Another Side~ルシファー~
お待たせしました。Another Sideルシファー編です。
遠い遠い、いつだったか分からないくらいの昔。
ぼくは地球という星の日本という国から転生してきた。
昔過ぎてあまり良く覚えていないけど、多分生まれてすぐだったように思う。
パパの記憶はない。
ママの手の中で一度だけ抱きしめられて、あとは沢山の管に繋がれていたという記憶。
すぐにシンデレラの世界へやってきたから、辛いとか怖いとかそんな感情をひとつも感じることもなかったから安心して。
少しだけ、フェアリーゴッドマザーに拾われた経緯を話そうと思う。
彷徨っていたぼくの魂を拾ってくれたのはフェアリーゴッドマザーだ。
迷い込んできた魂が、色んな生き方をしてまた同じ物語が輪廻する世界ということや、ここはお話の中だから、色んな子が色んな運命をたどる場所なんだって教えてくれたのは、フェアリーゴッドマザーその人だ。
ぼくはあまりにも幼くて小さな魂だったから、思わず声をかけてくれたんだって。
フェアリーゴッドマザーはとても暖かくて、とろけそうなくらい気持ちが良かった。
一度だけ抱きしめてくれた、あのママの感じ。
その時に、ぼくはこれからの未来をどうするか選択したんだ。
自分の意思で。
転生して記憶を失い新しい命を生きるか、それともこのまま妖精として色んな子たちを未来へ導くお手伝いをするか。
ぼくはあたたかいママの記憶を失いたくなかったし、色んな子たちと仲良くなれるならそれでよかった。
だから、迷わず未来へ導くナビゲーターを選んだんだ。
この世界は、迷い込んだ子の一生が終わると、また新しい魂が迷い込んでくる仕組みになっているんだって。
ナビゲーターが居なくなるタイミングでやってきた魂は、転生するかナビゲーターをするか選ぶことが出来る。その点でぼくはタイミングが良かったのかもしれない。
実は物語の世界はものすごーく沢山あって、この物語以外にもいろんなお話が輪廻しているらしい。
ぼくはこの世界しか知らないから、へーって思っただけだったけど、ちょっと興味はあるよね。
何度も何度も輪廻する世界は、それは面白かったよ。
ひとりひとりが全く違う生き方をして、全く違う物語を紡ぐ。
ぼくのお仕事は、担当した子の思い入れの強い「もの」に、ぼくが"乗り移る"形でナビゲートするのがお仕事だったから、その度に色んな「もの」になれるのも楽しい経験だった。
お話通りに進む子もいるし、そうじゃない生き方を選んだ子もいる。
中には悲しい終わり方をした子も。
そんな風に、この世界を何度もループしていたぼくに、フェアリーゴッドマザーが次のお仕事をくれた。
「今度の子はとびっきり不思議で面白い子ですよ。次は彼女の願いを叶えてあげてくださいね。そして、大切にしてあげてくださいね。なぜなら、私の可愛い子を守ってくれる存在なのだから」
フェアリーゴッドマザーがそんな風に言うなんて、どんな子なんだろうってワクワクしながら毎日その子の時間を眺めていたんだ。
そんなある日、その子は母親に突き飛ばされて、テーブルの角で頭を打ち付けたんだ。
それがきっかけで転生前の記憶が呼び起こされてしまったんだ。
ビックリしたよ。だって転生前の記憶を呼び起こす子なんてほとんど居なかったんだから。
ぼくは、凄くワクワクした。
彼女の記憶はぼくと同じ地球の、しかも日本って言う国のものだった。
同じ出身って言うだけで、勝手に親近感を抱いたのは間違いなかったさ。
異国で同郷の人と逢ったら、その人がどんな人だろうと仲良くなれちゃうだろう?
それと同じさ。
いつこの子とお話できるだろう?
