この穴、異常あり!
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菊池竜司・第八師団長は湯気の立つ湯呑を静かに口へ運んだ。
夏ではあるものの、仮本部のある熊本市総合保険福祉センターの会議室は冷房が良く効いていた。
歳もあるが、冷房の効いた部屋で飲む熱いお茶は何だが格別に美味しかった。
菊池は湯呑を置くと、次の報告書に目を落とした。
基地の通常業務の他に、穴の周辺と中から続々と報告が上がってきていた。
ここも東京と同様、電波が通じなかった。竹本にはその場合、紙と伝令による直接報告をするように命じており、数分ごとに穴の中から連絡が入ってきていた。
中の様子はまるで他県の穴とは違う。
新宿御苑の方は、入ってすぐ敵性の未確認生物が発見されたらしい。
他県のダンジョンも姿形は違うものの敵性生物が見つかっている。
こっちはそんなものは今の所見つかっていない。
何なら中の環境も新宿などでは地面、床、天井も剥き出しの岩だらけらしいが、こっちは匠が作ったかのように整っていて、しまいにはシャンデリアまである。
「・・・・これじゃあ、他ん所の情報は使えんなぁ。」
ペンの尻で頭を掻きながら呟く。その眉間には深い皺が刻まれていた。
この違いはなんだ?なんで明らかに人工物みたいなものが見つかるんだ?
そんな疑問が頭の中で反芻していた時、会議室の外から足音が聞こえた。
音からして全力疾走に近い感じだ。
菊池は顔を上げた。竹本たちに何かが――そう思った瞬間、会議室の扉が勢いよく開いた。
「師団長!師団長!」
隊員が大声を上げながら飛び込んできた。
「何事だ?」
菊池がデスクで厳かな雰囲気を出しながら返答した。
「こちらを・・・!」
そう言った伝令が汗だくで息を切らしながらメモとカメラを渡してきた。
菊池は訝しげながらそれらを手に取った。
目を通すと一瞬眉が動く。
読み進める中、顔面は見る見る内に蒼白になっていた。
カメラを手に取ろうとした時、菊池は自分の手が小刻みに震えているのに気づいた。
その様子を見ていた幹部たちは言葉を失っていた。
あの大地震が起きた時も顔色ひとつ変えず冷静に指令を出していた男が――目に見えて動揺している。
あのメモの切れ端とカメラには何があるんだろう。知りたいけど、知りたくない自分もいた。
見終わった、菊池は震える手を抑えながら伝令を見据えた。
「これは、本当・・・なのか?」
すると、伝令は周りから見えないようにしながらポケットから何か取り出した。
師団長の耳に小声で何か説明したかと思えば、姿勢を正して次の指令を待つ為背筋を伸ばした。
菊池はカラカラになった喉を潤すため茶を一口含んだ。
――なんてものを持ち帰ってきたんだ!竹本!
心の中でそう叫びながら受話器を手に取った。
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次の展開もいろいろ考えてるので、よかったら引き続きお付き合いください。
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