秋葉原ヲタク白書79 橙色のメイド服
主人公はSF作家を夢見るサラリーマン。
相棒はメイドカフェの美しきメイド長。
この2人が秋葉原で起こる事件を次々と解決するオトナの、オトナによる、オトナの為のラノベ第79話です。
今回は、総勢148名もいる神田河岸148の"2.5次元演歌"デビューが決まった矢先に"波動のセンター"が失踪します。
失踪の背後に、ミレニアムの頃、メイドに美人が多いと評判のメイドカフェで起きた、ある事件が浮上して来ますが…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 会いに行ける演歌歌手
「タイヘンょ!御屋敷に"橙色のメイド服"が送られて来たの」
「ん?ドチラ様?」
「貴方に電話するべきじゃナイってわかってる。でも、でも!私、怖くて」
夕暮れ時のアキバ。自粛解除を受け、聖地は少しずつ活気を取り戻し中。
外神田の雑居ビルから、別の雑居ビルへ飛ぶ電波に不安げな女子の音声。
「で、ドチラ様?」
「え?貴方は?ディズなの?」
「僕は、ヲタクのテリィだ。ディズは…今、電話に出られない。貴女は?」
「何?ワケわからない。どうなってるの?そんな…誰かいる!ねぇ誰かいるわ!」
「落ち着くんだ。今から御帰宅するから御屋敷の場所を教えて」
「やめて!欲しいモノは何でもあげるから…キャー助けて、テリィたん!」
銃声。
「もしもし?どうしたの?もしもし!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今"2.5次元演歌"がキテるw
"2.5次元"と逝えばミュージカルで、腐女子が"ジャニヲタ"的に盛り上がって年間200億円規模の巨大マーケットを支えてる。
この流れの男版でアニメ原作のキャラクターを歌った演歌のヒットを見込む連中がいる。
何しろ、男性に人気のアニメには、今でも男を一途に想い、尽くし、待つ女が溢れてるw
コレぞ演歌独壇場の世界←
いもしない異性像を歌の世界に求めるのは、古今東西を問わズ世の習いだ。
特にヲタクの場合、その求め具合が半端ナイから市場規模は無限に膨らむ。
そして、遂にアキバ発の国民的アイドルグループ"神田河岸148"が演歌へと進出!
"会いに行ける程度"のアイドル総勢148人の演歌大合唱。赤穂浪士より100人多いw
しかも、彼女達が歌うのは、女、酒、涙、貴方を待ってマス、想ってマス、セイラマス…
ヲタクを卒業し、サラリーマン化して会社と家族に振り回される男達への人生の応援歌!
今こそ、サイリウムを握りしめネクタイを頭に巻きヲタ芸を打ちに来れば良いと思うょ!
立てょサラリーマン!ジーク演歌!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
と逝う背景を踏まえ、話を現場に戻しマス。
「ミユリさん?」
「あ、テリィ様。新橋鮫さんからコチラに出向いて、ディズさんから話を聞いておくように逝われたのですが。何でも鮫さんは殺人事件が起きて身動きとれないとか…」
「へぇ。ミユリさんが鮫の旦那から仕事を?探偵でも始めたら?メイド探偵、絵になるなぁ。しっかし、どーしよーもナイ事務所だね」
僕達は、音楽プロデューサーを自称するディズのオフィスにいる。
トイレ横のドアを開けると、散らかり放題のデスクだけの小部屋。
彼とは"JAZZメタルの女王"と称されるヘレン・めるるが"アキバの溜息"とか呼ばれてた頃、地下でスレ違ったコトがあるだけ。
その後、彼女は"女王"になり、僕も作家として名が売れ出し…ディズだけが昔のママ。
そして、突然の呼び出しで"事務所"に顔を出したら…彼はトイレに篭って出て来ないw
すると、彼のスマホに着信がアリ、ワケわからん遣り取りがアリ、ミユリさんが現れる。
恐らくミユリさんの声を聞いたディズが、トイレの水を流してドアを開け姿を現わすが…
臭い。何を食ったらこの臭いにw