いつこの子の力になれるんだろう?って毎日ワクワクしたものだよ。
ある日、彼女にピンチが訪れて、ようやくぼくの出番がやってきた。
ぼくの新しい「モノ」は、どこにでもあるようなくまのぬいぐるみだった。
手足のあるものは、ちょっとだけなら動かすことができるからラッキーだった。
そこから彼女との共同生活が始まった。
彼女……梨蘭の魂は、かなり変わっているように思った。
何だか女の子のことが大好きだし、血のつながりのない義妹を助ける!と息巻いていて、やる気も十分にあった。
今まで見てきた子たちと違って、魔法だって思った以上にメキメキ上達するし、使い方も真面目だった。
ぼくは、いつしかこの子に肩入れするようになっていった。
今までそんなこと無かったのに。いつも僕は公平で平等だった。
そうあることが当たり前だと思っていたんだ。
だけど、梨蘭は違った。
ぼくが死ぬことはないと分かっているのに、ぼくの心配をするんだ。
いつだったか、出会ったばかりの頃は「お腹がすいたりしないの?」って聞いてくれたこともあった。
繋がっていると分かっているのに、毎日何があったと報告してくれるし、コロコロ感情が忙しく動く梨蘭を見ていると、ぼくもなんだか楽しくて面白くて毎日が最高の時間だと思えた。
「次は彼女の願いを叶えてあげてくださいね」
フェアリーゴッドマザーの言葉が強く響くようになったのは、出逢って半年ほどの梨蘭が十二歳の冬だった。
あと五年したら、梨蘭の願いが叶うんだと強く分かるようになった。
沢山の願いがある彼女の、一番の願いが「義父の命を救う」だということを直感で感じたぼくは、それまでの間に何としても魔法の腕を上げさせる必要があった。
ひとりの生死にかかわる運命を変えるほどの魔法は、本当に強い思いと力が必要なんだ。
少々厳しいことも言ったけど、彼女は一生懸命鍛錬していたから驚いたのを覚えている。
いつだったか、聞いたことがある。
『梨蘭、そんなに他人の為によく頑張れるね?』
「ルシファー、いずれ私の為になることだから。私は私の為に頑張っているんだ。だから、他人の為と言うより、最終的には自分の為だよ。それに、みんなが幸せなのが一番いいでしょ?」
『その考え方はなんだか素敵ですごくいいね!』
そう言うと、梨蘭は照れて笑っていたけど、今までの子は全部自分の為に魔法を使っていた。
やっぱり誰かの為に使おうと思える考え方って、素敵だと思ったんだ。
一緒に居る時間が長くなるほどに、ぼくはこの子のことが大好きになった。
好きって感情は今まであんまり深く考えたことがなかったんだけど、心の中から溢れるこの想いは、きっと愛情なんだと気が付いた。
だから、梨蘭の元を離れてしまうことに、少しだけ躊躇した。
誰かの事になると感情的になって抑えられなくなる彼女を、ぼく以外の誰が抑えてあげられるのだろうか。
でも、その時はやってきた。
梨蘭の義父を救うために、ぼくは波にのまれた。
泣いている梨蘭なんて見たくないと思ったら、勝手に体が動いていた。
梨蘭は母親に取り憑いていた強大な敵を無事に倒すことができた。
それを見届けると、ぼくの役目は終わった。
梨蘭の願いが果たされ、ぼくは今までと同じようにフェアリーゴッドマザーの元へ戻った。
けど、今までみたいに仕事をやり遂げた満足感を得ることができなかった。
毎日くまのぬいぐるみを抱きしめて泣く梨蘭を眺めては、溜息をつく。
どうすることも出来ないけれど、彼女を助けたいと何度も思った。
ある日、フェアリーゴッドマザーがぼくの所へやってきて、こう言ったんだ。
「あの子の物語はもうすぐ終わります。次の子のナビゲートをするか、あの子の……梨蘭のパートナーになるか選べますが、どうしますか? パートナーになると、梨蘭の命が尽きる時あなたの命も尽き、記憶を失い別の世界へ転生することになります。二度とここへは戻れないかもしれません」
フェアリーゴッドマザーの顔は、選択肢を選ばせるという顔じゃなかった。
ぼくがパートナーを選ぶだろうと分かっていたんだと思う。
もちろん、ぼくは梨蘭のパートナーを選ぶことにした。
だってもう、梨蘭はぼくの大切な家族だったから。
ぼくはパートナーとしてこの世界に誕生した。
梨蘭の家の近くでたまたま生まれたばかりの子猫になって。
最初は子猫の意識しかなかったけど、なぜか段ボールに入れられて投げられた時にぼくの記憶が覚醒したんだ。
梨蘭の元へ行かなくちゃ。
一生懸命歩いたら、梨蘭を見つけた。
顔は笑顔だけど、心はいつも泣いている梨蘭の元へ。
『ぼくの名前はルシファー! 梨蘭のパートナーだよ!』
梨蘭が元気になるように、せいいっぱい大きな声で伝えたんだ。
残念ながら、僕の声は「ニャー」としか伝わらなかったし、エラを介してじゃないと話も出来なかったけど、大切な梨蘭と一緒に居られるなら何でもよかった。
その後、梨蘭はぼくを人間に化けさせる魔法を使った。
ぼくは梨蘭と話ができるようになった。
魔法は継続できなくて、すぐに消えてしまうけれど、梨蘭と話せることが単純に嬉しいんだ。
きっと梨蘭にはぼくの喜びの十分の一も伝わってないんだろうけど、そのうちきちんと伝えるんだ。
きみのことが大好きだよって。
ルシファーの次はあの人のAnother Sideを書く予定です。
小説サイト、アルファポリスの方で書いている「悪役令嬢は引きこもりたい」が少し落ち着きましたら更新したいと思います。
引き続きよろしくお願いします。




