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闇! その中にごく薄い靄が漂っている。
よく見ると、それは光っていた。
プラズマの発光。キラキラと薄く、闇と反応して……
その向こうに、今度は靄よりはっきりとした影が現れた。だんだんと近づいてくる。人影だった。日本の遮光器土偶をスリムにしたようなスタイル。数人がいた。何かを相談しているようだ。
「エリア718に到着」
無線を通して、その中の一人がいった。
「これから〔非在〕領域内に突入する。……こちらの機器の応答は、いまのところ順調だ。この先追尾、よろしく頼む。どうぞ?」
『イグザ34了解。レート・レーザには、よく見えているよ。五人分の人型がくっきりと。こちらの装置にも、まだ異常はないようだ。確率変数も安定している。気を大きく持って任せて欲しい。どうぞ?』
「レアル02了解。頼もしい返答に安心した。……では、これから少しづつ先に進んでみる。どうぞ?」
『イグザ34了解。健闘を祈る。以上』
内部空間領域を通じた無線通信が終了し、人影に動きが現れた。その場にいた五人の調査隊隊員たちが、太古の女面に似たヘルメットごしに互いに顔を見合わせ、これまでの無事を確認し合った。首肯き合い、やがてゆっくりと対象領域に眼を向ける。
そこには、もはや発光する薄い靄さえなかった。
それは、まったくの闇=〔非在〕だった。