「やぁ!ミユリさん。全然ご帰宅出来なくてゴメンょ!ホント、最近追われちゃってサ。鮫さんに貴女をリクエストしたのは、実は俺ナンだ…ん?テリィたんもムダに一緒だと?アンタ、未だミユリンのヒモやってんの?」
「誰だょその"ミユリン"って?何でもカンでも最後に"ン"つけりゃ良かった昭和は既に年号で2つも昔だぞ」
「あら。女はアイドル扱いされるのは(いくつになっても)うれしいモノです。ごきげんよう、ディズ」
ホラ見ろとトイレから出て手も洗わズ握手を求めるディズの手に、コロナ用携帯スプレーを噴きかけ"殺菌"後に握手するミユリン←
「いやぁ"KDG148"に演歌を歌わせるコトになってさ。もうメッチャ忙しいワケょ。ホラ、俺はプロデューサーだから」
「へぇ。あのプロジェクトに噛んでるンだ。"めるる騒動"の時に、もうアイドルはヤメたとか逝ってたょね?」
「あ、あれ?そ、そぉだっけ…とにかく!アツカがさ、ホラ。俺が色々世話したから。彼女が俺に恩を感じちゃってるワケょ」
後田アツカは"波動のセンター"。
厄介ゴトを周囲に光速で伝播スル。
あ、ディズにそっくりだ笑
当時"地下アイドルの魑魅魍魎"148人をカキ集めてデビューさせたのが"KDG148"。
もともと運営がシッカリして無いトコロに妊娠、出産、結婚、離婚が同時平行で大発生。
正直な話、今もホントに全員集めて148人いるのか誰にもワカラナイし多くても少なくても誰も責任は取れないょと逝うのが実情だ。
「あれ?そー逝えば、さっきの意味不(明)の電話、後田アツカに声が似てたな。アレって"148"からの電話だったのか?」
「えっ?アツカから俺に電話があったのか?何で取り次がないンだ?!あ、俺が篭ってたからかwで、何か逝ってた?」
「うん。確か"橙色のメイド服"がどーしたとか…最後は銃声でキレた」
すると、ミユリさんがデスク上の崩れた書類の山の中から、ビニール袋に入ったクリーニング済みのメイド服を器用に引っ張り出す。
「あら?ディズさんも持ってるの?この"橙色のメイド服"」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の御屋敷。
「鑑識が忙しくて、昨夜の殺しが、今やっと現場検証が終わったトコロだ。ヤレヤレだゼ!」
「鮫の旦那、声がデカいぉ。ココは、ヲタクが静かに傷を舐め合う場だ。巷では"沈黙の星バー"と呼ばれてる」
「おお。テリィたんも一緒なら都合が良いや。で、どーなのディズって野郎は?」
コロナ自粛解除で詰め掛けた常連を手刀で掻き分け現れた新橋鮫は、万世橋の敏腕警部。
現場からの引き上げがてらミユリさんに頼んだ件の話を聞こうと御帰宅して来たようだ。
「アツカのトコロに送りつけられたのと同じ"橙色のメイド服"がディズのオフィスにあった。その後、アツカは銃声と共に失踪して、もう1時間が経過してる。失踪届とか出てナイの?」
「あのな。失踪届ってのは死亡とみなすための書類だ。このタイミングで出るなら、捜索願だけど…未だ出てない」
「電話で銃声っぽい音を聞きました、だけじゃ通報なんか出来ないょ」
「当たり前だ。そんなんで毎回通報されちゃコッチも堪らん。しかし…うーん。何だか1ヤマありそうだな。先に勝手に呟いとくが、ディズとアツカの2人を結びつけるモノは、駄菓子チョコバーの"ブラックパンダー"だ」
「えっ?"ブラックパンダー"?あのザクザク感が病みつきの?」
ブラックパンダーは、コンビニの駄菓子コーナーで売っているチョコバー。
ココアビスケットをチョコで固めただけなのに麻薬入りかと疑う常習性だ。
僕もハマってる←
「ソレもタダのブラックパンダーじゃねぇ。"YOURブラックパンダー"ナンだ」
「え?"YOURブラックパンダー"だと?ソ、ソレは?」
「好きな写真を使ってオリジナルのブラックパンダーが作れちゃうインターネットサービスだ。例えば、テリィたんとミユリさんのプリクラ入り、2人だけのブラックパンダーとか作れちゃう。お誕生日や結婚式用のプチギフトとして大人気らしいぞ」
すげぇ!
