4
コードネーム、レーゲン・ボーゲン(虹)に連れて行かれたのは、見掛け安アパートだった。だが、もちろん防備は万全のはずで、おれはそこで依頼を受けた。
『ようこそ。変わった真似をして済まなかった』
ノートパソコンの画面から依頼主がいった。顔はアメリカ漫画のキャラクターだった。『傭兵として種種実績のあるきみを信用していないわけではないが、用心のためだ』
依頼主の形式的挨拶はそれで終了し、さっそく用件が切り出された。レーゲン・ボーゲンは部屋の隅に下がり、おれと依頼主の遣り取りから目を逸らしている。ただし、銃はおれに向けたままで……
依頼内容は文字情報として表示された。
《ワシントン、D・Cにある合衆国海軍所有の天文台に向かって欲しい。そこに欲しい情報がある。内容は不明だが、科学上の発見らしい。しかし、どうも軍事的な匂いがしてね。現在の経済情勢を変革させる情報になるかもしれんのだ。期間は、いまから二週間以内。報酬は、きみの単位で五十万クレジット。半額は、すでに軌道銀行のきみの口座に振り込んである。成功することを期待するよ。以上》
『ひとつ訊きたいんだが?』
右脳の増幅器で電磁的にノートパソコンにアクセスすると、おれは画面に記した。
『得られた情報が実はガセだった場合、おれに危害が及ぶことはないんだろうな?』
十秒ほどしてから、返答があった。
《きみの危惧は理解できるが、情報の判断については、組織のデータ解析チームの手腕を信用してもらうしかない。……この答えで満足か?》
『充分ではないが了解した。依頼を引き受けよう』
もっとも、反論の余地はなかったわけだが……
「おばさん、帰るよ」
ノート・パソコンの蓋を閉めると、おれはレーゲンボーゲンに声をかけた。
「済まないが、タクシーで空港まで送ってくれないか?」
「はいはい、わかりましたよ」
レーゲン・ボーゲンが答えた。
「でもまあ、お兄さんも、お忙しくて大変ですねぇ。ひゃっひゃっひゃっ。今晩くらい、綺麗どころとお楽しみなすっても罰は当たらんと思いますがねぇ」