出動1
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竹本悠馬、第42即応機動連隊、情報小隊長は空になった食器を横目に北熊本駐屯地の幹部食堂でテレビ画面を睨んでいた。
そこには昨晩、東京で発見された未確認の地下構造物と現在中国で起きている未確認生物との戦闘状態が特番を組まれて早朝から昼に至るまで報道されていた。
竹本を含めた全国の自衛隊員に災害派遣待機命令が下り、続々と休暇中の隊員が帰隊していた。
竹本自身は部下と共にいつでも出動出来るように装備一類の点検と車両などの点検を終えたところだった。
横の椅子に上司の滝川本部管理中隊長が滑り込み黙々と昼ご飯を食べ始めた。
「さっき、福岡でも見つかったらしい」
滝川が突然小声でそう竹本に告げた。
竹本は背中が強張るのを感じながら強靭な精神力で動揺が顔に出ないように努めた。
「じゃぁ、ここにも・・・」
「まぁ、あってもおかしくは無いだろう」
滝川中隊長は水を飲み干しながら淡々とした口調で答えた。
テレビの音が微かに響く幹部食堂。
食器の擦れる音と、外から聞こえる車両のエンジン音が入り混じる中――
唐突に、駐屯地全体に重低音のスピーカーが鳴り響いた。
『全幹部隊員に通達。中隊長以上の幹部は直ちに司令部隊舎に集合せよ。繰り返す――中隊長以上の幹部は直ちに司令部隊舎に集合せよ』
空気が一瞬で張り詰めた。
滝川中隊長は立ち上がると、椅子を押しやりながら竹本に一言だけ残した。
「……来たな」
それだけ言うと、駆け足で食堂を後にした。
残された竹本は、食器を片付けながら食堂を後にした。
外に出るとムワッと蒸し暑い夏の風が肌を撫でた。
その瞬間、胸の奥に、何かが“落ちた”ような感覚が走る。
(熊本だ……間違いない)
彼は息を吸い込み、背筋を伸ばした。
空を仰ぐと、晴れ渡っていた空から小雨が降り出していた。
竹本は帽子を深く被り、駐屯地の広場を走り抜けた。
LAV(軽装甲機動車)が止まると、竹本はドアを開けて外に出た。
交差点では熊本県警の巡査が道路を封鎖しており、彼の姿に気づくと慌てて駆け寄ってくる。
さっきまでの小雨はいつの間にか本降りとなって、傘に跳ねる雨音が絶え間なく続いていた。パトカーの赤色灯が雨粒を照らし、妖しく路面に赤い筋を描いていた。
「第8師団の第42即応機動連隊、情報小隊長の竹本です。」
竹本は短く名乗り、敬礼を終えると手を差し出した。
「県警、地域課の松本です。」
若い巡査は雨ガッパの裾を握りしめるようにしながら、ぎこちなく握手を返した。
手のひらは冷たく、体は強張っていた。
「現場は九品寺交差点近くの旧イ○ン跡地だと。」
「あ。はい、そうです。近くのマンションの住民から、“跡地に見慣れない穴がある”との通報がありました。確認したところ、東京とは少し形状が違いますが地下に続く構造物が見つかりまして。県と国からの要望で1km圏内の封鎖中です。」
「未確認生物は?」
「今の所、外には居ないようです。中の方は確認しておりません。ただ、・・・」
「ただ?」
竹本の問いに、松本は一瞬言葉を選ぶように間を置いた。
「いえ、見ていただいたほうが早いと思いますので。」
そういうと、松本は離れて無線機になんか喋ると中に入ってどうぞと身振りした。
竹本は軽く会釈してLAVに戻り、ドアを閉めた。
部下がエンジンをかけようとしたところで、松本が再び駆け寄ってくる。竹本は窓を下ろした。
「緊急車両を除き、一般車両の通行は無いとのことです。近くの住民も基本避難済みとのことです。」
「……了解しました。県警は引き続き封鎖と周辺警戒をお願いします。」
「了解しました。お気をつけて。」
松本が敬礼を返す。雨音の中、竹本も静かに手を上げた。
巡査はそのままパトカーへ走り去っていった。
雨が一層激しくなる中、LAVは唸りを上げながら無人の道路を駆け出した。
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