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アニキ!再び

 天才技師のブリッツおじさんによって改造された潜水艇【ネルソン】に乗るキャメロン。


 ハインツは、彼女とともに、北海の広い海へ出た。


 今日は、キャメロンとの共同作戦を実施する。


 ハッチから顔を覗かせるキャメロン。


 正面から吹き付ける風によって、彼女の金髪が揺れている。


「……」


 口には出さなかったが、ハインツは「美しい」と思った。


「見ろ、ハインツ。私の潜水艇ふねのほうが速いぞ」


 キャメロンは、新型のディーゼルエンジンを搭載した潜水艇の速さを自慢した。


 エンジンが唸り声を上げて、スクリューが勢いよく回転している。


 ブリッツおじさんによって改造され、操縦が簡単になった潜水艇は、キャメロンお嬢様のお気に召したらしい。


「やめろ。それぐらいにしておけ。燃料食うし、またエンジン止まるかもしれねぇから」


「そうなったら、またお前が助けてくれるだろ?」


「自分でエンジンをぶっ壊すようなバカは、捨てて行く」


「口だけだ。お前は、私が困ったら、手を差し伸べてくれる心優しい人間だ」


「死ね。海に落ちて、サメの餌になりやがれ!」


 唐突な悪口を吐いたハインツ。


 彼はエンジン出力を上げて、キャメロンを置いて行ってしまった。


「待て、追いつけない……魚雷を当てるぞ」


「ハハハッ!!当てられるもんなら、当ててみろよ!」


「冗談だ」


 そんな冗談を言い合って、ハインツとキャメロンは任務で指定された海域へと潜水艇を進めた。




♦♢♦




 キャメロンと共同で実施する任務……それは、北海で活動する【人さらい】たちを懲らしめることだった。


 キャメロンは、人さらいの男たちが乗る船の航路上で、あえて待機した。


「……潜水艇だ!」


 男たちは、双眼鏡で、キャメロンの潜水艇を発見する。


 そして男たちは「ポセイドンの野郎ですよ!!」「あいつ、また待ち伏せしてやがったのか!?」と、騒ぎ出す。


 彼らは、過去に4度も北海の海神ポセイドンことハインツに、商売のための船を沈められている。


 しかし、双眼鏡を手にした男が、相手はハインツではないことを知らせる。


「違います、アニキ!女です、女!!」


「なにっ!?貸せ!」


 【アニキ】と呼び慕われる男は、見張り役の男から双眼鏡を取り上げた。


 そして双眼鏡越しに、キャメロンが乗る潜水艇を見る。


 潜水艇の艦橋には、風に吹かれて金髪を揺らす絶世の美女がたたずんでいた。


「おいおい、俺は幻でも見ているのか……?こんな海のど真ん中に、天使が舞い降りたらしいぞ」


「ど、どうします、アニキ?」


「とりあえず、話しかけてみようか。へへへ……」


「ええ……やめたほうがいいっすよ……潜水艇乗りには、ロクなやつがいないですよ」


「うるせぇ!俺が行くと言ったら、行くんだよ!取り舵いっぱーい!!」


 【アニキ】に指示されて、木造船は、左に舵を切った。


 そして、キャメロンの潜水艇に近づいた。


 アニキが、ファーストコンタクトを試みる。


「ごきげんよう、お嬢さん」


「……どうも」


 キャメロンは、愛想よく、手を振った。


 だが、相変わらずの無表情。


 しかし、アニキたちを魅了するには十分すぎる魅力があった。


「こりゃ驚いた、絵に描いたような女の子が潜水艇に乗ってやがる」


「私、そんなに可愛いのか?」


「ああ、もちろん」


「そうか。まあ、可愛いと言われて嬉しくない女はいないな」


 【アニキ】は、好みの女の子との出会いに、胸をキュンキュンさせている。


 キャメロンと話すことができて、心底嬉しそうだった。


「俺たち、これから北海を横断して、遠くに行く予定があるんだよ。……ジブラルタルまで、この船を護衛してくれないか?」


「実に魅力的な依頼だけど、お断りさせてもらう」


「な、なんで?今、任務中だったりするのかな?」


「ああ。――お前たちを海に沈めるという任務を遂行している途中だ」


「な……なんて?今、なんて言った?」


「私は、お前たちを沈める任務の真っ最中だ――ハインツ!!」


 キャメロンがハインツの名前を叫ぶ。


 すると、【アニキ】たちが乗った木造船を挟むようにして、もう一隻の潜水艇が、海中から浮上した。


 その潜水艇の艦橋かんきょうには、ポセイドンの三又の槍が描かれていた。


 この潜水艇が、船に向かって魚雷を撃った。


 魚雷が海中を進む泡が、高速で近づいた。


「あ、アニキ!!ポセイドンの野郎が海の中から――うおぁぁっ!?」


 魚雷が船の側面に見事に命中。大きな波飛沫が上がる。


 船が揺れて、大きく右に傾いた。


「どわああああああああ!?ま、またやられたぁぁぁぁぁ!!」


 【アニキ】が悲鳴を上げる。


「おい、またお前らかよ!懲りねぇ野郎どもだ」


 ハッチから顔を覗かせたハインツは、ニヤリと白い歯を見せた。


 いつの日だったか……彼らは、母と娘を誘拐した、あの人さらいの男たちだったのかと、ハインツは気が付いた。


「ポセイドン野郎……俺たちをはめやがったな!!わざわざ、こんなカワイイ女の子まで連れてきて、俺たちを陥れよって!!」


「そうだ。見事に【ハニートラップ】に引っかかったな!!ハハハハハッ!キャメロンは、てめぇらみたいな汚らしい船乗り犯罪者どもには興味ないってよ!」


 ハインツは、白い歯を見せて、哀れな男たちを嘲笑する。


 そしてキャメロンも「男は単純で、バカな生き物だな」と冷笑した。


「クソッ……この野郎!!」


 【アニキ】は、携帯していた拳銃をハインツに向けて発砲した。


 しかし、傾く船の上……風も吹いている中で、ある程度離れている潜水艇のハッチから顔を覗かせる人間を打ち抜くことは至難の業。


 パンっ、パンっという発砲音と銃弾が潜水艇の側面に当たる金属音が虚しく響くのみ。


「ハッハハハ!!お前ら、オレに銃を撃ってる場合か?早くしねぇと、船が転覆するぞ」



「い、嫌だ……もう、ローンの支払いに追われる生活は、嫌だぁぁぁぁぁ!!」

「沈むぅぅぅ!!」

「お、お嬢さん、俺たちを助けてくれ……」

「そ、そうだ、助けてくれ!もう、人さらいなんてしないからさー!!頼むよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」



 男たちは、キャメロンに救命を懇願する。


 しかし、キャメロンは無表情を崩さないまま、冷たく告げた。


「お前らのような犯罪者集団は、無様に溺れ死ぬのがお似合いだ」


 キャメロンはそう言い残して、ハインツと共に、北海の彼方へと消えた。



「早く乗れ!沈む船に巻き込まれるぞ!」

「アニキ、ちょっと太り過ぎじゃないですか?ボートがたわんでますよ!」

「うるせぇ!さっさと船から離れろ!」



 男たちは、万が一に備えて用意しておいた小さなボートに乗って、事なきを得た。


 しかし、ローンを組んだ木造船は、無情にも、海の深い青に飲み込まれてゆく……


「ああ……まただ、また、ポセイドンの野郎に沈められた……」


「アニキ……」


「うぅ……」


 水平線の向こうから、ハインツの「ハッハハハハハ!!!」という笑い声が響いた。

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