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Another Side~サミュエル~

久しぶりに意地悪な姉の話が書けて楽しかったです!

 あの日、俺は衝撃を受けた。


 クリストファー様が王から諸国で見分を広めるよう仰せつかって、旅に出ることになった。

 同じ年齢の子らと過ごすことで一般的な感性を身に着けるという教育方針については理解はできる。

 だが、王子はまだ幼い。

 どんな輩が寄ってくるか分からないので、年の近い俺が護衛につけられた。


 王子は素直で賢く、手を焼くことなど一度もなかった。

 少々ワガママを言ってもいい年ごろなのに、自分の立場もしっかり理解されている。

 更に聡明なだけでなく、足も速い。

 信じられるか?頭が良くて性格も良いのにスポーツも万能。

 王子にお仕えすることになってから、触発された俺は嫌いだった勉学にも励み、今のポジションを手に入れたくらいだ。

 俺はそんな王子……キット様を年下ながらに尊敬していた。


 そんな旅で立ち寄ったいくつか目の小さな田舎町。

 こんなところ滞在する意味はあるのか?というくらい平凡な町の小さな学校だった。

 キット様は、滞在三日目の昼休憩に校庭で何かを見つけ、いきなり走り出した。

 今までそのような行動を取られたことなどなかった。

 俺はたまたま教師に呼び止められて話をしていたこともあり、王子の後を追うのが少し遅れてしまった。


 見逃してはいけないと、俺も後を追った。


 校庭の芝生の影に入ったキット様を見つけ追いかけると、いきなりキット様の背後にバラの花が咲き乱れたのだ。

 一瞬だった。

 白昼夢や見間違いとは思えないほどリアルな薔薇。

 何が起きたのか分からないが、とんでもないことに巻き込まれているのではないかと、王子を呼ぶ。

 俺は護衛失格だ。



「王子! こんなところで何をなさってい……ん?」



 キット様が何やら固まっている。

 遠目では良く分からないが、キット様の視線の先に金髪の少女が居るように見える。

 キット様はこの少女と話をするために走って行ったのだろうか?


 けしからん。


 キット様はまだ十歳。このような片田舎の女にうつつを抜かすような時期ではない。

 お目付け役として許すことはできない。

 注意をしようと近寄ると、少女がその場にもう一人居ることに気が付いた。

 キット様のすぐ近くに、茶髪で巻き毛の……それは可愛らしい少女が座っていた。


 俺の位置からは植え込みで見えなかったその少女は、何やらにこやかに笑っている。

 心からの幸福そうな笑みに、俺の目も心も釘付けになった。


 その日、宿に帰ってからというもの、キット様はソワソワとしていて心ここにあらずといった具合だ。

 まさかキット様もドリゼラとか言う少女を見初められたのだろうか?

 主君であるキット様がドリゼラを気に入ったのであれば、俺は潔く身を引こうと思っていたのだが、どうやらドリゼラの妹のエラに一目ぼれしてしまったらしい。


 確かに金髪の少女は天使のように可愛らしかった。

 しかし俺は年下には興味がない。ロリコンじゃないからな。

 どちらかと言えば、同じ年齢とは思えないほど落ち着きのあるドリゼラが……いや、俺のことはどうでもいい。

 問題は珍しく女の子に執着しているキット様だ。



「ああ、とても美しい女性でした。もう一度お逢いしたいものです。サミー、どうすればもう一度あの美しい方に逢えるでしょうか?」


「キット様、我々はすぐにこの町から次の町に向かいます。失礼ながら町娘とお戯れになるのはお控えくださいませ」



 俺は臣下として見本のような返事をした。本当は俺だってドリゼラと話をしたい。

 だが、今後の事を考えたら一般人にあまり深入りをしないほうが良いだろうと思ったからだ。

 しかしキット様から意外な言葉が出て、俺は反対することが出来なくなってしまった。



「ドリゼラ……あの方は素晴らしいです。あのような年齢で精神統一の仕方をマスターされているようでした。ぜひあの(すべ)を鍛練の一環として習いたいです。

 それに、あのような美しい方の姉とは」



 王子は夢を見るかのような遠い目で、(くう)を見つめて、あのエラという少女を思い出しているようだ。

 更に、今まで見たこともないような無邪気な目で俺を見て、意地悪にこう言った。



「私は最初、サミーの好みのタイプだなと思ってドリゼラ様に声をかけたのですが、間違っていましたか?」



 俺の顔が耳まで赤くなるのを見て、キット様はやっぱり!と笑顔を見せる。

 キット様と俺は、お互いの一目ぼれの相手と少しでも長く一緒に居るために画策を練った。

 鍛錬に役立つ瞑想の技術を教えてもらう名目で、もう一度ドリゼラに突撃しエラと逢えるよう取り計らってもらう。

 俺はキット様に付き従ってさえいれば、ドリゼラと毎日話すことができる。


 良い案だと思った。


 翌日、キット様はドリゼラと瞑想の訓練をつけてもらう約束を取り付けた。

 俺が説明した滞在理由と日程を聞き、ドリゼラは数日ならとOKをしてくれたのだ。

 胸の鼓動を抑えながら話をしたが、ドリゼラという少女はキット様以上に聡明に思えた。

 俺などが近づいていい存在ではないように思えるくらいに。


 俺はキット様の瞑想の邪魔にならないように、もう一人の妹とやらの面倒を見ることになったが、一緒に瞑想をしたとしてもドリゼラが近くに居ると胸の高鳴りがおさまらず瞑想どころではないだろうから、正直助かった。