ミユリさんとツーショの写真入りブラックパンダー!ほっ、欲しい!
世の中に、そんな素晴らしいブラックパンダーがあっても良いのか?
「ミユリさん!今すぐプリクラへ!」
「は、はい!喜んで…でも、お話の続きも伺わないと」
「実は、KDR148がデビューする前…だから、後田アツカが未だ地下アイドルだった頃、彼女はイベントの特典でディズとツーショの"YOURブラックパンダー"を作ったらしい」
「し、しまった。先を越されたか」
「ソレが当時の奴等の"YOURブラックパンダー"から毒性が検出された。あの頃"YOURブラックパンダー"を扱ってたインターネット業者は、パッケージへのプリクラ印刷を大陸の業者に外注してたが、その業者がケチって使ったインクの成分に、飲み込むと体内でドラッグに変化するモノが含まれていたンだ。つまり、β-ヘドロキシ酪酸に」
「ええっ?ソレって、昏睡させてヤッちゃう時に使う、いわゆる"デートレイプドラッグ"だょね?」
「テリィ様、良く御存知ですね!実は荒んだ青春だったとか?」
「ミユリさんと出逢う前の僕は…ってか、そんなコトより、当時、2人のブラックパンダーのお裾分けで"デートレイプドラッグ"の犠牲になった女子がいたカモってコト?でも、包装だろ?そんなに口に入れるバカもいないのでは?」
「しかし、当時の記録に拠れば、万世橋管内で、少なくとも9人が入院の憂き目に遭ってる」
「9人も包装を舐めてるのか?ソレって…何かのパーティ?"ブラパンの包装を舐めて君も飛ぼう"みたいな…しかし、ディズとアツカは、少なくともその9人の恨みは買ってるワケだ。でも、シツコイけど、いかにブラックパンダーとは逝え、あの2人の写真入り包装を良く食べる、否、舐めるょなwで、その9人の内の誰かが今頃になって、復讐鬼となって蘇り、先ずアツカを拉致したってコト?」
「…お裾分けチョコの復讐?とにかく、件の9人からは男性も含め被害届が出てナイから、今も当時も当社としては動けないンだ」
「ソレで、僕達に調べてくれってコトかょ、鮫の旦那?」
「実は、もう1人、探偵志願がいる」
「探偵志願?」
第2章 元祖キャバ嬢探偵の登場
「おかえりなさいませ。御主人様&お嬢様。
私が元祖キャバ嬢探偵のユ→コです」
え?キャバ嬢…なの?
口上と外見の落差がヒド…いや、激しいw何しろ普通の虎柄シマムラおばさんだょ?
