We are・・・・
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「・・・・ダンジョン都市、カルタリア?」
竹本は押し寄せる情報量の多さに頭がパンクしかけていた.
そんなところ、猫耳の少女?――声の高さからして少女っぽい――が尻尾を指でくるくると弄びながら声を掛けてきた。
「うん。私たちが色々と説明する前に君の仲間達に状況を伝えた方が良いんじゃないかにゃ?」
なんか今どきの女子高生のような軽い口調に、飛び掛かっていた自分の思考が引き戻された。
“な”が所々何故か“にゃ”と変換されているのはバグなのか?それとも彼らの言葉なのだろうか?
いや、あの犬耳が猫耳に向けているジト目を見る限りどっちも違う。
・・・たぶん癖だな。
そんなくだらない思考が一瞬頭をよぎったが、すぐに振り払う。
そうだ、俺は隊長だ。混乱している場合じゃない。しっかりしろ、俺!
竹本は自分の頬を軽く叩いて気合いを入れると、息を呑んで見守っていた隊員達に手を振って呼んだ。
「おーい。みんな来てくれ!」
そんな様子を見て、警戒を少し解きながらも、しっかり銃を握りしめながら隊員達が慎重に近づいてくる。
そんな中、自分の背後でヒソヒソとした声が聞こえた。
「その変な“にゃ”は人前で使うなって言ったでしょ、ミーシャ」
「そんにゃこと言ってたっけ?」
「だから!」
小声での小言合戦が勃発していた。
どっかの優等生の先輩と不良の後輩によるコントのようなズレたやり取りに、竹本は思わず苦笑を漏らす。
良く状況は掴めていないが、このスマホみたいな端末を手にした途端彼らの言葉が分かるようになった。
――そして、どうやら彼女達は今のところ“敵”ではなさそうだ。
隊員達が竹本の周りに集まってくる。
その背後では、なおも芸人じみた掛け合いを続ける二人。
言葉こそ分からないが――片方が説教していて、もう片方が面倒くさそうに髪を弄っている――
その構図だけで、隊員たちはなんとなく状況を理解したようだった。
互いに視線を交わしながら、困惑したようにチラチラと二人の方を見ている。
竹本はごほんと咳払いして、皆の視線を集めた。
「分かる範囲で今の状況を説明する。ここはダンジョン都市、“カルタリア”っていう場所らしい。彼女ら――」
そう言って、未だにミーシャを説教しようと奮戦している犬耳と右から左のミーシャを親指で指しながら続けた。
「――の指図で、雪玉みたいな何かを突き刺すとこのスマホみたいな端末が手に入った。これを手にした途端彼らの言葉が理解出来るようになった。」
竹本は息を吐き出した。白く上った空気は冷たい風によって霧散した。
「そこで、一人か二人。この後、あの二人と証拠写真と映像記録を撮った後、上に戻って報告してくれ。メモじゃ信じてくれないからちゃんと自分の口で報告してくれ。」
牧がずっと映像記録していた隊員と目を合わせると、黙って役目を決めた。
その隊員はやれやれみたいな顔をしていたが拒否はしなかった。
「隊長。彼らは一体何者なのでしょうか?」
隊員の一人が質問した。良い質問だ。
そこでは、犬耳の青年が胡座をかいて不貞腐れ、ミーシャは拾った枝で雪をキャンバスに絵を描いていた。
内容は――見事に犬耳のデフォルメ似顔絵。しかも短時間で描いた割に上手い。
ミーシャは得意げに手をパンパンと払い、ムフーと胸を張っている。
……うん、ミーシャはガキだな。竹本の脳内データベースに登録された。
「おい、二人とも。そういえば自己紹介をしてなかった。俺は竹本。陸上自衛隊というところに所属する隊員の一人だ。お前達は?」
「うん?あぁ、うちはミーシャって言うにゃ。リセリアの戦士にゃ。」
枝を剣のように掲げながら返答するミーシャを恨めしそうに睨む犬耳の青年がため息をつきながら口を開いた。
「私の名前は、ツヴァイ。由緒あるエクサーゴ家の四男。誇りあるヴァルスリッドの戦士だ。」
ツヴァイが胸を張りながら言うと、ミーシャがウヘェみたいな顔をしていた。
「そこでアホヅラを晒している雌猫とパトロール中に、中央から“初めての来客”への対応を任されたわけだ。」
「ムゥ。アホヅラとは失礼にゃ。私は可愛いレディだにゃ。」
ミーシャが頬を膨れさせながら抗議した。
いや、反論する所そこ?雌猫じゃないの?そう竹本は心の中で突っ込みながら脱線しそうな話を強引に断ち切った。
「ツヴァイに質問なんだが、カルタリアには何人住んでいるんだ?さっき降りてきて見えた所、結構いそうなんだけど?」
今にも言葉のキャットファイトを始めようとしていた二人は不満顔ながら鉾を収めた。
「・・・あ、あぁ。正確な数までは覚えてないが、最近“祝・2万人記念祭”があったから2万人以上はいるんじゃないかなぁ?」