 たまにドリゼラと視線が合う事があるように思えるが、きっと気のせいだろう。

 見られていることに気付くと、気持ちがバレないように顔が引き締まってしまう。

 宿に帰ると、キット様に「キメ顔をしている」とツッコまれてしまったが……キメているわけではなく、ただ緊張してあんな顔になるだけなのだが。気を付けなくては。


 そんな滞在の最後の日。

 キット様は意中の娘であるエラと少しだけだが話をする機会が持てた。

 いつもお行儀のいいキット様が浮かべた、子どもらしいとても幸せそうな満面の笑み。

 あの顔を、俺は一生忘れないだろう。


 最後にドリゼラがマジックなるものを披露してくれたのだが、あの花のシャワーは強烈に記憶に染みついた。

 キット様もことあるごとにあのマジックの話をされ、エラを思い出していらっしゃるようだった。

 俺にとっても、大切な思い出となった。



 はずだった。



 キット様は諸国を回られた後も、何かにつけてエラの話ばかりされる。

 しかも、あろうことか近衛隊の俺を連れて視察だ遠乗りだと理由をつけては、数年に一度あの町まで様子を見に行く始末だ。

 遠目から見ても、あの姉妹がとても美しく成長しているのが良く分かった。

 おかげで俺もドリゼラを忘れることが出来なくなってしまった。



 その後、成長したキット様は王より結婚相手を決めるように迫られる。

 キット様に泣きつかれた俺はこう提案した。



「隣国との小競り合いを治めることが出来たら、国中の未婚女性を王城に集めて舞踏会をすることを許してもらいましょう。王は実力を認められればクリストファー様の条件を受け入れてくださるはずです。

 舞踏会にはエラも来るでしょうから、その場でエラ以外とダンスを踊らなければ良いのです。クリストファー様がこの娘に決めたと大勢の民に見せつければ、王もこの娘は駄目だとは言えないでしょう」



 自分でも、よくこんな案を思いついたものだと思う。

 きっと、一緒にあの姉……ドリゼラもやってくるだろう。

 この数年は遠目で追うだけだったが、もしかしたら俺にもチャンスがあるかもしれない。

 ドリゼラと話をするチャンスが。


 俺の目論見通り、あの姉妹は城にやってきた。

 キット様はすぐにエラを見つけるとダンスを申し込み、幸せそうに踊っている。

 やはりエラの隣には、ドリゼラが居た。

 近くで見る彼女は想像以上に美しく成長していた。

 しかし、なぜあんな胸を強調したドレスを着ているのか。

 俺の杞憂ならいいのだが、周りの男達の目線が全て胸に集まっているように見える。


 そんな俺の心境を知ってか知らずか、ドリゼラの方から話しかけてきた。



「サミュエル様もお久しぶりです。今は王子の近衛隊長を拝命されていらっしゃるとお伺いしました」


「ああ、久しぶりだな。ドリゼラ殿もお噂は城まで。何でも素晴らしい商才を発揮されているとのことで」



 隣に立たれるといい香りと、遠目で見るよりもかなりボリュームのある胸がどうしても気になるので、できるだけ見ないように心がける。

 緊張のあまりに顔が強張ってしまったのだが、気付かれただろうか?

 俺との会話はあまり弾まず、沈黙が流れたときに彼女は男に呼び出されて中庭に出て行った。

 俺の見知らぬ男と連れ立って?

 なんだか無性に心配になって後を追いかけてしまった。

 これではストーカーではないか。

 俺は近衛隊の隊長だぞ?

 何をやっているんだろうかと情けなくなり、城にもどろうとしたところでドリゼラを見つける。

 噴水の縁に腰掛けて、うつむいている。泣いているのだろうか?



「あんた、大丈夫か?」



 思わず声をかけてしまった。

 さっきの男はもう居なかったが、なぜかドリゼラは猫を抱いていた。

 泣いているように見えたのは、猫を抱いていたからだった。

 その姿を見られたのが恥ずかしかったのか、ドリゼラは用事があると言いどこかに行ってしまった。


 見送ることしか出来なかった俺は、幸せそうな笑顔で踊るクリストファー様の元へ戻った。

 ドリゼラと少しでも話が出来たことだけで俺は満足だ。



 もう忘れようと思ったのだが、よく考えたらドリゼラは、クリストファー様が妃に選んだエラの義姉。

 彼女は結婚式まで足しげく王城に通うようになった。

 もちろん、話をする機会も増えたのだが、それを見るたびにクリストファー様は「お前も早くキメてしまえ!」という顔をされる。

 ドリゼラが帰った後など、エラと共に説教までされる始末だ。


 俺はこの先、彼女に想いを告げても良いのだろうか?

 最近また眉間のシワが深くなったような気がする。

アルファポリスの連載は10万字を突破しました。

一か月頑張りましたが伸び悩み中です。

最後まで書き切ろうとは思いますがスローペースになりそうです。

アナザーストーリーは気が向いたらまた更新しますので、たまに見に来ていただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど。 本命はドリセラでしたか。 しかし、片想い度100%かぁ……。 エラ公認とはいえ、何かしら一発逆転の秘策が必要ですね。 生真面目なサミュエルに幸あれ。(精一杯のエール)
[一言] サミュエルさまのその後を!! その後を…!!! ああ、幸せであれ…!!!!
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