髪こそセミロングだけどボサボサで、生活感が洪水のように溢れ出て止まらないが…
さらにトドメの一言w
「ガールズバンドでボーカルもやってます」
いや、最早ガールでは…
「彼女は…誰なんですか?」
「私は"新橋鮫"の秘蔵っ子です」
「待て。サスガに秘蔵っ子と認めるかどうかは、自分で判断したい。ん?何を見てる?」
「私、本当にアキバに戻って来たんだなって思って」
「素晴らしい観察力だな。今、メイドバーにいるのもわかってるか?」
うーん新橋鮫との会話もヤタラと呼吸ピッタリでソレがまた中年の夫婦臭くてタマランw
「うー。何か悪寒がしてきた。で。結局、このオバ…じゃなかったキャバでボーカルなオバ…じゃなかった人は誰なの?」
「俺が、新橋警察にいた頃の、その、まぁ、何と逝うか…」
「情婦?」
「ええっ?鮫の旦那はアキバに来てジュリとも付き合いだしたょね?ソレって赴任する先々に"情婦"がいるってコト?船乗りみたいに、港港に女が…」
「人生は航海、男はみんな船乗りだ」
「ソレは後悔、男はみんな悪乗りの間違いでは?ジュリは知ってンの?」
ココで師匠?の劣勢に虎柄コスのユ→コがシャシャリ出て、サンバに合わせて踊り出す…
「私は捨てられた女。今は現役警部の元カレから探偵業の手解きを受けてる身に過ぎません。今、鮫サンが誰かにチョッカイ出してるのなら、ソレがカレの最愛の人。ソレが例えアキバのズベ公であっても!今の私は、探偵業1本なのです」
ハッキリ言い切るユ→コに、新橋鮫は闇夜に聖母と出逢った信者の如く両手を合わせるw
しかし、赴任する先々で萌え系の情婦をつくるとは実は重度のヲタクは彼かもしれナイ。
で、コレが僕とミユリさんがユ→コを押し付けられた顛末。鮫の旦那、コレ貸しだから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
仕方なく、ユ→コと3人で捜査?を始めたが、コレがイザ始めると意外や勝手が良いw
と逝うのも、ユ→コはミレニアムの頃にメイド経験がアリ、関係者と面識がアルのだ。
だから、勝手にディズを呼び出して詰問w
「お久しぶりね、ディズ。貴方は、アツカ失踪の重要参考人ょ。今から取調べるわ」
「え?ココでか?メイドからコロナが出た御屋敷だぞ。他にしないか?」
「メイドは全員マスクしてるし御帰宅後の消毒も徹底してる。千代田保健所のお墨付きも出てるから全く問題ないわ」
「ソレなら安心だ!しかし、お前、久しぶり過ぎるだろ?俺を取調べって、婦警にでもなったか?ソレにしちゃ上から下まで虎柄のシマムラだが…」
「ウルサイわね!昨夜は何処に?」
「え?一体何の話だょ?浮気調査?」
「後田アツカはご存知?」
「モチロン」
「昨夜"KDG148"の"波動のセンター"コト後田アツカが失踪、プロダクションから捜索願が出たわ。念のための確認だけど、昨夜は何処にいたの?」
「仕事をしてた。先ず、この御両人が押し掛けて来て、それからバイトに逝った。夜勤で段ボールの仕分けをやってルンだ」
「誰かと一緒に?」
「昨夜は1人作業だった。でも、防犯カメラに映ってるから確認してくれ」
「画像はループさせてアツカを拉致したのでは?」
「おいおい。俺はスパイかょ?アツカは…あの性格だから大勢から恨まれてたけど?」
「確かにそうだけど…彼女に送られた"橙色のメイド服"の差出人が貴方なの」
「俺が予告した上で拉致したと逝うのか?」
「単なる重要参考人ょ」
「もうタクサンだ。俺が拉致犯だとして、自分のオフィスから"橙色のメイド服"を送るか?何処まで馬鹿ナンだょ?」
「部屋を見せてもらえる?」
「何て連中だ!悪者を絶賛取り逃し中なのに、俺にばかり嫌がらせ捜査を繰り返す。コレでアツカが殺されたら、俺を即、殺人犯扱いスル気だろ?」
