず漏れた独り言。
けれどその声は、すぐそばにいたシオンに届いていた。
「分かるんですか?」
と何を考えているか分からない表情で確認される。
『あ、……えっと……黒いモヤモヤが……なくな……ってる…と思って…』
自信のない声でそう言って、アルシアは視線を落とす。
言っていいことなのか分からず、胸の奥が少しざわめいた。
そっと様子をうかがうと、シオンは微笑んでいた。
責めるでも、驚くでもなく、ただ優しく頷いて。
「行きましょうか。」
『は、はい!』
そこからは、昨日と同じように、
部屋を整え、患者たちの世話をした。
最後に、花瓶の花を差し替え笑顔で患者に声をかける。
『また明日も来ますね!』
アルシアは次の部屋へと歩き出す。
『ここの窓、ちょっと汚れてるな…』
小さく呟き、袖をまくって布で拭き始める。
小さい体で、丁寧に仕事をする姿。
その横顔を、シオンは黙って見つめていた。
「……これは…」
その小さな呟きは、
アルシアの耳には届かなかった。




