青翳が落ちる
日が高く上る、南中時刻の道に、
青翳、青翳、青翳は落ちる。
ざっとくくった髪をいじって、
Tシャツのしわを気にしながら、
終末の世界を歩いている。
さよならを言う隙も無く、
人類は滅んでしまった。
影も形も残しやしなかった、
歌声だけがまだ僕の耳にある。
すっかり売り切れたサイダーのボタンを押し続けて、
ああやっぱり出てこないやとため息をつく。
世界が滅んでも缶コーヒーを飲む気にはなれなくて、
140円もしやがる水を買った。
今日はどこへ行こうか、
ずいぶん長く歩いてきた、
昨日転んだ膝小僧も、
一昨日ひっかけた腕の傷も。
全部抱えて生きていく。ずっと長く生きていく。
線路の上で何かを待った
もう来やしない何かを待った。
ひどく暑くて耐え切れなくて、
でもコンビニ入っても涼しくは無くて、
ああ人類の叡智万歳帰ってこいなぞとぼやいて、
青翳、青翳、青翳の中。
軽井沢でも行けばすずしいだろうか。
孤独でも、人で無くなっても
忘れていっても、疲れてしまっても、
それでも僕は生きていくのだ、
生きていくのだ。青翳が落ちている。木々が落とすから。雲が落とすから。ビルが落とすから。僕が落とすから。
明日もまた歩いて行こう。
叶うところまで歩いて行こう。