「ディズ。協力して欲しいの」
「嫌だ。お前達に協力する義務はナイ。そもそも、俺は何もやってナイ。部屋を調べたいなら、チャンと令状を取って警官と来い」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そう啖呵を切り、憤然と席を立ってスゴい勢いでお出掛けして逝くディズを見送る僕達。
しかし。時間が余ったので、この機会にレアなマスク顔メイドと記念写真を撮ってたら…
スゴい勢いのママ、ディズが戻って来るw
「あら?高速ループ?」
「先程はどうも。やっぱり新橋鮫に会いたい」
「私が案内するわ。でも用件は何?」
「俺がやった。俺がアツカを拉致した。自首したい」
何故かニンマリするユ→コが不気味だが、本能的に出番な気がして僕は話に割って入る。
「昨夜、ミユリさんが君のオフィスで"橙色のメイド服"を見つけた時、ヤタラ意外そうな顔をしたょな。自分のオフィスなのに、そんなモノがあるとは信じられナイって顔だった」
「おいおい。俺が自分のオフィスでどんな顔をしようが、俺の勝手だろ」
「誰かが君のオフィスに侵入し"橙色のメイド服"を置いていったンじゃナイか?トイレが長い君のオフィスには猿でも侵入が可能だ。また、前回僕達はケシの臭いをケシ忘れた売人を捕まえたケド、今回の侵入者は、君のトイレ後の臭いに紛れて逃走も可能…しかし、ディズ。毎日、何を食べてンだょ?」
普通なら、ココでバツの悪そうな顔をするモノだがディズは躍起になって"自首"スルw
「俺が自首スルだけで充分だろぉ!俺が後田アツカを拉致した。演歌路線をめぐり感情的に対立した果ての凶行だ。心より反省している」
「違うな、ディズ。君は自分のオフィスに"橙色のメイド服"を仕込まれ、誰かが自分を
ハメようとしているコトに気づいた。しかし、その企みに敢えて乗ることにしたンだろう」
「ソレこそ違う。俺が後田アツカを拉致監禁したンだ」
「何処に?」
「警察官でないお前らに話す義務は無い」
「確かに。だが、断言スル。僕は、ディズが犯人じゃ無いコトを証明してみせる。ディズは、自分が拉致犯と思わせたいなら、僕達を説得する真摯な努力をスルべきだ」
その瞬間、ディズの顔から、いつものフニャフニャした感じがスッと消える。
彼は、真っ正面から僕の目を見据え、一言一言を噛みしめるようにして逝う。
「俺が誰かにハメられたとしよう。もし、仮にそうだとしても、甘んじて受ける。アツカが戻らなくても、俺が拉致犯として自首したコトを知ってくれれば良い。でもな、テリィたん。俺は、ホントに後田アツカを拉致したンだゼ」
第3章 アツカ vs ユ→コ
意気揚々とディズを万世橋へ連れて逝くユ→コと別れ、ミユリさんの御出勤に付き合う。
おお。コレは"同伴"だw
道すがらポツポツと会話。
「あの"橙色のメイド服"って、"ネーブルの泉"の制服でした。やっと、思い出しました」
「"ネーブルの泉"?」
「ミレニアムの頃に流行った御屋敷で、メイドに美人が多いので有名でした。ソレから…」
「ソレから?」
「売人の溜まり場だったとか」
「ヤレヤレ。何の泉だったのやら…ところで、段ボールの仕分けって、どんなバイトなのか、ミユリさん知ってる?」
「お手紙や宅配物を目的地別に仕分けスルお仕事と聞いてます。夜勤をやれば結構まとまった額が入る良いバイトみたい。まさか、テリィ様がなさるの?立ちっぱなしの力仕事ですょ?絶対無理」←
「そうか。恐らく防犯カメラとは名ばかりで、実際はバイトの監視カメラなんだね。ディズがあーまで逝うから、念のために見ておきたいンだけど、画像提供は、鮫の旦那から働き掛けてもらった方が良さそうだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
