俺のS○riが無視する件について
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目を開けると、そこには漆黒の世界が広がっていた。
空はなく、風もない。ただ足元には、冷たい石畳の感触だけが現実だった。目を凝らすと、遠くに仄かな灯りが揺らいでいる。
俺はゆっくりと、慎重に歩みを進めた。足音は不思議と響かず、ただ視界の中心にある灯りが少しずつ近づいてくる。やがて、光の中心に浮かび上がってきたのは――
一つのデスクだった。
高級感のある木製の机が、漆黒の空間にぽつんと鎮座している。その深い色合いの木肌は、触れれば微かに冷たく、重厚な存在感を放っていた。無造作に置かれたそれには違和感があるはずなのに、何故か妙に納得できてしまうから不思議だ。
その上にはデスクランプが一つ、淡い光を灯し、二つの物体を照らしていた。
ひとつは、マットな質感で黒く光る板――見覚えがある。まるで最新型のスマートフォンのような形状だ。
そしてもうひとつは、俺の身長の半分ほどもある、先端に装飾的なクリスタルを嵌め込んだ杖だった。
「……えらくファンタジーに寄せてきたな」
そうつぶやいた瞬間、不意に空間に“声”が響いた。無機質で、どこか合成音のようなそれは、誰の口から発せられたものでもなかった。
『管理者認証完了。ダンジョン構成ユニット、初期設定を開始します』
「……やぁ、Siri。今日の俺の運勢は?」
反応はない。むしろ期待していた。まあ、そうだよな。
『この空間は、あなた専用の初期設定領域です。現在、ダンジョン本体の基礎構造を仮生成中。』
『基本フレームの展開を確認。地形、規模、基底エネルギー分布を自動で割り振ります。』
「自動で? ってことはテンプレってわけか……。まぁ、最初から全部作れって言われるよりマシか」
スマホのような端末に、立体的な図形が浮かび上がった。地図のような、しかしどこにも存在しない風景。山、洞窟、光のライン――それがどんどん組み上がっていく。
だが、そこに違和感が残る。これが『俺の』ダンジョン? 俺の思考や記憶が一切介在しないまま、ただよく分からんシステムが吐き出しただけのデータが、果たして『俺の』と呼べるのか?
『構造の再構築は随時可能です。あなたの思考・記憶・意志をもとに、改変・拡張・破壊が可能です』
まるで、俺の心の動きを読み取ったかのように、補足の声が続いた。
『不満、違和感、期待――すべては反映対象となります。あなたが「望まないもの」さえ、再定義可能です』
「……本当に、神扱いってわけか」
『あなたは、あなたの領域において全権を持ちます。神、あるいは創造主として振る舞うことが許されています』
その言葉に、背筋が少しだけ冷えた。
それは、自由のようでいて、責任でもある。
どう設計しようか。どういう目的を持たせようか。
俺の足元で、石畳が一枚、勝手に剥がれ、崩れていった。
『この空間はあなたの想像に従い変化します。願望、記憶、恐怖、願い――いかなるものでも構成要素となります』
「夢みたいだな。でも、夢じゃないってことは……」
ここが現実なのだ。
思えば、死後にこんな機会を与えられるなんて、普通はあり得ない。
だからこそ――何を創るかが試される。
俺は杖を手に取った。重さはちょうどよく、掌に馴染む感触。魔法使いの気分だ。
続いて、黒い板状の端末に触れる。指先から、心地の良い冷たさが伝わる。
『ようこそ、ダンジョンマスター。これより、あなたの世界が始まります』
さて、やるか。
ここから先は、俺次第だ。
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次の展開もいろいろ考えてるので、よかったら引き続きお付き合いください。
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