社交界と友人
「……」
夜会当日。
私は、リーの『隠れ家』だという王都の屋敷の中で鏡を前に固まっていた。
夜会の前だという事で、着替えてみたんだけどねぇ。……リーが用意してくれたドレスが……。
別に、似合ってないとかじゃない。
似合いすぎだ。可愛い。大天使。
一億年に一人の美少女!
……ドレスの色は淡い緑。青の糸で花の刺繍がしてあり、首の辺りにーーー多分ゲームで見たコーデリア家のーーー紋章が、真ん中についたリボンが付いている。
コーデリア家の紋章は、お祖父様や叔父様から、使うことを許されてるから、使ってOKなんだけど、なんでリーが知ってるんだろう……。
しかも、サイズがぴったり。サイズは、いつ調べられたのか……。
それにしても。
9歳のドレスでここまで、手が込んでいるとは。
値段は……。考えていて、気が遠くなってきた。
リー、いつか返すよ……。
後ろのサラサラとした翠の髪を、両サイドで編み込んだ後、フワリと上の方で深緑のリボンで結い上げた。
……天使ーーーっっっ!!!
可愛いっ! 可愛いよ、リリたんっ!
推しキャラのドレス姿。原作では、絶対に見られない……。
……リリたんに生まれて良かった!
ちなみに、エスコート……もとい、護衛兼付き添いは子供なので、普通は、兄か、父に頼むのだが。
いないので、お母さっ、こほん……保護者、リーデルがしてくれる。
至れり尽くせり過ぎやしないだろうか。
リー……、お礼に君が魔王に乗っ取られないよう、頑張るからねっ!
そんな風に決意し、私は外へ出た。待っているリーの為にも、早く行かなければ。
……リーの隠れ家、貴族の屋敷みたいだなぁ。
☆★☆
「よし、そろそろ到着だよ。ローゼ様、準備はいい?」
「えぇ、行きましょう。リー」
私は深呼吸し、王城に足を踏み入れた。
「……どこかしら?」
入ってから、ずっと視線を感じる。
作り笑いを浮かべ、その人達を見やるとひそひそとなにか囁き合う。リリたん天使だからな……。
しかし、リーと目があった途端、全員目をそらす。
リー……。
「だれか探してるの? ローゼ様」
若干、崩した敬語は彼らしい。
「実は、さっきから兄と従兄を探してるんだけど……」
アベル兄様にカイン。
勇者パーティーの一人、第ニ王女……スピィの誕生日記念である今日の夜会には来ているはずだ。
……スピィだっ! 可愛いっ!
ふと見知った顔を見つけてテンションが上がった。
勇者パーティーのメンバー、スピネル。
愛称、スピィ。
表向きは『鑑定士』。
だが、本当は勇者パーティーに、国王がつけた『監視』。
ツンデレ鑑定姫スピィ。現在は、9歳……。
はぁ、かんわぁい〜〜!!
興奮していると、リーにペシペシと、腕を軽く叩かれる。
……あ、そうだ!
私は、公爵令嬢……私は……。
「……ローゼリリー様……?」
自分に言い聞かせていると、驚いたような声が聞こえた。聞き覚えがある、この声の持ち主は私の友人ルヴェナだ。
「お久しぶりですわ、ルヴェナ様」
「お久しぶりです、会えて嬉しいですわ」
ふにゃふにゃと笑い合っていると、ルヴェナ様が、ふと首を傾げた。
「そちらの方は?」
「あぁ、友人ですわ」
「まぁ、そうでしたの。
初めまして。私は、メーリオス侯爵家長女、ルヴェナ・メーリオスです」
まぁ、と笑ってリーに挨拶してくれたルヴェナ様のご両親は、どこかで話しているようだ。
この夜会……ほぼパーティーだが……は、本来、社交界にまだでないはずの年齢の子供が多い。
王女の誕生日という事で、王女の同年代の子供達を連れてきて、側近や婚約者にしようという家が集まっているのだ。
割と、みんなマナーも敬語も間違えたりしている。
子供達の会話もどこか、ぎこちないし、それを許されているのだから、結構ゆるい。
本当にゆるい。……ゆるすぎでは?
子供の一人歩きが多くて、精神年齢17歳のローゼリリーお姉ちゃんは不安だよ……。
「そういえば……アベル様は、ご一緒ではないのですね」
先程お会いしたのですが……と、ルヴェナ様が首を傾げた。
……わー、優雅〜! って、そうじゃない!お兄様!
「ええ。お兄様ったら、全く妹を置いていくなんて意地悪なんですから……。
ルヴェナ様、お兄様を見つけたのは、何処のあたりですか?」
「あちらの方だったと思いますが……あ、お母様が呼んでいるので失礼ながら、また今度」
「まぁ、残念ですが……また今度」
ルヴェナ様……。私がお兄様に会いに行きたいのを察して、離れてくれたんだろう。
ありがたい。ルヴェナ様、今度非公式な場でお礼を言おう。
「ローゼ様……知り合い?」
お兄様をきょろきょろしながら、探していると、体を屈めたリーが、耳元でそう囁いてきた。
前を見ると、近づいてきていたのは。
「えっとーー……ロゼ?」
キラキラとした金髪に、私と同じ蒼い目。
この世界の救世主。
「久しぶり……カイン」
勇者カインだった。




