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Where am I ? Who are you?

どうぞ今回も気軽にページをめくってもらえたら嬉しいです!


エレベーターが下降して行く中、竹本を含めて隊員は皆無言だった。

何がいつ起きるか分からない、極限の緊張の中、皆出来るだけ平常を保とうとした。

すると、先までの灰色しか写していなかったガラスの向こう側が突如明るくなった。

急な明るい光に隊員一同目を覆った。

そして目が慣れた一同の下に広がっていたのは――

「・・・なんなんだこれ?」

隊員の一人が洩らした。

竹本もその光景に開いた口が塞がらなかった。

眼下に広がっていたのはどこまでも続く広大な平原と、エレベーターの左右には雪を被った山々が遥か遠くまで連なっている。

ガラス越しに流れていく雲が、白い霧の如く過ぎて行く。

飛行機の窓からしか見たことのないような光景だった。

雲を抜け、更に地面に近づくと、下の世界がハッキリと見えるようになった。

平原の中央あたりに目を向けると、そこにはとてつもなく大きい巨木が聳え立っていて、川らしき地形も見えた。

その木に、葉はついておらず、枝には雪が積もっているみたいだ。

下の地面も白銀に覆われ、冬のような景色が広がっていた。

そして、一番彼らの目を引いたのは――

「都市・・・だと」

そう巨木の周りの地面に都市らしき構造物が複数建っていて、道路に動きがあることから住民もいそうだ。

その都市上空にも活発な動きがあることから、なんらかの飛行手段がある文明なのだろう。

「隊長?」

隊員の一人が震える声で呆然と立ち尽くしていた竹本に声をかけた。

その声を聞き、竹本は頭を振った。

化け物との戦闘は覚悟していたが、知性のありそうな文明との接触は全く想定していなかった。

自衛隊でもそんな想定は今まで一度もしてこなかった。

そんなことを考えている内に、エレベーターが減速し出した。

「もしかしたら敵性の種族かもしれないが、相手を警戒させ過ぎるのも良くない。接触時は出来るだけ穏便にしよう。いいな。」

隊員たちは一斉に頷いた。

エレベーターが完全に停止すると――

チン。

さっき上で聴いたのと同じ乾いた電子音と共にドアが開いた。

途端に、冬特有の冷たい風が吹き込み、隊員たちは思わず身をすくめる。

重装備とはいえ、日本はいま夏。さっきまで蒸し暑さが嘘かのような寒気に、隊員一同、白い息を吐いた。

竹本はそんな中、覚悟を決めるとエレベーターから足を踏み出した。

南国では滅多に感じない雪の感触がブーツ越しに伝わる。これは粉雪なのだろうか?

見渡す限りの白銀の世界――確実に日本とは違う場所だ、そう確信した。

隊員たちが周りを警戒しながら機器を確認し始める中、双眼鏡で都市の方を観察していた隊員の一人が声を上げた。

「なにか来ます!」

竹本は指さす方をじっと見つめると雪が舞う空の中、黒い点がこっちに飛んで来ているのが見えた。

――速い。

「総員、警戒!」

竹本の号令で隊員たちはその方向に銃を向けた。

竹本は、セレクターに指を掛けながら、倍率スコープを覗く。

その黒い点はスコープ越しに急速に大きくなる。

形がはっきりしてくる――四肢? 尾? 翼……?

「……動物? いや――」

羽を広げ、風を切って飛ぶ。犬のような輪郭。そしてもう一体は猫か?

