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非在  作者: り(PN)
6/13

 天文台解析室の中が急に慌しくなった。

 天文台所長のジョン・アダムスが、天文台に関連するすべての研究員にまで非常召集をかけたからだ。

 時刻は現地時間で深夜の二時だったが、夜勤や当直の職員ばかりでなく、天文台周辺の町――合衆国、オーウェンズ・ヴァレイの片田舎――に寄宿している、派遣、国費、およびその他の留学研究者たちにも連絡が入った。

「何がどうしたって?」

「ふわぁ、こんな時間に、いったい……」

「おはよう、……いや、遅ようか」

「ムロイが見つけたんだって?」

「早く、詳しい話を聞かせてください」

 出台してきた研究員たちが、それぞれ口口にまくしたてた。

「とにかく、これを見て欲しい」

 職員がひと通り集まったのを見て取ると、天文台所長のアダムスがいった。部屋の中央にある汎用コンピュータ接続のモニタ・スクリーンを指差す。スクリーンは数値と計算式で溢れんばかりだった。

「これじゃ、わからないわよ」

 実験物理学者のネティ・ヘルツスプルングが、すぐさま表示内容に抗議した。

「もっと直感で見えるようにしてくれなくちゃ……」

「確かに、これじゃ理論屋さん以外は締め出されちまうな」

 同じく実験物理学者のルイ・リヨがヘルツスプルングに同意する。

「ほう!」

 と、これは理論屋のグスタフ・ファン・デ・フルスト。

「面白い!」

「えっと、ちょっと待って下さいよ」

 博士過程留学中の院生ジャン・アンリ・ルベリュが呟くと頭を抱えた。

「そんな、まさかね?」

「皆さん、焦らないで説明を待ったらどうです」

 とウィンストン・ヒュウイッシュが口を挟む。彼は天文台の最古参だった。

「まあまあまあまあ……」

 その期を逃さず所長のアダムスが割って入る。

「いま、ムロイに説明させるから静かにしてくれ!」

 しかし、初期の混乱が納まるまでには、しばらくかかった。

 そして――

「とにかく、異常な重力場領域が観測されたわけだな」

 室井の簡単な説明――現象の発見およびその解析手法――が終わると、アダムスが断言した。

「何か意見は?」

「まだ、わかりませんね」

「こっちも、別の手法で解析してみましょう」

「では、わたしもそれに協力します」

「わたくしの方は電波望遠鏡の方をチェックしましょう」

「ムロイくん、ちょっとここ教えてくれない?」

 所員がそれぞれ持ち場に着いた。

 少しして――

「それで、アダムス所長、他の天文台などへの連絡は?」

 ヒュウイッシュが訊ねた。

「まだ、どこにもしていない」

 アダムスが答える。

「関係者全員の解析結果がすべて一致したら、世界に向けて発信するつもりですよ」

 だがその直後、別の連絡が天文台に入った。

「アダムス所長、特殊スクランブル回線で通信が届いています」

 所長秘書のマリ・ボウエンが告げた。

「地元の州軍基地からです」

「州軍基地だって?」

 そのとき、アダムスの脳裡に厭な予感が走った。映話を受け取る。

「はい、映話を替わりました。所長のアダムスです。……え、いきなり、そんな無茶な。……はい、はい。……わかりました、協力体制を職員に指示します」

 映話機を置くと、アダムスは解析室の窓に寄ってカーテンを開け、外を見やった。

 天文台が立つ小高い丘に続く山道を――警告灯こそ光らせていなかったものの――数台の軍用ジープが昇ってくる様子がはっきりと見てとれた。


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