表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/28

北海のポセイドン



潜水艇:水中で活動可能な船のこと。




 1930年代、ヨーロッパ。


 若者の間では、オリジナル船による航海冒険がブームとなっていた。


 若者たちは、船を手に入れて、究極の【自由】を求めて、大海原へと旅立った。


 しかし、海上での密輸、誘拐、海賊行為が横行。海の治安が悪化した。さらに、海上の遭難数も増加。


 西欧諸国は、頭を悩ませる。


 そんな中、北海の治安維持に貢献する、一人の潜水艇乗りが現れた。


――彼の名は【ハインツ】(ドイツ人)


 【北海の海神ポセイドン】の異名で、時に慕われ、時に恐れられた。




♦♢♦




 ここは、オランダのアムステルダム沖。


 そこに、浮かんでいる潜水艇【ポセイドン】の甲板上に、ハインツはいた。


 ハインツは、潜水艇の甲板上に椅子を立てて、のんびりたばこを噴かせていた。


「今日は海が穏やかだ。波も小さい、風も心地よい……昼寝には、もってこいの気候だ」


 風が、彼の耳を、彼の黒髪を撫でる。


 カモメが鳴き、渡り鳥が空を翔けた。



 そのとき、潜水艇の内部で、無線通信のベルが「ジリリリリリリ……」と、けたたましく鳴り響く。


「なんだよ、この野郎……今、気持ちよく休んでたところだっていうのに……クソ」


 ハインツは椅子から飛び起きて、ハッチを伝って、速足で潜水艇内部へ降りる。


 無線通信の受話器を取ると、聴き慣れた声が。


「こちら、ドイツ海警。フリードリヒ中佐だ」


 彼は、ハインツに仕事を投げてくれる、ドイツ海警局の知り合い【フリードリヒ中佐】だ。


「はいよ、中佐。こちらハインツだ」


「今、出られるか?」


「ああ。オレはいつでも準備万端さ。今、アムステルダムから北に行ったところに浮かんでる」


「では、ちょうどいいな。依頼だ。今日の未明、遊覧中の小型船が襲われ、母親とその娘が誘拐された。誘拐を実行した木造船は、真西に向かっている……ちょうど、お前のいる近くの海を通る。その船を止めて、誘拐された二人を救出してほしい」


「はいよ。お安い御用だ。報酬は後日でいい。いつもの口座に振り込んでおいてくれ」


「了解した。船の座標を随時送信する。海警局の船も、すぐにそちらに向かわせる」


「お前ら海警が出る必要はねぇ。オレ一人で十分だ」


「そ、そうか……それなら助かるが。相手は武器を持っている可能性が高い。お前なら大丈夫だとは思うが、十分に注意するように。ハイル・ヒトラー」


「……すぐに出る」


 中佐は、通信を終える際、総統賛美を示した。


 ハインツは、中佐と同じ挨拶はしなかった。


……ナチは、あまり好きではない。


「さて、仕事だ。一発ぶちかましてやるか」


 ハインツは、甲板上の椅子を船内に収納して、操縦桿そうだかんの前に座る。


 狭い船内で、ペダルを踏みこみ、エンジンを動かして、悠々と北海の広い海の航行を始めた。


 しばらくして、ドイツ海警のほうから、敵船の座標とその予測データが送られてきた。


「……なるほどな。だいたい、スコットランド方面に向かってるのか」


 目標の船の航行予測を知らされたハインツは、海図とコンパスと羅針儀を駆使して、距離や方角を計算。


「早めに着いて、待ち伏せしてやろう」


 グッとペダルを踏みこみ、エンジン出力を上げて、潜水艇の速度を上げた。


 そして、船が通るであろう地点の近海に、潜水艇を沈める。


「第一、第二、第三、第四タンク注水、それから……船首角度よし、速度よし、深度よし、油圧問題なし……」


 複雑な操作だが、慣れたものだ。


 ハインツは、操作盤のレバーを上げ下げしたり、目の前の計器の目盛りを確認したりしながら、潜水艇を海に沈めた。


 そして、岩礁の陰になるところに潜水艇を忍ばせて、目標の船を待ち伏せした。


「ここで待機だな――さあ、バカなネズミどもが罠に向かってくるぞ……フハハハッ!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