ツヴァイが肩に積もった雪を払いながら答えた。
2万人以上か。結構いるなぁ。
「ここは誰が作ったんだ?」
竹本がふっと訊くと
「うむ。創造神様が我々とこの場所を作ったんだにゃ。」
――創造神。いきなりスケールが違いすぎて、頭が追いつかない。
その返答に立ちくらみがしそうなのを抑えながら聞き返した。
「そ、創造神様?」
「あぁ。創造神様がこの土地、街、そして我々の始祖を生み出したんだ。」
ツヴァイがうんうんと頷き、腕組みながら答えた。
それをメモ帳に疑いながらも記録して、後ろにいる隊員達に渡した。
「その創造神様がこの街のリーダーなんですかねぇ?」
牧が読み終わった後、そう訊いてきたのでそのままミーシャ達に伝えると、ツヴァイが首を振った。
「いや。創造神様は通常の都市の運営には関わっていない。街のリーダーは評議会の議長だ。ただ、創造神様は街全体に影響するような重要な事柄について最終決定権を持っていらっしゃる。」
「でも、創造神様の依代が出来ていないから今直接会うことは無理にゃ。」
竹本は再びメモして後方へ渡した。
「まぁ。もっと聞きたいことがあると思うが、街の方で続きは話さないか?ここで長々と立ち話をするのはなんかだし。団長もお待ちだ。」
ツヴァイがポケットから端末を取り出しながら提案した。
「そうにゃ。寒いし、怠いし。暖かいお酒でも飲みながらって・・・痛ぁ!」
ツヴァイがミーシャの頭を叩いた。
ミーシャが反撃として雪玉をツヴァイの顔面にぶち当てたのを皮切りに目の前で子供のような喧嘩が勃発した。
それを無視しながら、竹本は隊員達を集め、話し始めた。
「さっき決めたように一人か二人、上にこの情報を伝えに戻ってくれ。他のものは俺と一緒に街に行くぞ。」
「安全なんですか隊長?」
牧が心配そうに訊いてきた。
「まぁ、そこの住民が全員あの二人のような感じではないと思うが、今の所敵意はなさそうだ。それに――」
竹本を見守る隊員達は今まで見たことのない隊長のキラキラとした眼に息を飲んだ。
「――虎穴に入らずんば、虎子を得ず。絶対、あの街はもっと何かあるはずだ。それを、俺は見たい。」
その強い決意が滲んだ言葉に、隊員達は誰一人笑わなかった。
彼らは互いに目を合わせると何か通じ合ったのか頷きあった。
「分かりました、隊長。その言葉お乗りします。ただ、通信はどうしますか?」
そう隊員の一人が代表して答えた。
「あぁ、報告に戻る隊員は帰還する前にカボチャ大の雪玉を見つけてそれを潰せ。そうすればこのスマホらしきものが手に入るはず。“通話”って書いてあるアプリ?があるからそれで連絡先を交換すれば通信が可能なんだと推測する。」
竹本がスマホらしき端末を見せながら説明した。
「それにゃんだが。」
後ろでミーシャが口を挟んだ。
チラッと見ると、ミーシャが勝利したのかピクピクと痙攣して雪の上で倒れ伏しているツヴァイの背中に堂々と座っていた。
「Dカードでの“通話”は同じ階層の人としか通じないのにゃ。」
竹本は手に握っていた端末に目を落とした。これは“Dカード”って言うらしい。
「要するに、上の階層に行っちゃうと繋がらにゃい。通話したいなら、また降りてこにゃいとダメにゃ。」
ミーシャが上を指しながら説明した。
あぁ。上のエレベーターホールとここは繋がらないって伝えたいんだな、そう理解した竹本は――
「ありがとう、ミーシャ。」
――心からの感謝を伝えた。
「うむ。苦しゅうにゃい。」
ドヤ顔で答えるミーシャ。
今の会話をメモに記録して隊員達に見せた。
「なんだか、本当にスマホっぽいですね、そのDカード。」
竹本が画面をスクロールするのを見ていた牧が嘆息しながら頭を振った。
「まぁ。そう言うことだからこのメモと映像記録、その他の空気調査などをきちんとまとめて、報告に行ってくれ。俺らは安全だが、きちんと菊池師団長に緊急事態だと伝えてくれ。」
カボチャ大の雪玉を潰してDカードを手にした隊員に頼んだ。
「了解しました、隊長。では行ってきます!」
そう言ってその隊員はエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターは凄まじい速度で山肌を駆け昇り、雲の中へと消える。
それを見送ると竹本は一拍、息を吐いた。
風で雪が舞い上がる中、覚悟がついたのか竹本は前を見据えた。
「お待たせ、ミーシャ。じゃぁ、行こうか。」
その声は、清々しく、力強かった。
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次の展開もいろいろ考えてるので、よかったら引き続きお付き合いください。
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