厄災か福音か 世界編
どうぞ今回も気軽にページをめくってもらえたら嬉しいです!
後世の歴史家たちは、この年の八月八日を“厄災の日”とも“福音の始まり”とも呼ぶ。
しかし誰一人として異を唱えなかったのは、確かにこの日が世界の運命を変えた“転換点”だったという事実である。
中華社会主義共和国連邦 王 浩然国家主席はやみ夜を切り裂く甲高いリングトーンに目覚めた。一度大きく背伸びしながらシパシパする目を擦り、側にある受話器を手に取った。
「王だ、どうした」
「王閣下、夜分遅くに失礼します。」
中央軍事委員会の蔡副主席だ。声の背後から指令を出す大声が多く聞こえることから只事ではないことが起きたのであろうと王は察した。
「非常事態か?」
「はい、そうであります。」
王はその一言で完全に目が覚めた。
「台湾か?アメリカか?」
「いいえ。此度は国内です。」
王はそれを聞くとほんの少しだけ胸を撫で下ろした。そのどちらでもないならいつもの西部の跳ねっ返りどもがテロでも起こしたのだろう、そう思っていると
「ウランチャブ市が未確認生物の大群に襲われているとの報告が」
王は顔を顰めつつ、ウランチャブ市の場所を思い出そうとした。
ウランチャブ市は内モンゴル自治区の地級市だったはず、しかも首都北京まで電車で2時間の場所だったと記憶する。
「地元警察と北部戦区の部隊が交戦しているようです。」
蔡のその言葉を聞き王はすぐに着替えはじめた。軍がすでに出動しているのならば一大事だ。
「みんなを集めろ、緊急事態だ。」
ちょうどその頃、昼過ぎだったホワイトハウスの執務室でアルメリヤ合衆国のウィンター大統領が内線の電話に出た。
「どうした?」
「スコットです。中国で大規模な戦闘が発生しています。PEOCにお急ぎください。」
電話の先のファーガソン国防長官の声が焦燥感を帯びていて、大統領に緊張が走った。彼は近くにいたSPに目配せと決められたハンドサインをするとSPは無言で頷くと襟のカフマイクに連絡を入れ出した。
職について初めてのシチュエーションルームレベルの事件が起きたのであろう、しかも中国で起きていることなのに。
漠然とした不安を抱きながら大統領は了承して受話器を下ろした。
「なんだこれは」
ウィンター大統領は言葉を漏らした。
ホワイトハウス地下にあるシチュエーションルームに集合した関係閣僚とスタッフに話しはじめた。
「つい先程うちらの諜報員が中国軍の無線チャターを傍受し、北京の北に位置する内モンゴル自治区に軍を総動員するような通達が出たそうです。」
そう説明しながら国防長官が動画を流しはじめた。
「これは、あちら側のSNSから取得できた現地映像です。」
国防長官が淡々と説明する後ろで映像では人民解放軍の兵士が住民を必死に避難させようとする横で装甲車が暗闇に向かって断続的に機関銃を発砲している。
夜間であることから何に向かって発砲しているのかはよく見えないが曳光弾が家屋の他に何かに弾かれているのだけは見える。
「そして、・・・ここです。」
国防長官が動画を止めた。
このフレームに何か重要な物があるからこそ止めたのであろうがウィンターには見当も付かなかった。
すると国防長官は動画の一部にズームインした。
自ずと国防長官がズームインした理由がわかったがそれと同時に疑問が沸いた。
「なんなんだこれは?」
国防長官は彼と目を合わせると首を横に振った。
目の前に映るのは崩れて燃える家屋の炎に照らされるかなりな大きさを持つ6本足の怪物。
まるで昆虫のようだが、大きさも然り、顔がタコのようでそのヒゲ?みたいな物が人らしき陰を持ち上げていた様子から昆虫では確実にない。
「分かりません。ただ、似たような動画がちらほら出始めている様でCIAによるとこれがCGIでないことだけは確かだそうです。他にも中国全土の空域が閉鎖された様なので信憑性は高いかと。」
国防長官は動画を閉じると中国の地図を画面に出した。
「諜報員がキャッチした情報から銃弾類が全く効かないといったそうで、化け物につては夜間であることからハッキリとした数や特徴は分からないようですが中国軍の通信によると10000を下らないようです。現在は山脈を使いながら遅滞戦術をし、張家口市あたりで防衛線を構築しているようです」
ここで初めて大統領が手を挙げて制止した。
「中国軍はそこまで弱くないはず、空爆やミサイルはどうして使わない?」
「まず、住民の避難がうまく行ってない様で戦闘に巻き込まれるのを避けている様です。あと、本当かどうか分からないですがクラスター爆弾をペイロードとしたCCS-11短距離弾道ミサイルが全く効かないといった情報もある様でして・・・」
これを聞いていた大統領は頭が痛くなったのかこめかみを摩った。
CIA長官クレモントは背後から近付いてきた部下と話し込んでいた。そしてひと段落着いたらしく神妙な顔で立ち上がった。
「申し訳ございませんが、モンゴルとルース連邦の極東部でもなんらかの事態が起きている模様で、部下によるとおそらく中国と同様のことが起きているらしく・・・」
それを聞いたウィンターはため息と同時に顔を手で覆った。
この事態、もしかしたら9.11並みかそれ以上のものになるかもしれない。
この化け物がどれくらい手強いか分からないが、最悪の場合、世界経済が物凄く狂かねない。
ウィンター大統領は顔を上げた。ここで足踏みしたら大統領として失格だ、そう心の中で言い聞かせながら重い口を開いた。
「まず、日本と韓国に連絡を入れろ。在日、在韓米軍にも相応体制をとらせろ。あと、NATO含めた同盟国にも一報を入れろ。国連の緊急安保理会議も開く準備を。」
そう言い切って椅子に深く腰かけると部下たちがいそいそと準備にかかった。
あぁ、神よ。願わくば、世界を救いたまへ。ウィンターは切に願った。
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次の展開もいろいろ考えてるので、よかったら引き続きお付き合いください。
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