そして、東京
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全国の自衛隊から、各地のダンジョンに関する報告がひっきりなしに集まってくる。
危機管理センターの空気は張り詰め、モニターには各県の現場映像と数値が並んでいた。
その中で、松殿総理大臣はひとり深く椅子に腰を預け、思索に沈んでいた。
今の所、一部を除き、ほとんどのダンジョン内に敵性生物が見つかっている。
まだ、出てきてはいないようだが、中国みたいにそれらが出て来る可能性がある。
アルメリヤ合衆国経由の情報によれば、中国軍は地上に大量に出てきている敵性生物たちの攻撃によりかなりの損害を出していると言う情報もある。
また、合衆国の方では封鎖や爆破などによる“穴”の破壊作戦も試みられたが、結論から言うと全て失敗に終わったとのことだ。
そういうことから松殿は背もたれに体を預けながら、こめかみをさすっていた。
そんな時――
「波多野防衛大臣。統合幕僚長から緊急電話です。」
秘書官の一人が隣の防衛大臣に声をかけた。
「首相。少し失礼します。」
波多野がそう言って頭を下げると秘書官を追って部屋から出る。
――何だろう?そう思いながらも今後の対応について松殿は思考に沈んでいた。
数分後、波多野が戻ってきた。その顔はいつも以上に険しい。
そんな様子を見た松殿は少し心配になりながら、近づく彼を待った。
「首相、緊急事態です。」
波多野が小声でいきなり伝えた。
「災害?戦争?」
「いや……この件に関することで」
波多野は周囲の官僚や警備員たちに目をやりながら声を潜めた。
「何です?」
松殿が問い返すと、波多野は一歩近づき、小さく告げた。
「熊本で――知性を持つ種族と、コンタクトが取れたそうです。」
「最初からお願いします。」
危機管理センターの横の空き部屋。
分厚いドア越しにくぐもった声が絶え間なく聞こえてきた。松殿総理大臣は、狭い応接用のテーブル越しに問いかけた。
席についた波多野の前をストレスでウロウロと行ったり来たりしている。
冷静でいなければと自分に言い聞かせながらも、松殿の足は止まらなかった。
波多野はそんな様子を無表情で見ながら淡々と答えた。
「熊本の“穴”、ダンジョンってとりあえず言いますが、では敵性生物が入った当初いないと言う報告でした。具体的に言うと階段の先にはエレベーターホールみたいな空間が広がっていたようです。」
一度言葉を区切ると松殿が目の前の椅子にどかっと腰掛けた。
「実際、エレベーターみたいに昇降するみたいで一部隊が降りた所、さらに広い空間が見つかり、そこに都市らしき構造物を複数確認し、現地住民と接触したとの報告です。」
それを聞いた松殿首相は両肘、机に突きながら顔を覆った。
「その種族は未確認の言語で喋るらしいですが、“Dカード”っていう向こうのスマホらしき端末を入手した隊員が相互コミュニケーションをしたとのことです。」
松殿首相は何とも表現し難い呻き声を上げた。
「隊員が一人報告に戻って来たらしいのですが、残りは更なる情報収集のため都市に向かったようです。」
それを聞いた松殿は顔を上げた。
「まずいよ、それ。」
「えぇ。まずいです。」
波多野は激しく同意した。防衛大臣兼外務大臣、いや一政治家として色々まずいと分かっていた。
ファーストコンタクトなんて宇宙開発がより進んだ数百年先の話だと思っていたが、まさか今だとは夢にも思わなかった。
そして何より、自衛隊員という“軍人”が、ファーストコンタクトをとっているのが非常にまずかった。
向こうがどれくらい発達した文明なのか分からないが、いたずらにこちらの文明レベルを見せつけるのは色々な観点からやばい。
他にも外交、文化、衛生、安全保障の観点から今すぐ彼らを引き戻させたかった。
「ただ、今帰還命令を出しても電波が繋がらないため彼らに伝わるのに最低20分かかるらしいです。」
それを聞いた松殿はレディらしからぬ唸り声を上げた。
「総理、どうしますか?」
波多野が真剣な顔で松殿を見つめる。
松殿は冷や汗が止まらなかった。世界、そして国内で色々なことが同時多発的に起きているが、それらを全て凌駕するような発見である。
他国でファーストコンタクトなんか聞いていない。まぁ、あったとしても隠すだろう。
でも、そんな隠蔽も今の所内調と外務省からは上がって来ていない。
おそらく、世界で唯一の発見であろう。
「なんで熊本なんだ?」
ふと疑問が口をついたが、波多野には答えなかった。
いや、答えを知らなかったから答えられなかったが正しいだろう。
空調の音がやけに大きく聞こえた。夏なのに空調のせいか松殿は身震いをした。
そんな中、彼女は深いため息を吐きながら口を開いた。
「・・・波多野君、ここの部屋に至急閣僚たちを全員集めて下さい。」
波多野が頷き、席を立とうとしたのを彼女は手で制した。
「盗聴されるかもしれませんが、致し方ありません。オンライン会議で熊本県知事と熊本のダンジョン突入を指揮している自衛隊幹部も呼んでください。彼らの意見、報告が必要でしょう。専門家はあまりいないと思いますが、考えられる知識人にも声がけを。」
波多野は一瞬躊躇したが、力強く頷きスマホを片手に部屋を足早に退出した。
波多野が出ていくのを見届けると、松殿は深く息を吐いた。
――この国の未来、いや世界が、熊本の地下で動き出している。
そう思うと、胸の奥が一層ざわついた。
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次の展開もいろいろ考えてるので、よかったら引き続きお付き合いください。
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