で、翌日、画像を入手して見始めたら、あの夜、交通事故を起こした運転手が駆け込んで来て、ディズと深夜に何か話し込んでいる。
気になって、再び鮫の旦那に頼み込んで、交通事故?を起こした運転手を呼んでもらったらコレが何と不正入国者で本国送還の前日。
「何を聞きたい?もう、コレ以上の面倒は困るンだ」
「アジムさん、約束する。何の面倒もかけない。ただ事情を聞きたいだけだ。もう1度だけ、事故の様子を教えて欲しい」
「何度話しても同じだ。深夜の妻恋坂交差点を右折中、コッチが青信号だったのに飛び出すバカがいて、ブレーキを踏んだが間に合わなかった」
「そりゃ災難だったね。で?」
「ん?一体何を言わせたいンだ?」
「アジムさん。実は、私は外事警察の潜入捜査官で、ココで語られたコトが万世橋に抜けるコトは絶対に無い。従って、貴方の不利益になるコトは決してナイ。ナイどころか、再入国の口利きも可能だ。だから、真実を語ってくれ」
「…何しろ無免許ナンで轢き逃げするしかなかったが救急車だけは呼んでやろうと近くの倉庫に駆け込んだ。すると、中の男が野次馬の2人のコトを悪魔でも見るような目つきで見てた」
「2人?その男が見てた2人とは誰だ?何者?」
「おい。コレは罠だろう。何度も言わせるな。面倒は困るんだ」
「なぜ我々が罠にかけると思う?」
「彼女は大物ナンだろう?こうしてアンタが写真を持ってるくらいだから」
「この2人が一緒にいるのを見たのか?あの夜に」
「そうだ。そうだが、コレ以上は勘弁しろ。もう一言も喋らない」
僕が手にしている写真の2人とは、アツカと…ユ→コだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夕暮れ。主人を失ったディズのオフィス。
ゴミ屋敷と化してる部屋にユ→コを呼ぶ。
「テリィたんは、今でもディズの自白は嘘だと思ってるのね?ソレはテリィたんの勘?」
「勘じゃない。勘は論理的な思考には有害だ。僕は、観察し推論するのみ」
「詰まるトコロ、ディズは?」
「確かにアリバイは弱く、家宅捜索も拒否したから怪しさMAXだけど、多分無実だ。自分のオフィスに"橙色のメイド服"があるのを見て、心底驚いてた」
「驚いたフリでしょ。どの道、私がディズを市民逮捕した後では何もかも無意味だわ」
「いや。逆だ。逮捕後だからこそ、無実を唱える必要がアル」
「誰かが彼をハメたと思うの?」
「充分あり得る。ディズの無実は確定的サ。ところで、ユ→コは新橋じゃキャバ探偵として有名だったンだって?新橋もアキバも繁華街だが…アキバほど萌えはナイだろ」
「普通萌えナイでしょ。あ、触らないで!」
「いや。君のヒップが"橙色のメイド服"を落としそうだったから」
雑居ビルの狭い階段を登って来る靴音。
「あら?ミユリさんを呼んだの?」
「呼ぶも何も。彼女は、僕の相棒だゼ」
「私とじゃ…嫌?」
「マクロスかょ。しかし、浅はかな考えだ。ミユリさんと張り合うのはヤメとけ」
「バッカじゃナイ?でも、彼女がいると…何だか私、格下げされたみたいな気持ちにナルの。鮫の紹介で、テリィたんとは対等のパートナーだったハズなのに」
「ミユリさんを呼ぶのは、君のためとは思えナイか?アキバ式のやり方を観察する絶好の機会なのに」
「なぜ続けるの?」
「何を?」
「この事件よ。地下アイドルが失踪し、対立してたプロデューサーが罪を被りたがってる。望み通りにしてあげれば?程なく、彼はアツカの監禁場所を吐くでしょう」
「そして、刑務所で暮らすコトがディズの望みだと思うか?確かにディズは悪人かもしれないが、奴にはアツカを拉致する動機がナイ。だとすれば、ディズをハメた奴が未だ何処かで罪を逃れたママだ。アキバのヲタクはヲタクをハメた奴を許さない。ソコは新橋のサラリーマンとは違うンだ」
