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潜水艇の修理と大改造

 エンジンが故障したキャメロンの潜水艇をドイツ海警局の船がえい航する。


 中佐の計らいで、北海・バルト海運河を通行料無しで通過して、ほどなく……


 ハインツとキャメロンは、ハインツの故郷、ドイツ北東部のキールの港にたどり着いた。


 この街には、ドイツ海軍の基地があり、潜水艇の専門的な修理・修繕が可能。


 そして、その作業を担当するのが、ハインツの潜水艇の設計と建造を務めた天才【ブリッツ】おじさんである。


 彼は、先の大戦において活躍した旧ドイツ海軍の潜水艦【Uボート】の設計に携わっており、ハインツの父とも親しかった。


「やあやあ、ついにお前さんもガールフレンドを連れて来たか、ハインツよ!」


「ガールフレンドじゃねぇよ」


 ブリッツおじさんは、ハインツがキャメロンを連れてきたことを喜ぶ。


 しかし、ハインツが、すかさず否定を挟んだ。


「世話になる。私は、キャメロンだ。イングランドから来た」


 キャメロンは、ブリッツおじさんに端的に挨拶した。


「おお、よく来てくれたね、キャメロンくん。ワシは、潜水艇の設計とか建造をやっとる【ブリッツ】だ。こんな老いぼれだが、よろしくな~。……美しいな、まるで絵本に出てくる少女のようだ」


「……」


 キャメロンは、ブリッツおじさんから容姿を褒められるも、表情を変えなかった。


「キャメロンくん、この潜水艇ふねは、何て名前だ?艦橋に、ユニオンジャックが描いてあるね」


「――ネルソンだ」


「ほお~良い名前だね。もしかして、【あの提督】の名前から取った?」


「ああ。ナポレオンのフランス海軍と戦った英国の英雄、ネルソン提督の名にちなんで取った」


「良いねぇ。愛国精神に溢れた潜水艇ふねだ。ワシのことをいつか、ロンドンに連れて行っておくれ~。死ぬ前に、ぜひともこの目で、バッキンガム宮殿を見てみたい!」


 冗談を交えながら、ブリッツおじさんは、キャメロンの潜水艇【ネルソン】の船体を撫でた。


 そして「さっそく、エンジン故障の原因を探すから、ちょっと待っててな~」と言って、ハッチを開き、潜水艇の内部へと消えた。


「ほらよ。コーヒー」


 ハインツは、ブラックコーヒーが注がれたマグカップをキャメロンに手渡した。


「気が利くな、ハインツ。ブラックコーヒーは苦手だが」


「最後の一言が余計だろうが」


 ハインツは、我がままお嬢様のキャメロンに、砂糖をあげた。


 キャメロンは、小包装3つ分もの砂糖を入れて、コーヒーを飲んだ。


「はぁ……これぐらい甘くなると、おいしいな」


 キャメロンは、温かいコーヒー(砂糖マシマシ)を飲んで、ちょっと笑った。


「砂糖入れ過ぎだ。コーヒーの良さが台無しだぜ」


 甘々なコーヒーを飲むキャメロン。


 その微かな笑顔に、少女っぽさがあった。


「……」


 ハインツは、キャメロンの一瞬の笑顔に釘付けにされた。


 たった一瞬……しかし、ハインツは、彼女のその笑顔が、ちょっと可愛いと思った。


「なんだ、私の顔をじっと見つめて?気持ち悪いぞ」


「ケッ、愛想のない女だな、ほんと」


 ハインツは、面と向かって「気持ち悪い」と言われて、気分を害された。


 奥歯をぐっと噛んで、頬を吊り上げて、苦い表情を浮かべる。


「お嬢ちゃん、エンジンが故障した原因が判明したぞ~」


 そのとき、エンジンの故障の原因を調べていたブリッツおじさんが、ハッチから顔をひょっこり覗かせた。


「キャメロンくん、潜航するときに、ディーゼルエンジンから蓄電池に動力の切り替えをしていなかっただろう?」


「ああ。操作が難しくて、パニックになった」


「あ~そりゃいけないねぇ。ディーゼルエンジンは、酸素がないと動かないんだ。だから、海に潜るときは、ちゃーんと蓄電池に動力が切り替わってるか、確認しないと!」


「わかってる。でも、慌てたんだ、あのときの私は」


 キャメロンは、正直に話した。


 感情というものが一切感じられないキャメロンが慌ててパニックになる様子を、ハインツは想像することができなかった。


「潜水艇の初心者だな」


 ハインツがそう言って、キャメロンのミスを嘲笑する。


「もう潜水艇に乗って一年だ。スウェーデン船籍の石油タンカーの護衛だってやったし、フランス海軍に頼まれて海上警備だってやったし、遭難者を何十人と助けた。初心者じゃない」


