一年後
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北半球では当たり前になってきた記録的な猛暑日が続き、南半球ではヨハネスブルグで30cm近くの積雪がSNSで話題になった今夏。時は8月8日0時になった。
ジメジメとした熱帯夜の中、四谷警察署御苑大通交番勤務の夜勤五十嵐巡査と八幡巡査長が新宿御苑周辺の夜間巡回パトロールをしていた。
「やっぱ、暑いっすね〜」
先ほど泥酔して路上で寝込んでいたサラリーマンを救護して熱中症の疑いから救急車を手配して見送ったところだった。
五十嵐巡査は制帽を取りながら手で額の汗を拭った。
「まぁ、東京だからな」
八幡巡査長は蒸れる警察ベストに空気を入れるようにちょっとベストを持ち上げながら答えた。
一息付いた二人は身だしなみを整えると交番に戻るよう歩を進めようとした時。
『警視庁より四谷』
『四谷です、どうそ』
『御苑管理事務所より110番。指令端末を確認、最寄りのPB等の派遣をされたい。場所にあっては、御苑洋式庭園にて警備員が巡回中に営業中にはなかった穴、および階段状の人工物があるとの通報。同所において何か焦げたような匂いがするものの火などは確認されなかったとのこと。マル通、警備員の藤田なる男性。現在は警備室にて待機中とのこと、どうぞ』
『四谷、了解しました』
『四谷宛、110番整理番号01番。時間0時02分です。どうぞ』
『四谷、了解。担当橘です、どうぞ』
『警視庁、了解。以上、警視庁』
無線上でこう流れて来た。
「今、一番近いの、多分俺らっすね」
五十嵐が八幡にそう言うと八幡も頷きながら駆け足で御苑の方に向かった。
小走りで2分後、五十嵐と八幡は御苑の新宿門に着いた。
八幡が無線機を息があがりながら無線機で話している最中、五十嵐は通報者の藤田に声を掛けた。
「通報者の藤田さんですか?」
藤田なる警備員は50代のガタイの良い坊主の渋いおじさんだった。
「あ、はい。私です」
藤田は五十嵐に頭を下げつつ目の前の椅子に座るよう促しながら二人のために冷たい水を渡した。
五十嵐は感謝しながら椅子に座り藤田に話を聞いた。
「御苑ないに見たことのないものがあったとのことですが・・・」
五十嵐が話し始めると藤田はおもむろにスマホを出し五十嵐に渡した。
「後で行くと思うのですが、先に通報した時の画像と映像です。言葉で説明するより見てもらった方が早いかなと思って」
五十嵐はスマホを受け取るとじっくりと画像と映像を確認した。
八幡が通信を終えて合流した時にスマホを彼に渡した。
八幡は画像と映像を険しい顔で見分しだした。
「誰かがやった可能性ってありますか?」
五十嵐が藤田に訊いた。
「閉園時にはなかったので、夜中の巡回中に見つけたので5時間でこれくらいのものが私たちにバレず出来るかって言われるとちょっと疑問ではあります。」
「中に入ってみましたか?」
五十嵐がそう聞くと藤田は首をブンブン横に振った。
「何があるかもわからないので」
八幡は藤田にスマホを返しながら、静かに深く息を吐いた。
「……現場、案内してもらえますか?」
藤田は立ち上がり、「はい、こちらです」と御苑内へと歩き出した。
警備室を出て、懐中電灯の光を頼りに洋式庭園の奥へと進む三人。
夜の新宿御苑は不気味なほど静まり返っており、時おりセミの鳴き声が遠くでかすかに聞こえる程度だった。
あのジメジメとした熱帯夜の空気が、どこか肌寒い感覚に変わってきていることに、五十嵐は気づいた。
「ここです」
藤田が足を止めた先、芝生の一角に、不自然に黒く焦げたような穴がぽっかりと空いていた。
まるで地面が内側から破裂したかのように、円形に抉れ、その中心に向かって、階段状の構造物が地下へと続いていて下は暗闇に包まれていた。
表面は金属にも石にも見えるが、どちらでもない不思議な材質。しかも、ほんのりと青白い光を放っている。
八幡は眉間に皺を寄せた。
「これは……ただの陥没じゃねぇな。人工物だ。しかも……火災の形跡もない。光ってる? なんだこれ」
「五時間で、誰かがこれを造ったと考える方が無理あるな……」
五十嵐も同じく呟く。
足元には焦げたような石片や、ねじれた鉄くずのようなものが散乱していた。
八幡は再び無線機を取り、冷静に報告を始めた。
『至急、至急。御苑大通PBより警視庁』
『至急、至急。御苑大通、どうぞ』
『新宿御苑洋式庭園内現着。詳細にあっては人工的な陥没構造を確認。地下に続く階段あり。発光を伴う未知の構造物。焦げ付くような匂いはあるものの火災の形跡なし。現場写真・映像取得済み。現時点では立ち入り未実施。事件性は未確定。追加応援の派遣を要請します、どうぞ』
『警視庁、了解。周囲の安全確保を最優先に、どうぞ』
『御苑大通、了解。以上御苑大通』
藤田を帰らせた五十嵐に八幡は目配せしながら、腰のライトを再点灯した。
「……封鎖できるほどの人手もない。最低限、誰かが出入りしないように我々で張り付きだな」
「マジっすか。でもこれってダンジョンみたいっすよね……」
五十嵐が小声でつぶやく。
「ふふふ、ダンジョン・・・な」
八幡は懐中電灯を穴の奥へ照らしながら、かすかに笑った。
突拍子もないこの言葉が本当であることを彼らが知るのはまだ先の事であった。
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