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街へ

どうぞ今回も気軽にページをめくってもらえたら嬉しいです!


霞ヶ関で政治家たちが慌てて動く中、――その同じ頃。

そんなことが起きているのを全く知らない竹本たち一行は、澄んだ空気の中をミーシャたちに案内されながら歩いていた。

「ここって雪結構降るんですか?」

隊員の一人が尋ねた。動き出す前に隊員全員Dカードを入手していた。

「まぁ、ここの平原では結構降りますね。」

ツヴァイが白い息を吐きながら肩越しに答える。

「地上の街では聖樹・カルタスが街の大部分を覆っていますのであまり積もらないんです。」

「へぇ〜。あの大きい木はカルタスって言うんですね。」

竹本が天高く聳える木を指差しながら訊いた。

「そうにゃ。聖樹は大きいから中に議会とかがあるにゃ。根っこの周りからは水がすんごい湧いていて、そこから川が四つも流れ出してるの。」

ミーシャが指揮者の如く枝を振りながら答えた。

「いつ見ても聖樹は綺麗なんだにゃ。」

ミーシャはしみじみとした様子で遠くを眺めていた。

「話をへし折ってすみませんミーシャさん。ツヴァイさん、先程“地上の街”って言いましたか?」

隊員の一人が横から口を挟んだ。

「え?あぁ、そうです。さっきも見た通り、我々にはこの姿の他に、このように――」

ツヴァイが淡い光に包まれ、一瞬で翼の生えた大型の犬に変身して、また人の姿に戻った。

「原姿形態っていう姿がありまして、普通に生活する時や戦闘時にはこの姿になるんです。それで聖樹の周りには浮遊地が何個かありますのでそこに一部住んでいるんです。」

ツヴァイが指差した先を竹本は双眼鏡で見る。

すると薄い雲の中に、岩肌ごと空に浮かぶような小さな島陰が見えた気がした。

竹本は他の隊員に双眼鏡を渡しながら足を進めた。

「そこへ行くには翼を生やすしかないんですか?」

隊員が純粋な気持ちで訊くと、ミーシャが笑いながら答えた。

「にゃはははは。面白いことを言うね、君。君たちみたいに翼がない人たちもナフスって言う乗りものに乗れば行けるよ。」

「な、ナフス?」

「それは後でお見せした方が良いと思うので後で説明します。さぁ、皆さん、あともう少しですよ。」

そうツヴァイが言う。

確かにツヴァイが言うように雪のカーテンの先に高い城壁と城門が見えた。

建築様式は中世ヨーロッパのように胸壁や狭間を備えていて、その高さは目測20m。

灰色のカーテンウォールから等間隔に側防塔が突出していてその上の尖塔には雪が積もっていた。

胸壁の間から警備らしき影と無数の篝火がデコレーションみたいに輝いて見えた。

「何でこんな立派な防壁を?」

隊員が無意識に銃のストラップを握り締めながらツヴァイに訊いた。

「皆さんがDカードを入手するために潰したのは所謂スライムっていうモンスター何です。他にも何種類かのモンスターがいるのですが、冬は寒さであまり動かないんです。ただ、雪が溶けると活発になりますので、基本すべて弱いですが、街に入れないようのための壁です。」

「創造神様はちゅうせい?とかいうそちらの時代のお城がかっこいいとか言ってたみたいだけど。」

ボソッとミーシャが聞こえるか聞こえないかギリギリの大きさの声で言うとツヴァイがミーシャを軽く叩いた。

ふぎゃっていう潰れた蛙のような音をミーシャが出して、彼女は頭を刺すりはしたが、何を思ったのか反撃しなかった。

竹本たちはミーシャの返答がよく聴こえず、何が起きているのか分からなかったがいつものじゃれあいだと思い、スルーした。

一級河川のように広い水堀に掛かる木製の橋を渡りはじめた。

この跳ね橋自体、長いし、広い。支えている鉄の鎖もバイクのタイヤ程の大きさと太さがあった。

そんな橋の下を轟々という音ともに堀の水が勢い良く流れる。

一行が橋を渡り切るとツヴァイが潜り戸を三度叩いた。

鈍い金属音が響いて、数秒何も起きなかった。

大丈夫か?――と心配になりかけた時、潜り戸の一部が開き、一対の鋭い目が現れた。

「誰だ?」

低いハスキーな声がした。

「ツヴァイです。外界からの初めての来客です。対応をお願いしたいのですが。」

ツヴァイが後ろに立つ竹本たちを見せながら答えた。

その一対の眼は竹本たちをギロっと見回すと

「ちょっと待ってろ。」

そう言って一対の眼が消えた。

次の瞬間、鉄と石が擦れるような鈍い音と共に潜り戸がゆっくり開いた。

そこから先ほどの鋭い視線持ち主が出てきた。黒いマントを羽織っていて身体はあまり見えないが、所々肩などが角張っていたことから何かしらの鎧を着ているのだろう。手には長い槍がしっかり握られていて頭には片方だけ倒れた猫耳がついていた。

「カルタリアへ、ようこそお客さん。俺は門番のアレクセイだ。本名はもっと長くて分からないと思うからアレクセイと呼んでくれ。」

ハスキーな声でアレクセイが自己紹介した。

「この街に入るためのルールなんだが、探索者含め、武器の所持は原則衛兵以外禁止なんだ。地下ダンジョンに入る時とこの街に出る時に返却される。そういうことで、この箱に入れてくれ。」

アレクセイがポンポンと大きい箱を叩きながら説明した。

「隊長?」

牧が不安そうに訊く。

「不安はわかるが、それがルールならしょうがない。我々も装備一式肌身離してはいけないが、きちんと保管されて返されるのであれば問題ない。君たちは勝手に手に取ったりしないんだろう?」

アレクセイに訊くと彼は頷いていた。

「この箱は別空間の保管庫に繋がっていて、我々は本人の前でしか出し入れしかできない。保管庫自体は創造神様しか絶対に触れないから安心しろ。」

その説明を聞いても尚な人かの隊員は不安そうな雰囲気を持っていたのを見て竹本は困った。

そこでアレクセイがある提案をした。

「君たちの不安も分かった。そこでだ。ここの守衛室を貸そう。そこに武器や装備を置いても良いし、お前達のうち何人かが見張りをすれば万事解決じゃないか?」

その提案を聞いた一同は顔を見合わせた。

確かにそうすれば、安心は出来る。決断を仰ぐため揃って竹本を見る。

竹本は寒さで白くなったため息を吐きながら頭を下げた。

「助かる。こっちも装備一式の取り扱いに関する厳しい取り決めがあるんだ。」

そういうとアレクセイが頷く。

「わかった。じゃあ、みんな一度中に入ってくれ。」

アレクセイが入り口で手招くと、竹本は肩に力を入れて戸口を跨いだ。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

少しでも楽しんでもらえたなら、それが一番のご褒美です。

次の展開もいろいろ考えてるので、よかったら引き続きお付き合いください。

感想や応援の言葉、とても励みになります!

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