階段を登る靴音がドアの前で止まる。
ドアが開いて現れたのはミユリさん。
そして…アツカだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その場の誰もが凍りつく展開だったが、どうやら、最もショックを受けたのはユ→コ。
絶句し、その場に立ち尽くすも、辛うじて立ち直って大変ごもっともな質問を発する。
「な、なぜ?なぜアツカがココに?」
「私がお誘いしたの。ええ。昭和通りを歩いていたらバッタリお会いして。ホント奇遇ょね」←
「わぉ!生"後田アツカ"だ!演歌プロジェクト推進中の"KDG148"で常にトラブルの真ん中にいる"波動のセンター"あっちゃんだ!すげぇ!サインしてぇ!」
しかし、アツカはハシャぐ僕を完璧無視、トレードマークのボブカットを揺らしつつ、茫然と立ち竦むユ→コに激しく食ってかかる。
「ユ→コ!貴女、重要参考人だったディズを市民逮捕したんですって?やり過ぎよ!余りに悲劇的過ぎるわ!」
「でも、逮捕はディズが望んだコトなの!私は彼の気持ちを慮ったまで」
「よくもソンなコトを…この前、会った時は私を色々脅してくれてありがと」
「いいえ。私は貴女と会ってないわ」
「おやおや」
「でもサ。ユ→コとアツカが話してるのを見たって逝う証人がいるンだけどな」
「彼女は"KDG148"のセンターょ?ソレなりに顔が売れてるから見間違えなんか、しょっちゅうでしょ」
「もう良いわ!貴女は、パンドラの箱を開けてしまったの!私の心は決まったわ。私は、全てを話す用意がある。全てを話した後で"KDG148"のセンターを降板します!」
まだピースが足りなくて、ジグソーパズルの全体像が見えナイのに、結論だけが先走るw
周りを見ても全員が頭をヒネってて、もう少しピースを持ち寄る努力が必要にも思える。
「アツカさんは、ディズとは何処で知り合ったの?ソコがわかんナイんだけど」
「私のコトを追求しないと約束してくれる?」
「僕達はタダのヲタクだ。誰かを追求したりしない」
「話はミレニアムの頃、私達がメイドをやってた"ネーブルの泉"をめぐる裁判まで遡るわ。当時、私達の御屋敷は"ブラックパンダーの包装舐めパーティ"の最中に現行犯でガサ入れ食って…あのまま起訴されてたら、今頃、私達は全員刑務所だったハズょ」
「ゲ!で、何でソレが…起訴を免れたの?」
「当時の万世橋は十分に証拠を押収したけど、裁判の準備中に資料の箱が消えたの。検察の手違いか何からしい。決め手となるハズだった"特典ブラックパンダー"の包装に毒性があるコトを知ってた証拠となるメモとか、全部消えた」
「検察は、君達を有罪にする証拠を失った?ソレで不起訴に?」
「恐らく。だって、現行犯逮捕されたのに、その後誰一人起訴されるコトなく、ウヤムヤになってしまったのょ」
腹を括ったのかユ→コも"自白"に加わる。
「そして、私は腐ったアキバの地下に見切りをつけて新橋へ移った。そして、鮫に出逢ったの」
「ソレって単に自分だけ高飛びしただけでしょ?一方、私はソレでも夢を捨て切れず、アイドルを続けた。そして、ディズのプロデュースで、紆余曲折の果てに"KDG148"のセンターとして"演歌デビュー"するチャンスを掴んだ。ところが、来月デビューという段になって、突然ユ→コが私の目の前に現れたの」
「とっくに見切った、腐った水溜りのようなアキバの地下から、華やかにデビューして逝くアツカを、私は許すコトが出来なかった。先ず"橙色のメイド服"を送りつけ、人目のつかない場所に呼び出し"ネーブルの泉"の件をバラすと脅した」
「薬絡みのスキャンダルは命取り。私は即、デビューを諦めて、姿を消すための拉致を自作自演したの」
ええっ?!拉致は自作自演だと?!