現実感のない光景に、竹本は息を呑んだ。

最初は見間違えたかと思ったが、肉眼で見えるまで近づいてきたそれらを見ると見間違えではないと分かった。

一匹は鷲のような力強い翼を羽ばたかせながら飛行する大きい茶色の犬っぽい生物で、もう片方が梟のようなしなやかな羽を持って優雅に飛ぶ白猫っぽい生物。

その二匹は自衛隊員の上空を一度ぐるりと回ると少し離れたところに着陸した。

雪が翼によって巻き上がった次の瞬間、白い光が二つの身体を包み込んだ。

まるで空気そのものが捻じ曲がったように、雪と光が収まるとそこには――人間に酷似した影が立っていた。

一瞬の出来事で呆気に取られた竹本たちだったが、警戒をより一層高めた。

その人間らしき者たちは、漫画やアニメなどで見たことのある所謂獣人のように頭にケモ耳、尻尾がついていて、背中には翼が折り畳まれていた。

犬耳の方は防寒具で全ては見えないが額になんらかの青白い幾何学紋様がついていて、猫耳の額にはサファイアのような小さい宝石らしきものが輝いていた。

犬耳の方が手を挙げると何か喋り掛けてきた。

声は男なのか低く、しかしどこか澄んだ響きを持っている。

全くわからないが、旋律のように美しく流れ、抑揚と強弱、一つ一つがまるで一楽章のような耳を楽しめるような言語だった。

竹本が代表して前に出た。

「こちらは日本国陸上自衛隊、第8師団隷下第42即応機動連隊所属情報小隊隊長、竹本だ。申し訳ないが、君たちの言葉が分からない。君達は、どこの国の人なんだ?」

尋ねていると背後で、チンという音と共に、牧達が降りてきた。

「隊長!」

牧が銃を肩に当てながら合流した。

「彼らは?」

「今、訊いてるところだ。」

そんな中、さっき喋ってきた方が竹本を指差しながら手招きをした。

その仕草はどう見ても“来い”という合図だった。

「こっちに来い、か。」

「隊長、危険すぎます!」

牧が制止する。だが竹本は、一瞬だけ目を細めて頷いた。

「分かってる。だが、ここで敵意を見せる方が危険だ。」

そういうと牧の肩を軽く叩いた。

「何かあったら、すぐ逃げろ。」

牧にしか聞こえない小さい声で頼むと、竹本はゆっくりと前に踏み出した。

雪がブーツの下で軋む中、一歩また一歩と足を進める。

隊員達が白い息を吐きながらハラハラと見守る。

ガスマスクのレンズが曇るのを手で拭きながら黙々と近づいた。

1から2mの距離まで近づくと、猫耳の方が竹本の前の地面を指差した。

困惑しながらそこを見ると、そこにはちょっと大きい、キャベツ大の雪玉が転がっていた。

こんな大きい雪玉で雪合戦がしたいのか?そんな馬鹿な考えが竹本の頭を一瞬過ぎったが、猫耳の方がその雪玉を踏み潰せ!みたいなジェスチャーをしていた。

「これを、踏み潰せば良いのか?」

竹本は身振りを交えながら尋ねると、意図が伝わったのか目の前の二人が頷いていた。

ここまで来た竹本はもうどうにでもなれ!の精神で言われた通り思いっきりその雪玉を踏んだ。

ふにょん。

なんとも柔らかい、そうヨガボールのような弾力性のある感触が返ってきた。

一気に潰せると思っていた竹本は思わぬ感触に一瞬体勢を崩し掛けたが、ずっこけずに済んだ。

パッと後ろを見て隊員達の様子を伺ったが、彼らは依然と心配な面持ちを保っていた。

よし、あの転けそうになったのを上手く誤魔化せそうだ。

目の前の二人は何も言わずニコニコと竹本を見ていた。

竹本は二人から目を離すと腰に付いたナイフをサッと抜くと一気に雪玉を刺した。

今度はジェリーを斬るような、あの半個体を切り裂くような感覚が手を伝った後、飴のような個体状の物が割れる感触もした。

すると、ポンっという小さな煙と共に雪玉が消えた。

雪玉がいた地面の上に、黒いスマホのような物体が代わりに落ちていた。

竹本はナイフを腰にしまうと、その非常に見覚えのある板状のオブジェクトを手に取った。

その瞬間、画面が急についた。日本で買える最新のスマホより圧倒的に軽く、しかも起動速度が尋常じゃなかった。

そんな、夢のようなスマホらしきものに感動していた時。

「言葉が分かるようになったかな、探索者さん?」

さっき聴いた低い声が竹本の耳に届いた、ただ今回はその言葉が理解できた。

顔をバッとあげると、温かい笑顔で彼らはこっちを見ていた。

「その様子なら分かるみたいだね。――ダンジョン都市、“カルタリア”へようこそ。」


ここまで読んでくださってありがとうございます!

少しでも楽しんでもらえたなら、それが一番のご褒美です。

次の展開もいろいろ考えてるので、よかったら引き続きお付き合いください。

感想や応援の言葉、とても励みになります!

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