じゃんけんのかけ声は?
ゆんちゃん一家4人のいつもの晩ご飯。今日はいただきもののデザートのつめ合わせがあるので、食後はじゃんけんで『そうだつ戦』です。
今日のゆんちゃんのお目当ては、ひとつしか入っていないマンゴー・ゼリーなのです。
「あ、抹茶味はないのか」
パパがちょっとがっかりした声を出します。抹茶味のものがあるとぜったいパパはそれをえらぶので、ライバルがへるんだけどなー。
「よし、しょうがない、『いんじゃん』で勝負だ!」
──え? パパ、今何て言ったの?
ゆんちゃんとかずや兄ちゃんがぽかーんとしていると、パパがあわてて言い直してきました。
「ああ、ごめんごめん、『じゃんけん』のことだよ。パパの生まれた関西では『いんじゃん』って言うんだ」
これは初耳です。
「え、じゃあ、かけ声は?」
「えーと、『いーんーじゃーん、で、ホーイ』みたいに歌うかな」
パパがちょっと歌ってくれましたけど、何だか間のびして変なの。ちょっとさびしそうなメロディだし。
すると、かずや兄ちゃんが思い出したように言い出しました。
「あ、そういえば仙台からの転校生は、『いしけんき』って掛け声だって言ってたよ」
えっ、そんなにじゃんけんのかけ声ってちがうものなの?
でもママは関東だから、ふつうに『じゃんけんポン』だよね?
そう思って見てみると、ママも何だか考え込んでいます。
「うーん、そういえばママも子どもの頃は『ちっけった』だったかしら」
──またぜんぜんちがうのが出てきたっ⁉
これ、全国ではどれだけバラバラなのかな。
ゆんちゃんのとなりでは、かずや兄ちゃんがさっそくスマホでしらべはじめてます。
すると、急にパパが大声を上げました。
「そうだ、ゆん! これ、夏休みの自由研究になるんじゃないか? 会社の皆にも聞いてみてあげるよ」
──え?
「あら、いいわね! 私も、久しぶりにお友だちに連絡とってみようかしら」
ママも何だかうれしそうです。
──でもゆんちゃん、ホントはそんなこせい的なのじゃなくて、もっとふつうの『じゆうけんきゅう』でよかったんだけどなー。
かずや兄ちゃんが横から『余計なことは言うなよ』みたいな目線を送ってきますけど、言われなくてもわかってますよ。
これだけもりあがっている大人たちに水をさすほど、ゆんちゃんも子どもじゃないんです。
「うわー、楽しみ! ゆんちゃん、すごいじゆうけんきゅうにするから、パパもママもお手伝いしてね!」
「おお、任せておけ!」
「ママも協力するわよ!」
──あーあ。去年のかずや兄ちゃんの工作もパパの方がむちゅうになってたし──『じゆうけんきゅう』って、ホントは大人のためのしゅくだいなんじゃないのかな。
ゆんちゃんは、こっそりため息をつくのでした。