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非在  作者: り(PN)
2/13

 なぜ、この仕事を引き受けかといえば、それが依頼だったから、としか答えようがない。

 世界が経済も軍事も文化までもが西一色になって数十年、その間(いわゆる局地戦は止むことがなかったものの)、おれの居所はとにかく狭くなり続けた。強大となった西側に対抗するには中東ではあまりに力不足で、それは中央アジアでも、西あるいは東アジアでも、たいした差ではなかった。無論、東西ヨーロッパとて同じ。強いていえば、(いまは軌道上にも浮かんでいるが)分散国家として唯一、数千年の歴史を誇るあの組織が対等関係にある、といえないこともなかったが……

『ミラノの教会の前で』

 最初にネットに入った連絡はそれだけだった。メールの差出人は不明。自慢の最高機能追跡エンジンで軌道都市のサーバまでは相手を追えた。だが、そこであっさりと手がかりが消えた。無理もない。軌道都市自体がすでにスクランブルだったからだ。おれは、自分のポストにメールを放った相手の力量に敬意を表して、イタリアくんだりまで出かけることにした。指定された教会は不明だが、それは頭の良い相手のこと、おれの姿を確認した瞬間、通信手段を考えるだろう。

 果たして、おれの予想通りとなった。右脳が共鳴したのだ。

(よく、この振動数がわかったな?)

 ニューロン接合の結節増幅器を通して、おれは相手――おそらく雇い主のメッセンジャー――にいった。

『こちらもご同業だからな。……落ち合う場所は』

 とある有名な教会の名前をメッセンジャーは告げた。彼が脳内結節を改造しているかどうかは不明だが、少なくともそれ相当の装置は所有しているらしい。

 数分後、数多の観光客に紛れて教会の門の前に立つと、見知った顔に出会った。空港から先ほどの場所まで、おれを案内してくれたタクシーの運転手――丸丸と太り、色とりどりの衣装を身に纏った中年のおばさん――だった。

「やあ、よく、おいでなすったね」――『とりあえず、付いて来てもらおう』

 舌を使った自然言語と、脳内結節を通した無線で、そいつはいった。

「お召しのままに……」

 自然言語でおれは答えた。

「ところで、おばさんはいつもそんな格好をしてるのかい?」

 すると、

「ひゃっひゃっひゃっ」

 と、そいつが笑った。

「あたしの得意ファッションは虹色模様」――『つまらん呼び名だが、レーゲンボーゲン(虹)と憶えておいてもらおう』

 それが答えだった。すかさず、おれが言葉を返す。

「おばちゃんがドイツ出身者とは思わなかったね」

「ひゃっひゃっひゃっ」

 脳天に響き渡るような声で、そいつは笑った。そして、目的地まで笑い続けた。


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