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1話 運命の始まり

頭の中で現実からどんどん遠のいていく感じがした。

頭の中がぼーっとして、高熱を出している時の様にも思えた。


「小崎くん大丈夫?」


目を開けると、そこは保健室だった。

上から俺の顔を覗き込み、そう声をかけてくれた。

俺のベッドの横には、冬野さんが座っていたであろう、簡易的なパイプ椅子が置いてあって、その横の机には、ブックカバーのされた俺のラノベが置いてあった。


「俺、いつからこんな感じですか?」

「えーとね。今が昼休み中だから、大体5時間ぐらい寝込んでたかな。」

「冬野さんはいつからですか?」

「休み時間はずっとここにいたよ」


やっぱりこの人は優しい。

教室から保健室まではかなりの距離があるのに、それを毎回の休み時間に見に来てくれたなんて、優しすぎる。


「あ、ありがとうございます」


俺はそういって、ベッドから起きあがろうとする。


「ダメ!小崎くん!保健室の先生が小崎くんは今日は安静にしておきなさいって言ってたから、今日は一日ここで寝てて。帰りにまた迎えに来るから〜」


冬野さんはそういって部屋のカーテンをめくって教室に戻っていった。

頭が痛い。急に起きあがろうとした時から少し頭が痛くなった。


というか、これはかなりの重症なのでは?

痛みに弱い俺はそんなオーバーな事を考えながら再び眠りについた。




   〜〜〜〜〜




『小崎くん!私と付き合ってください!』


目の前には女性がいた。

ぼやっとしていて、顔がよく見えない。

声も誰か特定が出来なかった。でも、目の前にいるのは女性だということはわかる。

胸元の膨らみが完全に女性のものだったからだ。


俺は目をよく擦り、顔を見ようとする。


「小崎くん起きて!起きて!」

「うわぁぁ!」


あぁ、夢か。

ベッドの横には冬野さんがいて、スクールバッグを持っていた。


冬野さんが所属している陸上部は確か、5時終了だった。


「起きて。帰るよ〜」

「はい!すぐに用意します!」


俺はベッドから飛び起きて、上靴を履き、近くに置いていたスクールバッグを手に取り保健室を出た。

俺と冬野さんは電車通学だった。しかも、俺の家の最寄駅の前の駅らしい。

二人で駅に歩いていった。


「もうクリスマスだね」

「そうですね〜」


俺と冬野さんは駅前のクリスマスイルミネーションを一緒に見て帰った。

この駅では毎年、大規模なクリスマスイルミネーションが行われているらしく、そのためリア充が大量にいた。


俺がそんな状況にあたふたしている中、隣で冬野さんはニコニコしながら見ている。

冬野さんモテてるし、彼氏とこういうところきたりするんだろうなぁ、、。


勝手に頭の中で劣等感を抱く俺の隣でキラキラした目でイルミネーションを見続ける冬野さん。

目の前にあるのは、大きなクリスマスツリー。これには俺すら感動を与えた。

人生でイルミネーションを誰かと見たことがない俺にとってはこの1日が忘れられない日となり、少し俺の中のクリスマスのイメージをガラッに変えられた気がした。


「冬野さんはこういうの誰かと見にきたりするんですか?」


そう聞いてみると『それ、聞いちゃう?』的なニヤニヤした顔をされた。

答えは分かりきっていた。


「いや、小崎くんが初めてだよ」

「え?」


ヤバい!ヤバい!ヤバい!こんな人が初めて!?しかも初めてが俺と!

急激な焦りと同時に冷や汗が止まらなかった。


思っていた回答と真逆の回答が返ってきたのでこれには俺も驚を隠せず、思わず声に出てしまった。

てっきり俺は、彼氏とそういうことまで経験しているのだろうと勝手に思っていた。

でも、冬野さんは清楚系だし!そんなことはない!


「ん?どうかした?」


こんな純粋で可愛い子に対してなんて妄想をしていたのだろう。

俺は心の中で反省した。


「すいませんでした、、、」

「え!?なんで泣いてるの!?そしてなんで謝るの!?」


冬野さんはポケットに入っていたハンカチを取り出して、俺に渡してくれる。


「はい、これで涙拭いて」


俺はハンカチを受け取り涙を拭く。


「ありがとうございました、、、」

「そのハンカチあげる!私からのクリスマスプレゼント!」


俺がハンカチを返そうとした瞬間、冬野さんが俺の手を握ってそう言ってくれた。

隠キャの俺には初めての出来事だった。


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