出動3
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「本当に不気味だな」
菊池第8師団長が穴の中を覗き込みながら呟いた。
一時間ほど前、竹本は現場すぐ横の公共施設―熊本市総合保険福祉センターに仮の本部を設置していた。
本隊の到着後、穴の上に業務用の天幕が張られ、敷設小隊がドーザを使って簡易陣地を構築している。
その様子を見守っていた時、シキツウ(指揮通信車)が仮本部の前にゆっくりと滑り込んだ。
シキツウの扉が開いた瞬間、竹本は思わず姿勢を正した。
雨の帷の向こうから、大きな影が現れた。
見間違えるはずが無い。
降りてきたのは――まさかの菊池師団長本人だった。
師団長自ら現場に来るとは思ってもいなかったのだ。
てっきり、駐屯地に腰を据えて状況判断に徹すると思っていた。
なにせ、あの人は師団長兼駐屯司令なのだ。
「師団長!」
「おぅ。ひどい雨だな」
菊池師団長が雨にも負けないような声量で笑うように言い、軽く会釈した。
師団長は一言で言うとでっかい筋肉星人だ。196cmもあって筋肉隆々、きっちり決まった角刈り、鋭い眼光は自衛隊を体現したような人だ。
57歳の今でも筋トレを仕事時間の合間にして、机にはプロテインシェイカーが常備してある。モットーは“筋肉に解決できない問題は基本ない”だ。
もっとも、55歳で陸将補まで上り詰めたのは間違いない才能と頭脳のおかげであろう。
センター内に入ると師団長は帽子についた雨を軽く払い落としながら会議室にスタスタと向かった。
「で、どうだ、あの穴は?」
会議室の椅子にドカッと腰掛けながら竹本に聞いてきた。
「は。・・・何とも不気味な穴です。」
そう言って、自分が思った違和感を全て語った。
雨の遮断、光の奥行き、そして音の消失――
そのすべてを順に報告した。
報告を聞き終えると、菊池は顎に手を当て、短く唸った。
「……なるほどなぁ。聞いただけでは想像がつかん。」
雨音が窓を叩き続ける。
その中で、師団長の低い声だけが重く響いた。
「よし。見に行くか」
そう言って現在に至る。
菊池師団長は隊員から借りたフラッシュライトを穴の中に向けながら奥を見ようとしていた。
「穴の中の空気成分も気になりまして・・・念の為、8特防を呼んであります。」
竹本は横から師団長に言った。
師団長はフラッシュライトを隊員に返しながら背を伸ばした。
「まぁ。それがいいだろうな。」
その顔はいつも以上に険しく、声も固かった。
菊池師団長は空気が重くなったのを感じるとため息を吐きながら肩の力を抜いた。
「ここら辺は大きい病院が多くあるからそこの医療従事者や病人は通れるようにしてくれ」
竹本は頷くとそれを伝えようと外に向かおうとしたが呼び止められた。
「それと――負傷者が出た場合に備えて、各病院と即時連携できるようにしておけ。」
「はっ!」
竹本は本部に向かう為泥濘む地面を駆ける中、ふと後ろを振り向いた。
すると、穴を覆うテントが雨の中でもぼんやりと光っている様に見えた。
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