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初恋の君と

作者: towa

短編


 王宮で開かれる夜会。ヒラヒラと色とりどりのドレスの花が舞うその一角で行われているのは。


「パーシー殿下……何故ですか?私は貴方の婚約者なのに」

「何故とは?」

「何故そちらのお方に貴方の色のドレスを贈り、一緒に入場し、ダンスを3度踊る理由です」


 そこには色を揃えた2人の男女と1人の女性が話している。男女の方はこの国の第1王子のパーシーと隣で寄り添う女はパーシーの婚約者ではなく学園内でも有名な第1王子の恋人のメアリー、2人の行動を指摘する女性がパーシーの婚約者のアシュリーである。


「……パーシー怖いわ」

「あぁ、メアリー大丈夫だ」

「殿下?」


「お前……メアリーを虐めていたのか?」

「ん?何故?」


 意味がわからなく質問するアシュリー


「私の寵愛がメアリーに向いているからだ」

「アシュリー様は酷いのですよ。私にパーシーに近づくなと」


「……えぇ、私は言いました。それが?」

 

 アシュリーは婚約者である自分との交流を避けて彼女と過ごす事に疑問を持っていた。


「アシュリー、お前は王妃になるのだから、私が他の女性を愛してもいいだろう。お前は王妃、メアリーは側妃だ」

「………………意味がわからないと言うか理解できません」


「アシュリー、俺は愛する人と共にいたいのだよ。父と母の様にな」


 パーシー殿下とアシュリーは、アシュリーが10歳、パーシーが11歳の時に婚約している。パーシーの中では王族として優秀なアシュリーと婚姻はするも愛するメアリーとも婚姻し側に置きたかったのだ。父である国王もかつて婚約者がいたが高等学園で知り合った身分が低い女性と恋に落ち、婚約を破棄してその女性と結婚したのだ。


 初めてアシュリーと出会ったのは11歳の時、率直に可愛い子だと思った。しかし叔父であるアルベルトとアシュリーの仲の良さに嫉妬もした。いずれ国王となる自分には可愛らしいアシュリーがいいと思い自分に甘い母上に相談したのだった。王妃教育が始まりアシュリーは王宮の一部屋を与えられ王妃教育に励む、アシュリーは優秀でありパーシーとの関係も悪くはなかった。しかしそれと同時にアシュリーの優秀さに少しずつ引け目を感じ始めていたのであった。

 アシュリーよりも1年早く高等部に入学したパーシーは1人の女性と出会う。それがメアリーだった。メアリーは自分を慕い、また自分よりも成績も悪いためパーシーを存分に引き立ててくれた。何より、16歳とは思えない大人びた体つきに興味が湧いたのだった。少しずつ仲メアリーと良くなり高等部の2年に進級した。アシュリーも入学し、最初はメアリーとは気安く話せる友人の1人であった。アシュリーとの関係も悪くなかった。17歳の時、パーシーは閨教育を受け、初めて女性の身体と快楽を知った。本来なら実際には行為はしないが、パーシーは頼み込み娼館の女で童貞を捨てた。一度女性の身体を知ったパーシーはメアリーの身体を欲した。そして、メアリーと男女の関係になったのだ。メアリーは初めてではなかったがパーシーは気にもしなかった。それからは、公務の一部をアシュリーに任せ、側近らの協力もありメアリーとの逢瀬を重ねた。パーシーはこれが両親と同じ『真実の愛』だと思ったのだ。


 アシュリーは深呼吸をし伝える。


「私は王妃になりたいのではなく、パーシー殿下の妻の務めとして王妃になるのです。彼女と結婚したいのならば国王と同じく私とは婚約を解消し彼女が王妃教育を受けてください」

 パーシーは毅然として言う。

「彼女は何でもできる優秀なとは君と違う。君は長年王妃教育を受けてきた。その年月を捨てるのか?私の癒しはメアリーなのだ君ではない」


「殿下は私に王妃としての仕事だけしろと?」

 アシュリーは悲しかった。私の意思を無視した婚約だったのにも関わらず、自分に公務を押し付け彼女と逢瀬を重ね続けた婚約者に怒りを通り越し呆れた。


 2人の関係を『真実の愛』と呼び、協力的な人もいた為再度声に出して問う。


「パーシー殿下は彼女は側妃として側に置き、私は殿下に愛されずにただ2人の『真実の愛』の為に一生を国の為に捧げよと言ってるのですね」


 側近達と2人を応援している者達は何も言わない。アシュリーは周囲を見渡し


「いつもみたいに言えばいいじゃない。『2人を認めよ』『公務だけしろ』『殿下に愛されていると勘違いするな』『のちにメアリーの子供を……自分の子として育てろ』『メアリーはいるだけていい』でしたか?側近候補様達と令嬢、令息の皆様」

 

 誰も言葉を発しない。


「殿下……私は婚約の破棄を望みます。2人の真実の愛と言う不貞での婚約破棄です。お2人はすでに身体の関係があるのでしょう?彼女を王妃にして支え合うのが筋でしょう」


 震える身体を必死で堪え壇上の2人を見る。


 突然後ろからアシュリーを呼ぶ声がする。

 声を掛けるのは両親だ。両親は辺境の地を守る軍事一家で王都だけではなく地方の領地の安全の為に私兵を派遣しているのだ。忙しいが、珍しく今回の夜会に出席したのだった。

 

