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09:蛇足


 かえでちゃん……まさか、『オカルト研』には、行ってないよね。


 そう問いかけた時、彼女の瞳にはくすんだ色が見えた。もう何らかの守護を処置されているとわかった。

「思うようにはいかないものだ」

 木神の小さなため息は、賑やかな居酒屋の雰囲気に飲まれていく。スマートフォンを立ち上げるも、メッセージアプリは「ブロックされました」という表示を出していた。それを見て、もう一つため息。

「うーん、傷心の彼女にそっと寄り添う……ただそれだけの企てだったんだけどなあ」

 正確には「不慮の事故」で娘を失い、拠り所をなくした女性の心に付け込む……そんな絡め手であった。

「あら、木神先生。いらっしゃいませ。どうしたんですか、暗い顔をして」

 ビールとお通しを運んできたアルバイト店員の声に顔を上げ、木神は苦笑する。

「うちの学校、アルバイトは原則禁止なんだけどなあ」

「アルバイトじゃないですよ、家のお手伝いです。商店街じゃ一番いそがしいお店なんですから」

「蛇の道は……ってやつだね。まあいいや。ところで……君は小森かえでさんと同じクラスだった、ね」

「はい、小森さんは隣の席ですよ」

「……『オカルト研』に行くよう言ったのは、君だね」

 木神の言葉に、店員の少女はニコリと笑った。

「だめですよ、木神先生。公私混合、私欲のために『独立執行印』を動かしちゃ。……管理責任者としての座を降ろされても知りませんから」

「筒抜けか……ひっそりとやってるつもりだったんだけど」

 置かれたビールを一口ふくんで、木神は何度目かのため息をついた。

「もう凝りたよ。君の……『独立執行印・序列七位』の監視があるんじゃ、悪さはできないな」

「ただの七位からの注意ですんだことを、幸運に思ってくださいよ」

「……それもそうだ」

 ビールはいつもの味よりも苦く感じた。店員の少女は他のテーブルからの注文を受け、「生二つと唐揚げ大一つー!」と元気の良い声と共に厨房へと入っていった。

 活気のあふれる店内を何気なく見回し、木神はビールで喉を鳴らした。

「……序列七位『ささやく少女』か。スタンドアローンの割には、守備範囲が広いものだ」

 手元に置いたスマートフォンが、着信を伝える振動で唸っていた。

「もしもし、木神です。……ええ、先程直にご忠告をいただきました。軽率な行動、申し訳ありません。……反省してますよ、これでも」

 ビールグラスを傾ける木神は、言葉とは裏腹に薄笑みを浮かべていた。

「資金調達の手段なら、また考えます。いい金づるになると思ったのですが……『独立執行印』を維持するためにも、先立つものは必要ですからね」

 木神は別の店員にビールの追加注文を伝え、電話に戻る。

「なので、僕の人格というより性質に信頼ください、『長』よ。今のところは全面協力を惜しまない方向なので。……『土萩村』は、僕にとっても故郷ですから」

 通話を切ったところで、注文したビールが届く。今度は二度三度と喉を鳴らし、乾きを潤した。

「ま、しばらくは大人しくしておきますか。……怖いからねえ、彼女は」

 一人つぶやく木神の手元には、紙ナプキンで折った折り鶴がいくつか並べられていた。そのうちの一つの首が、白い火をわずかに閃かせ、灰となり落ちた。それを見下ろし木神は再び「怖い怖い」と薄笑みを浮かべた。





 独立執行印序列

 

 第七位『ささやく少女』管理責任者・居酒屋ねこのて

 第六位『帰らず小道』管理責任者・木神玲斗

 第五位『逆さ鳥居』管理責任者・土萩町管理組合

 第四位『縁切り地蔵』管理責任者・死亡

 第三位『赤い屋根の家』管理責任者・消息不明


 第二位『首切り執行人』管理責任者……柊切子


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