帰還
運命に抗う少女の物語です。
みなれた畑や田んぼ。
ききなれた鳥や虫、カエルの声。
ガタガタと車がゆれるのは道に転がっている石のせいだろう。祖父母の家に到着したのは空がすっかりオレンジ色になった頃だった。誰も住んでいないのかと思うぐらい静かだった。私が車にゆられてやってきたのは十色村という小さな村だ。いわゆる「田舎」という所だからなのか、スーパーやコンビニ、駅、ビルなど都会にあるものは見当たらない。自然に囲まれたその村は幼いときから毎年、長期休校期間になると必ず行く場所であった。
「そろそろね。」
父の母(私はグランマーと呼んでいる)がうとうとしていた私に声をかけた。
「ねぇ、グランマー。これからはどこの中学校に通えばいいの?」
「たしか、十遠中学校ってとこよ。十色村からは遠いから十遠っていうらしいわ。」
「ふぅん。単純だね。」
グランマーは若々しい。すっぴんでも綺麗だ。
遠くから見ても何だかキラキラしていてすぐ分かる。
自慢の祖母だ。
これから行くのは父の両親の家(私はじぃじとばぁばと呼んでいる)だ。これからはその家で暮らしていく。
もう父親とは死別してしまい、母親は仕事に専念したいらしく、私を実家へとあずけた。
分かっていた。
私は母にとって良い存在ではなかったことなど。
私だって自分を愛してくれない親と同じ屋根の下で暮らそうとは思わなかった。母は昔から情の薄い人だったというのは言うまでもない。もちろん産んでくれたことに感謝はしているが…。