 アシュリーは両親に今までの事を掻い摘んで話す。

「私は……愛される資格がないのでしょうか?お父様達も私に夫に愛されず公務だけをしろと言うのですか?」


「そんな訳ないじゃないかアシュリー帰ろう話にならない。調査した上で然るべき対応をします。私兵の撤退を含め」


 会場はザワザワしだす。


 突然会場に一際大きい声が響く。


「息子よ、我にも説明せよ」

「父上……」


 王妃と共に現れた国王は、厳しい顔をしていた。かつて自分も王妃と結婚するために長年側にいた婚約者と別れたのだ。後から、王妃の学力の無さやマナーの悪さが気になったが後の祭りだ。国王は王妃を支え続けた。愛情よりも責任から王妃と共に生きることを選んだ。

 

 国王は静かに伝える。


「令嬢、婚約者がいる王族と関係を持ったからには覚悟があったのだろう?公務をしたくないとは言わないな。王妃も協力してたのだろう?教育を任せる。結果次第では王妃……パーシーの今後の処遇も考える」


 国王は悲しそうに2人に伝えたのだった。王妃は震えながら

「あなた、私はパーシーにも私たちのように愛する人と」

「王妃よ、もう良い。君は王妃教育を8年頑張ってきたアシュリーは幸せになれなくでも良いと思っているのだね……残念だよ」

「違う、違うの……」

 ハラハラと涙を流す王妃。




「国王……我が娘との婚約破棄は認めてもらうぞ」

 アシュリーの両親は厳しい顔をして国王に伝えた。

 いまだにざわめく会場をアシュリーは国王と、そして家族と共に後にしたのだった。



 場所は変わり応接室へとやってきた、国王とアシュリ一家。 


 国王は申し訳なさそうな顔をして伝える。

 かつてアシュリーには違う婚約者候補がいたが、王妃の独断でパーシーとアシュリーの婚約が整ってしまったこと。アシュリーの優秀さに自分も甘えていたこと。かつて自分が引き起こした『真実の愛』と言われた婚約破棄が現在も貴族達の間で容認されている事を長年苦しんでいたのだった。


「提案なのだが……王家の恥となる今回の案件、できれば穏便に済ませたいのが本音だ。アシュリーは国の裏側も知っておる為、王族以外の男との結婚は避けたいのが本音じゃ…それでだな、罪滅ぼしではないが王弟アルベルトと婚約をしてほしくてな……」

 

 王弟アルベルトは国王とは歳が離れており、端正な顔立ちの23歳の男性である。現在は騎士団の総括を務める傍、国王の公務のサポートもこなす。しかし、その一方では、いつも側には未亡人を数人連れて歩き、様々な女性との噂も絶えない男であった。


 8年前、王弟アルベルトは辺境の地にあるアシュリーの両親の元で数年過ごしていた経緯もあり2人の仲の良さは周囲には有名であった。そう……アシュリーはアルベルトの婚約者候補であったのだ。


 アシュリーは一瞬ドキリとした。初恋の男性……あの時、諦めざるを得なかった男の名があがったからだ。あれから8年、公務の為に何度か会話する事はあったが、ほとんどは遠目でしか見る事ができなかった相手だ。


 その時、勢いよくドアが開き登場する人物アルベルト、国王を見るなり周囲の人を見る事なく伝える。


「兄上、私は誰とも結婚などしないと何度も言ってるだろ。ほっといてくれ」

「アルよ…いいのか婚約しなくて」


「いいんだよ……結婚なんてしたくない。どの女もごめんだ……何度も言ってるだろ」


 国王は指を差す。

「何だよ兄上……せっかく恋人達と……」

 男は話しながら国王が指をさす方向をみる。そこにはアシュリーが困ったような悲しそうな顔で見ている。


「アル様……すいません……あの……失礼します」

 思わず立ち上がり、静かに部屋を後にするアシュリーだった。


「お前……知らんぞ。せっかくアシュリーと婚約をとな……」


「兄上……何故アシュリーとの婚約だと言わない」

「伝令を送っただろ。結婚しろと」



 アシュリーはアルベルトの言葉で、ずっと燻っていた自分の初恋が終わった事を悟った。

「あれから8年だもんね…」


「アシュリー……待って」



 その後、ひと騒動あったがアルベルトが婚約や結婚を拒んでいた理由は今でもアシュリーの事を想っていた為だと伝え、女性関係の噂はデマであり恋人達と噂される女性達とも只の飲み仲間で体の関係はないと必死に弁明するアルベルトであった。

 

「アシュリー、僕の初恋も初めても全部君に捧げた、これからも僕の初めても最後もは全部君に捧げるだ。だから、ずっと側にいてくれないか?アシュリー私のお嫁さんになってくれるかな?」

「はい、私の最初も最後もアルに捧げるわ。だからずっと一緒にいさせて」


「こちらこそよろしく『真実の愛』のお相手のアシュリー」



 そうして、2人は結婚し4人の子を持ちいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

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