正しい山火事の使い方
第三回イベントに向けた作戦会議が終わった蓮見は七瀬との連携も必要だと美紀とエリカに言われ二人で街から遠く離れた焔の森に来ていた。
ここは来るのも面倒なわりに経験値効率が少し悪いのでかなり不人気の場所である。ここであれば蓮見も思う存分力を発揮でき、七瀬も蓮見の事を知るいいきっかけになるのではないかと美紀は言っていた。今の七瀬はエリカから早速作ってもらった装備のおかげで火と毒、後は感電にも耐性がある。
その間、美紀とエリカはイベントに向けたエリカの戦闘訓練。
今回のイベントではどうしても手数が少ないとその人数不足を少しでも解消する為にエリカも最前線に出る事となったのだ。まぁ本人も乗り気なのでそこらへんは美紀に任せる事で一致した。
「おっ、美味しそうな果実!」
蓮見は木に出来たオレンジ色の果実を見つけると、早速手に取り食べ始める。
太陽の恵みを十分に受けた果実は、甘みがあり、酸味も程よくとても美味しかった。
「それ……あまり食べない方がいいよ。口の中の水分持っていかれるから」
ミカンとあまり変わらない大きさの果実を頬張りながら、蓮見は両手に持っていた果実をソッと地面に置きミズナの元に行く。
「お水もってませんか?」
そう。時すでに遅しなのだ。
今も蓮見の口の中では頬張った果実が口の中の水分を吸収している。
焔の森は全体的に熱く、水分を持ち歩く事が基本なのだが。
やはりそこら辺の常識がない蓮見は水分等持っているはずもなかった。
「もしかして持ってないの?」
「はい」
「もぉ~仕方ないわね。これ飲みなさい」
七瀬が差し出してくれた飲みかけのお水をもらい、ゴクゴクと飲んで口の中にある果実を胃の中へ流し込むと同時にしっかりと水分補給をする。
「ぷはぁ~、美味しい。助かりました」
「は~い」
蓮見は七瀬にお礼を言って、余ったお水を返す。
それから二人がお話しをしながら歩いていると、焔の森から焔の山へ続く道中に一人の若い女性NPCがいた。
「どうしましたか?」
心配に思った二人は女性の近くに行き話しかける。
「もしや貴方様は執事の格好をした悪魔を倒した勇者様ですか?」
すると、蓮見の前にパネルが出現する。
『神殿の悪魔を倒した者への挑戦状。 受託しますか YES/NO』
隣にいる七瀬に助けを求めるとアイコンタクトだけで言いたい事を察してくれたらしく微笑みながら頷いてくれた。
なのでYESを選択する。
蓮見としても美紀と同じくトッププレイヤーの力を借りられるなら心強かった。
「おぉ~そうでしたか。そこで一つお願いがございます。あの山奥にある洞窟に少女の姿をした悪魔が住み着いております。その悪魔をどうか殺して頂きたいのです」
「……悪魔?」
あまり聞きなれない単語に蓮見が戸惑う。
「その少女と言うのは私の娘です。半年前私の娘は病で亡くなりました。それから数日後亡くなった娘の身体に憑依した悪魔がこの山を拠点にして悪さをしていると聞きました。最初は嘘だと思いながらもここに来てみたのですが、どうやら本当らしく」
辛いのか突如泣き始める女性。
「……それは大変でしたね」
七瀬が女性の気持ちを察し言葉をかける。
流石は女性。
頭の中が話しの理解だけで精一杯の蓮見とは大違い。
相手の気持ちを考えた気遣いは一流である。
「そこでどうか私の娘を安らかに眠らせる為にもお力を貸してはいただけませんでしょうか? 悪魔の居場所はおおよそ検討が付いております。私がその場所までご案内いたしますので」
蓮見と七瀬は一度お互いの顔を見て頷き合う。
「わかりました。では案内をお願いします」
すると二人の視界の隅に女性のHPゲージが出現する。
どうやら女性をモンスターから守りながら進まなければいけないらしい。
「紅はモンスターが来たら戦って。私が女性を護るわ。結界の魔法はかなりMPを使うけど全方位の攻撃から女性を護る事が出来るから」
「わかりました。移動前にちょっとだけお時間いいですか」
「うん」
蓮見は弓を構える。
洞窟までは山である。
山と言えば木が沢山ある。
木が沢山あると言えば……。
燃やすしかないだろう。
そして今までの経験上から下級モンスターは火を恐れる傾向があった。
「スキル『連続射撃3』。我が命ずる。秩序を乱す者達に裁きを与えよ。弓は心、弦は心を矢に伝えるバイパス。矢は裁き。裁きの象徴として悪を貫く今こそその真価を発揮しろ『虚像の発火』!」
五本の矢は森に向かっていき、ただでさえ暑い森が更に燃え盛る炎で熱くなる。
それと同時に弱いモンスター達が炎のダメ―ジから逃げるため次々と逃げ始める。
「えっ? 山火事ってそう使うの……」
モンスターを倒すのではなく、強制的に排除する為に意図的に引き起こした蓮見を見て七瀬は頭が痛くなった。
『絶対貫通』を持っているからこそ一度に大量の木を燃やせる。
蓮見だからこそできる技である。
心配になった七瀬は熱によるダメージで女性がダメージを受けていないかを確認するがどうやら熱耐性はあるようでHPは減っていなかった。
「お待たせしました。では行きましょうか?」
「うん」
MPポーションを飲み、準備万全の蓮見の言葉に頷く七瀬。
それから三人は女性を護りながら、焔の山奥に向かって歩き始めた。




