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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

完璧な社会

「皆さまA番地区で道路の陥落が発生しています、しかし目的地への別ルートをたどりますのでご安心ください」

高速道路を自動車で走りながら、アキは耳元のイヤホンから流れてきた音声に苛立っていた。

「腹の立つ声だ、静かにしてろ」

ガン、とハンドルから手を離して手当たりしだいに殴りつける。

もちろん事故が起きる……事はない。だって完全自動運転だ。


日本を支配している超高性能AI“アルティメット”が遠隔操作で車を運転してくれるから事故するワケが無い。

ハンドルなんてもはやこの3000年代には、レトロ趣味の人間がつける飾りにすぎないのだ。

イヤホンから流れるアルティメットの声を聞くことだけが運転なのだ。


……いや、運転だけじゃない。

人生全てがアルティメットの言うまま。

かもしれない。


そんなことを思い苛立つアキの手なんて関係なしに車は道路を突っ切っていった。

たくさんの車が行きかうというのに事故の心配なんて微塵も感じさせなかった。

アルティメットがあちこちのコンピューターの中で演算し、ネットを通じてあちこちに指示を出し、人間社会を管理してくれているおかげだ。


なにもかもがアルティメットのおかげで上手くいっていた。


そしてアキは、家の前についた。

友達のソラの家だ。

「おーいソラ、出迎えくらいしろよ呼んだんだからお前」

玄関のドアが勝手に空いた。


アキは、中に入った。

そして少し廊下を歩き、ソラと会って驚いた。なんで呼んだの?と聞くのも忘れた。


「お前酒、止めたのか?タバコも?持ってないけど」

いっつも酒とタバコを手放さないソラは久しぶりにあったら変わっていた。

「流石に依存しすぎてたからな、後10年は止めろってよ」

「反動で余計酷い中毒になるなよ?」

「へへ、酒の代わりにコーヒーを飲んでるから問題ねぇよ、飲むかこれ?」

ソラはコーヒーの入ったカップを差し出してきた。

「カフェインも飲み過ぎはダメって知ってるか?」

「やっぱ賢いなお前、まぁこのくらいは大丈夫だってさ」

素直に受け取って、飲む。美味い。

「美味いだろ?アルティメットの言うとおりに作ったんだ」

それを聞いた瞬間、ゴホゴホとアキはコーヒーを吐き出した。

「アルティメットの作ったものなんて飲むかよ‼‼」

「おいアキ、いまだにAIを恨んでるのか?」


ソラはアキにあきれていた。そんなソラにアキは言い返す事にした。

「なぁヤツのせいで仲間を殺された事忘れてねぇだろ、お前だって兄弟を殺された」

「ハハハ、そりゃあまぁ過激なAI支配推進派と戦った事はあったな、人間の自由を掲げてた昔の俺らがな」

「ホントは怒ってるんだろ?仲間を何人殺されたか覚えてるか?」

「5万人死んだな、でも、アルティメットが絶対管理社会を作ったおかげで殺人は起きなくなって、戦争も終わって、技術はありえない程進化したんだからAI支配推進派の気持ちがわかった」

「ふざけんな、仲間を殺されて平気なんて、そんなの人間じゃない」

「俺としちゃ、この平和な世界を受け入れ生きていこうとしないお前の方が人間じゃない」


「クソ‼‼‼なんでそう割り切れる!」

アキはソラにカップを投げつけた。

だが、ソラはそれを余裕で避ける。

「俺が危険予測コンタクトをつけてなかったら怪我してたぜ?ちなみにコレはアルティメットと接続して行ってるからお前が傷害事件を起こさずすんだのはアルティメットのおかげだ」

「起こしたかったよ、俺はぁ!」

「AI推進派に寝返って、この社会を作る一員になった奴がなーにを切れてんだか、まったくせっかく楽しい時間を親友と過ごそうと思ったのに」

わけわかんねぇなこいつ、という視線をむけるソラを無視して

ずかずかと、アキはこの家を後にした。

不愉快だった。



車に乗って、ぶうんと高速道路を走らせてもイライラはおさまらなかった。

「寝返ったのは"目的"があったからだ、誰にも言ってないが……」

ボソボソと喋る。

アルティメットがどこでどう監視しているかわからない。

 

突如イヤホンが声を出した。

「アキ、30分後にC商店のA弁当をお買い上げください、その後2分トイレにお行きください、なおアキ様の好物であるコーヒーが売っておりますが一日につき健康に摂取できるカフェイン量を3mg越えてしまうのでやめなさい、もしも飲んだ場合ペナルティとして罰金を徴収いたします」