「…でも、君は未だ僕の質問に答えてナイ。君は、いつディズと知り合ったんだ?ソレがわからないと、なぜディズが君を庇い、偽りの"自首"をしてるのかが解らない」
「いつディズが私を知ったか、ですか。そうですょね。アキバのヲタクもタマには鋭いトコロを突くわ。ソレはね。ディズが私を知ったのは…私がこの腐った世に生まれ落ちた瞬間です」
そして、アツカは噛み締めるように逝う。
「ディズは、私の父です」
第4章 歪んだ愛
アツカは、ディズが現役ロッカーだった時にグルーピーの子に産ませた娘だ。
内縁となった時期もあったが、アツカのママは、シングルマザーの道を選ぶ。
狭いアキバのアチラとコチラで、永遠に交わらナイ母子と父は、何度もすれ違う。
そして、すれ違いの果てにやっと掴んだ演歌デビューのチャンスは無残に潰れる。
傷心のアツカは拉致を自作自演、ホトボリが冷めるまで人目を忍びママの下に身を隠す。
「"ネーブルの泉"のメイドによるボーカルグループ"オレンジ組.inc"にはスゴいステージママがいるって、昔から有名でした。何でも自分に似合う色をメイド服にして、娘に着せてるとか…」
「私、恥ずかしかった!でも、ママには逆らえナイ…"橙色のメイド服"なんて、絶対ヘンょね!」
「だから、今回の失踪騒ぎでも"ステージママ"のマンションを張ってみたら、即日ビンゴでした」
「え?ミユリさんが張り込みを?」
「いえ。ジュリからお借りした"追跡チーム"にお願いしました」
ジュリは、ストリートギャングのヘッドの妹で…新橋鮫の今カノ?情婦?ハテ何だろうw
"追跡チーム"は、彼女に絶対服従を誓い、かつアキバのストリートで最強のチームだ。
「で、ディズは何処まで知ってるの?」
「全然」
「全然って…」
「私がユ→コに脅されてるコトとか、全然話してません。ましてや"148"のセンターを降りたコトも知らないハズ」
「ソレなのに…"橙色のメイド服"を見ただけで、誰かの企みを悟ったディズは、自ら犯人の濡れ衣を買って出たのか。娘が"148"のセンターであり続けるために」
「熱いですね。サスガは元ロックンローラーです」
「確かに。まぁ演歌と逝っても、リズムは大抵ロックンロールだからな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心理学に拠れば、人間の問題解決能力は"機能的固着"の影響を受けるとのコトだ。
"機能的固着"とは本来の機能のみと思い込み、他の機能を思いつかなくなるコト。
だが、人に備わる創造性は"機能的固着"を打ち破り自由な発想を生み出して逝く。
"ネーブルの泉"のメイド達は、かつてドラッグシーンに驚くべき創造性を見せる。
誰もが駄菓子のチョコバーとしか思わない"ブラックパンダー"を末端価格で数百万ドルに相当するβ-ヘドロキシ酪酸に変えたのだ。
そして今、彼女達の親が、誰もがポップアイドルとしか見ない彼女達を"2.5次元演歌歌手"に変える創造性を発揮しようとしている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
娘は、母に完全な愛を渇望するが、その渇望が満たされるコトは極めて稀だ。
一方、母娘が愛をめぐる無間地獄に苦しむ横で、父もまた途方に暮れている。
父は、生涯をかけ娘の愛し方を試行錯誤し、時に人の道を外れ、法をも犯す。
でも、その全てが父が娘を愛した証であり何者もソレを裁くコトは出来ない。
例え、ソレがどんなに歪んだ形の愛だとしても。
おしまい
今回は海外ドラマでよくモチーフになる"父と娘の葛藤"をネタに、アイドルグループのセンターを務める娘、その娘のプロデューサーである父、ステージママである母、娘の過去を知る元メイド、密会を目撃する本国送還直前の男などが登場しました。
海外ドラマで見かけるNYの都市風景を秋葉原に当てはめて展開しています。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。




