死神病
本日分です。
町にやっと着いた。
……思ったより酷い状態だ。
なんというか、前世の映画や写真で見た貧民街みたい。
悪臭がして、道には子供が倒れている。
家のようなものは屋根がなく、ぐしゃぐしゃになっている。
……食事が、草しか出ないの当たり前だ。
外の場所から持ち込まないといけないから。
領主はなんの策も講じなかったのだろう。
なんとかしたいな。だって、ローゼリリーならほっとけないはずだもの。
「……おみず、ちょーだい」
どこからか、子供が近づいてきた。
水……。
水筒を持ってきたはず。おずおずと差し出すと、3、4歳くらいの女の子はこくこくと飲み始める。
痩せてるな。何も食べてないんだろう。
しばらく、その子を見ながら、考えて右手を出す。
「クーウェリーヴァ」
ぽわっと手のひらが光り、果物が出てくる。
ゆっくりと、その子の前に差し出す。
「……食べる?」
その子は、受け取った後、しばらく見つめていたがふるふると首を振って右を指差す。
そこには、小さな家のようなものがあった。
「あそこにびょーきのいもうとがいるの」
「病気? 君はお姉ちゃんなんだね」
あそこはこの子の家らしい。3、4歳の子の妹……。しかも病気って。その子、大丈夫なのかな?
「ついていってもいい?」
緑魔法は、回復もできるから、役に立てるかもしれない。少女はこくりと頷いた。
「ナギ」
「え?」
聞きなれない単語に聞き返すと。
「お名前だよ」
「そう。ナギって言うんだね。私はローゼリリー」
この子の名前は、ナギ。
「ローゼリリー? おねえちゃん、おきぞくさま?」
お貴族様。名前が平民と違うもんね……。
「うん、ローゼリリー・コーデリア。この領地を治める、スーリラ公爵の娘だよ」
「……へー、そっか」
何故か、ナギには首を傾げられた。
そして、ナギが、おずおずと私の手を握る。
私も握り返すと、ナギはにこっと笑った。可愛い。あぁ、そうだ。
「クーウェリーヴァ。ナギ、これどうぞ。妹さんの分、足りなかったらまた作るから」
もう一個果物を出し差し出すと、ナギは、はむっと、小さな口を開けて食べ始める。
「ありがとう。おねえちゃん」
嬉しそうに笑うナギの頭を撫で、ナギの家に入る。
中には、ベットが一つだけ。そこに子供が寝ていた。
「……なーちゃん」
ぜえぜえと荒い息を吐く子供の口から、ぽつりと言葉が出る。
「ここにいるよ」
ぎゅっと、私から手を離し、その子に駆け寄りナギは手を握った。その様子を見ながら、私はほっと息を吐く。
……治せるかもしれない。
私の記憶が正しければ、あの症状は、『アーヴェル国勇者物語』で出てくる、ルシアという町の流行り病。
死神病だ。
病気自体は簡単に治る。
すごいのは名前と、感染力。
大人の方がかかりやすいこの病気に子供がかかっている。
つまり、この町全体がかかっていると見て間違いなさそうだ。私の緑魔法で治せる。
「ねぇ、ナギ。その子の病気と同じような症状の人見たことある?」
ナギが不思議そうな顔で教えてくれた。
「たくさんいるよ。おねえちゃん、魔法使えるんだよね? なおせるの?」
「たぶんだけど、なおせると思うよ。ナギ、ちょっと離れてくれる? 」
ナギが離れたので、その子の顔を覗き込む。
ナギの妹さんは、驚いたように目を開けた。
「天使さま?」
天使。やっぱり、リリたんの外見はそう見えるのか。
「ううん、君を助けに来たの」
「助け?」
「そうだよ。ねぇ、ナギの妹さん。私の魔法かけてみていい?」
その子はパチパチと瞬きをして頷いた。
『クーウェリーヴァ』
お願い、治って!
最後まで読んでいただきありがとうございます!
ブクマ、評価よろしくお願いします。
今週中に勇者視点の番外編入れたいです。