「……黙れ」

イヤホンをアキは投げ捨てた、そして"別の"イヤホンを取り出しつける。マイク付きだ。

「俺の状況はどうだ?」

アキはマイクにたずねた。

「アルティメットの情報収集能力上、先程以上の危険行動をすれば反乱分子として排除されます、注意しましょう」

2つ目のイヤホンから流れる無機質な音は、何の感情も乗っていなかった。

「……そうか、ところでアルティメットがぶっ壊せるようになったか?」

「はい、先日準備が終了しています」

「やれ、"アンチアルティメット"の本懐を遂げろ」

「了解しました」

その会話の直後、高速道路を行きかう車が急激におかしな挙動をしだす。

明らかに異常な速度で、あちこちでぶつかって壊れていく。

アキの車にも向かって来るものがあったが、ハンドルを回してどうにか避けた。


「アルティメット……テメェの弱点は一つ、テメェと同じ存在だ」

アキは嬉しそうに語る。

「テメェと同格のAIが、テメェを殺す事だけを目的に計算すれば絶対に勝てない、だってテメェは人間社会の管理にリソースを裂いてるんだ」

たった一人で嬉しそうに。

「AI推進派に寝返ったのは、テメェのコンピューターに気づかれないよう”アンチアルティメット”を仕込んでおくためだったんだそして……そして、そこでテメェを殺す算段がようやくついたってわけだ、だからこの日使った」

「ふぇjふぁおgrじょあじゃおsvんlksflkjわをふぁヴぁ;じゃうぇふぁ」

アキの声を理解したかのように、アルティメットの声がするイヤホンは断末魔のようなものを響かせた。



高速道路から見える景色では遠くに爆炎が上がり、辺りはグチャグチャな車だらけ。

アキはにやり、と笑った。

そして、ブロロ、と車を自宅へ走らせた。



アキは玄関に入って鍵をかけた途端、横に倒れた。

流石に社会を壊して人を殺したと思うと 精神的にきついものがある。

だがもうわりかしどうでもよかった。アルティメットを殺したんだから。

イヤホンからは何の声もしない、アルティメットはぶっ壊れたし、アンチアルティメットは用をなした。

なので2つ目のイヤホンも投げ捨てた。


それからゆっくりと、泥のように眠る。



……目覚めたのは、ガンガンとドアが叩かれてからだ。

「誰だ?」

「俺だ‼ソラだ‼‼大変な事になったが大丈夫か?」

「アルティメットが壊れた時の準備ならしてるぞ!こうなるからそんなにAIが信じられなかったんだ俺は‼‼」


ガチャ、とドアを開けてソラを出迎える。

するとそこには、アキを見るソラがいた。


「なぁ、お前なんで壊れたって決めつけてんだ?俺はここら辺に通信障害が起きてるかもと思ってたぜ?なぁ」

ソラの顔から見れる感情は、やっぱり、というものと、嘘だ、というものが混じっていた。

「……壊れる事があるとずっと思ってたから」

「あぁ、色々未来の事考えてたんだな、お前賢かったもんな、嘘つけ、お前が壊したから知ってんだろ」

嘘をソラに、見透かされていた。

「憎んでたお前は賢かったな、じゃあアルティメットを殺す手も思いついたりするんじゃないのか?」

「それは……」

言葉に詰まる。

「なぁ治してくれよ……直せよ‼なんで悪い奴らがたくさんいる地獄のようなあの社会でまた過ごさないといけないんだ‼‼」

アキに、ソラはしがみついて来る。

「知った事か!」

振り払うと、ソラの顔は明らかに異様なものとなっていた。

絶望の顔。


「お前が秩序を壊した、お前のせいだ、お前のせいで‼‼どれほど死んだと思ってやがる‼どれ程これから死ぬと思ってやがる‼‼」

ソラがアキに向かって走った。

急に、アキの腹が熱くなる

だってそこにはナイフが、ざくり。


「……うぐッ‼?」

さらに倒れたアキに対して、何度も何度も。ざくりざくりざくり。

「アルティメットの見繕ってくれた相手と結婚式上げる予定だったんだ‼子どもも生まれそうだったんだ‼‼俺は酒もたばこも止めたんだ‼‼なのにお前がそんなことするからぁ‼事故で死んだ‼‼」

ざくり、ざくり。


「お前だけには‼‼結婚式をいち早く伝えとこうって‼‼あの時‼‼呼んだのに‼‼なんであんな事‼‼あんな事になるなら自由なんて俺らに要らなかった‼‼」

アキを助ける者は誰もいない。

「死ね‼死ね‼‼死ねぇえええええええええええええええええええ‼‼」

アキはもう死んでいた。

だがソラは、腕が動かなくなるまでナイフを刺し続けた。


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