いじいじ
どうぞ今回も気軽にページをめくってもらえたら嬉しいです!
さて、皆さんはダンジョンと聞いてまず何を思い浮かべるか?
迷宮のような場所にトラップやモンスターがウジャウジャいて階層ごとにテーマが決まっており、下に行けば行くほど強くなるっていうのが基本だろう。
まぁ、このようなテンプレも悪くはない。が、面白くもない。
俺は黒い端末(便宜上、ダンパッドと呼ぶ)を色々といじくってみた。基本、現実上の端末と似て画面上にはもちろん見たことがないアプリが何個かあり、今開いてるアプリの画面にはなんかの数値と知らない単位があった。
『それはダンジョンポイント(DP)といい、モンスターの生成やダンジョンの拡張などに使われるものです』
無機質な声(便宜上、アイリスと呼ぶ)がそう答えていた。
アイリス曰く、DPは自然に増えるがその量は微々たるもので 一番増やすには、ダンジョン内で探索者が死ぬことでガッツリ入って来るらしいが、他にはダンジョンに入って来る人(探索者)が多ければDP収入が捗り、滞在時間も長ければさらにDPが入るらしい。
例えばの数字だが、探索者が死ぬと一気に50万DP入ってきて、探索者一人入ると200DP貰えて、1時間滞在する毎に100DP入ってくるらしい。
そこで、最初から超危険なダンジョンを作ろうとするダンジョンマスターがいてもおかしくはないと俺は考える。ただ、超危険なダンジョンに潜る人はなかなかいないのではないのかっていうのが普通だと思うし、安定的なDP収入にはならないと踏んでいる。
ある一定の場所にいっぱい人を呼ぶことができ、さらに長時間滞在させるにはどうすべきか?そう、ダンジョンを行楽地にするっていうのが俺の答えだ。
ダンジョンの一階層はモンスターなんかいないダンジョン都市を作ってしまえばいいじゃないか!
「アイリス?」
最初は、アイリス呼びは無視していたが、名前がないと会話しにくいという“ちゃんとした”理由を聞いたら渋々了承した。
『なんでしょうか?』
「このモンスター図鑑やトラップ図鑑みたいに“異種族”を作るためのコストが載ってる手引書とかある?」
しばしの沈黙の後、
『――確認しました。異種族創造に関する初期手引き書を表示します』
そう言うと、ダンパッドの画面が一瞬揺らめき、いくつかのアイコンが並ぶ新しいページが開いた。そこには、「種族基本設計」「文化・言語設定」「初期ステータス」「忠誠傾向」「社会性スケール」などと書かれている。なるほど、ゲームのキャラメイクに近いが、はるかに奥が深い。
「おお……すごいなこれ。もはや生物をデザインするってレベルじゃねぇ……」
ページをめくっていくと、DPの消費量が各項目ごとに記載されていた。単なる人型で言語能力も平均的な種族なら3万DP程度。一方で飛行能力や魔法適性、特殊な生殖形態などを持たせると10万、15万とどんどん膨れ上がっていく。
『ご注意ください。創造された種族はダンジョン内にて「原初存在」として位置づけられ、以後のダンジョン社会の根幹を担います』
「……つまり、最初に作る種族の性質が、この街の文化や価値観に直結するってことか」
『はい。なお、創造後の“人格形成”や“社会適応性”は、ダンジョンマスターであるあなたの行動によって変化する可能性があります』
「うーん……責任重っ」
が、面白い。こんなこと、現実じゃ絶対にできない。
世界を一から作れる感覚。これはもう、「創造神ごっこ」の最上級だ。
「じゃあ、まずは……都市建設向きで、長時間滞在する探索者にも対応できるような、“友好的で知能が高く、建築や経済運用に長けた種族”を作るのがいいかな……」
そう呟きながら、俺はダンパッドを操作し始めた。
“最初の種族”をどうするか――。
どんなものでもイメージは命だ。
どんなに業績が良くても、オフィスがボロくて薄暗ければ誰も就職したがらない。どれほど頭が切れても、顔が酷ければ恋愛対象にすら入らない。
だったら当然、俺が作ろうとしているダンジョン都市も、最初に登場する種族の「第一印象」がすべてだ。
そこで俺は都市の顔となる二つの種族のレシピを作ってみた。
犬型種族 (ヴァルスリッド)
原姿形態:通常や戦闘時は犬型の姿形である。体躯はウルフドッグのような大きさで、背には鷲のような力強い翼を持つ。額や翼に幾何学的紋様があり、色や大きさに社会的意味がある。
変化形態:人型に似た形を取るが、耳や尻尾、翼は残る。多種族との交流や儀礼、教育などはこの形態で接する。
特徴:知識の収集・保存の他、知識の応用・教育・共有に価値を見出す種族で、額や翼の紋様は社会への貢献度や成果によって大きく明るくなる。
猫型種族 (リセリア)
原姿形態:通常時や戦闘時は猫型の姿形である。体躯はマヌルネコのような大きさで、背にはフクロウのような柔らかくしなやかな翼を持つ。額にある宝石の形、大きさ、色に社会的意味がある。
変化形態:人型に似た形を取るが、耳や尻尾、翼、額の宝石は残る。多種族との交流時や創作の場や祭典、社交の場で好まれる形態。
特徴:創造と芸術に価値を見出すが、かなり気まぐれ。宝石の形、大きさ、色は作ってきたものの多さと他からの評価によって変わる。
みんな大好き「ケモナー枠」である。
しっぽ、耳、羽、獣耳美形、獣翼イケメン。
それでいて中身はインテリな教育者と情熱的なアーティスト。
……売れる。間違いなく売れる。
一部のオタクどもが毎日通う姿が簡単に思い浮かべる。
問題はコストだ。
『生成に必要なコストは一体あたり14万DPです』
アイリスが無情にも現実を突きつけてきた。
今現在あるDPは200万DP。小さい村の制作に最低限150万DP。
最低でも各種族4体ずつ欲しい。合計112万DP。
うーん72万DP足りない。
さて、みんなは起業をしたことはあるだろうか?
いや、さして言う私も実はない。だが、資金が足りないもしくは集めるために彼らが何をするか知っているだろうか?
そう、融資――という名の借金を受けるのだ。
ダンパッドの連絡先機能にはご丁寧にエンティティーという名と連絡先がポツンと入っている。
…さぁ、悪魔と――いや、悪魔的な契約を交わすとしよう。
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次の展開もいろいろ考えてるので、よかったら引き続きお付き合いください。
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