 キャメロンは、平坦で低い声で反論。


「しかし……こんなに複雑な機構を、よく一人で動かしたな、キャメロンくん。ウチのハインツの潜水艇のほうが、何倍も操縦が簡単だ」


 ブリッツおじさんは、ニヤッと笑い、とある提案をキャメロンに突きつけた。


「どうだい、キャメロンくん?ウチでなら、操縦も簡単に改造して、しかも、これよりももっと強いディーゼルエンジンに変えることができるけど、どうだい?工期は、まあ……だいたい3か月ぐらいだろう」


「じゃあ、そうしてくれ」


「そうこなくっちゃ!任せな。こいつの潜水艇に負けないぐらいの高性能艦にしてやろう」


 ブリッツおじさんは、ハインツを顎で指した。


 キャメロンは、こくりと頷き、無表情のまま「よろしく頼む」と言った。


「さて、どうやってローンを組もうかね。そこを考えなきゃならんよ」


 両手を擦るブリッツおじさん。


 潜水艇の改造、エンジンの取り換えとなると、それ相応にお金がかかるというもの。


「ローンを組む必要はない。一括で払う。金はあるから」


「え、ええ?一括払いしようってのかい、キャメロンくん!?」


 寝耳に水なことを言われたブリッツおじさんは、開いた口が塞がらなかった。


 冗談だと思った。


 潜水艇の改造費用を、目の前の可憐な女の子一人が、一括払いできるなんて、思っていなかった。


「じいちゃん、こいつ、生まれがイングランドの貴族なんだよ」


「ええ!?なんでそんなお嬢様が、潜水艇に乗っているんだい!?」


「知らねぇよ。本人にけ」


 たばこを口にくわえたハインツ。


 しかし、「工場の敷地内では吸わんでくれ」と、ブリッツおじさんから注意された。


 仕方なくハインツは、たばこを箱に戻して、ポケットに突っ込んだ。


「宿舎が一部屋空いてるから、今日は、そこで寝てくれ」


 ブリッツおじさんは、寝床を提供しようとした。


 しかし、二人分の部屋は空いていない様子。


「あ?こいつと同じ部屋で寝ろってか?」


「すまないねぇ。これ以上空きはないんだ。それとも、ワシの部屋を使うか?」


「いや、それは、じいちゃんに申し訳ねぇ……」


 ブリッツおじさんは、小型溶接機を持って、「ニヒヒ」と笑う。


「私は、いっこうに構わないぞ。お前と同じ部屋で寝泊まりすることぐらい、どうってことない」


 キャメロンは、腰に手を当てて無表情のまま、そう言った。


「オレは嫌だ。変な噂が立つと良くねぇから」


 キャメロンと、何かしらの関係があると、絶対に噂されたくないハインツ。


 狭い潜水艇内よりも、宿舎の一室のベッドのほうが、寝心地が良い。


 しかし、キャメロンと同じ部屋で寝るぐらいなら、狭い潜水艇で寝た方がいいと、ハインツは思った。


「オレは、自分の潜水艇で寝る。空き部屋は、お前が使えよ」


「お前、優しいんだな、ハインツ。そう言って、私に部屋を譲ってくれたんだよな?」


「勘違いしてんじゃねぇよ。お前と同じ部屋で寝るのが不愉快極まりないから、部屋を譲っただけだ」


 ハインツは、ふて腐れたように、自分の潜水艇のハッチを降りていった。


 キャメロンは、そんな彼の背中をじっと見つめていた。



 潜水艇【ネルソン】改造と改修が終わった3か月後……


 ハインツは、キャメロンと互いに協力しながら、北海での活動を続けた。


 北海に、また新たな仲間が加わった。

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