竹林の森イベント 決着
「戦いに負けても勝負に勝てば私たちの勝ちよ!」
ドドドドドドドドドッ。
大地を揺らし、何処からともなく聞こえてくる不吉な音。
絶対に忘れてはいけないことがこの世界には二つある。
一つ、神災とはなんなのか?
一つ、その由来はなんなのか?
朱音の生存本能が大音量で警告する。
―― ”死ぬぞ?” と。
小百合の生存本能も大音量で警告する。
―― ”死ぬぞ?” と。
まるでここまでの全てが茶番だったかのように。
せめて天高い場所に逃げていれば――良かったと後悔してももう遅く。
死は報いか?
それとも。
死は救いか?
さぁ、始めようか――神災の副産物。
DEAD OR ALIVE 。
この世界は日本のように地下に多くのマグマが存在して竹林の森の近くに活火山が幾つか存在する。
活火山が近くにあるということは地下には……。
やっぱりなんだかんだ負けたくない蓮見は過去のトラウマを抉る。
それはプレイヤーとこの世界の神の両方に。
一度始まった爆発は誰にも止めることはできない。
未曾有の危機に直面している状況で蓮見が微笑む。
「どうやらチェックメイトのようだな! お母さん、小百合さん……いや朱音と小百合!!!」
全てを出し切った。
そんな気持ちになった蓮見。
地下で起こる超新星爆発が巨大化しながら地面から顔出し始める。
メールが立っている所、それは神災竜蓮見が倒れていた場所でモグラ君たちが開けた穴があるところ。メールは人の姿になってもそこに水があればそれを操ることができる。液状化で分離した水を操り途中で留めある場所へと一気に送る。
モグラ君たちは懸命に蓮見ミッションを達成するため、深く深く地面を掘り進んでいった。
そしてモグラ君たちはあまりにも高温でドロドロとした物にその身を溶かされ最後の時を一足早く迎えていた。
「ちょっと待って。今は里美ちゃんが死に物狂いで攻撃してくるから防御が間に合わない。そんな中でダーリンの十八番を諸に受けたら……」
地面が崩壊を始め朱音がバランスを崩す。
それでも美紀の攻撃は止まない。
決死の覚悟で最後まで油断も隙もなく朱音を追い込んでいく。
「しまった。彼女の攻撃を無効化して私のMPは殆ど残っていないこの状況でこれをまともに受けれたら……」
過去のトラウマが蘇る巫女に残された手はもうなかった。
此処に来るまでなんども爆発を受けたがそれは三人がある程度万全の状態だったから耐えれてただけ。
そしてここに来て主たちが勝手に名づけた最も恐れる『サーバー落とし』。
純粋な破壊力だけで言えば最も危険な一撃。
「「死んじゃうわ(死んでしまいます)!」」
「アハハハハハハハ!!! この至近距離でノー防御で耐えれるなら耐えてみろよ! 例えどんな生命体でもなぁ! 地殻変動級の超巨大攻撃からは逃れられないだろうが! そして俺は逃げる!」
「「「「「「「はっ!?」」」」」」」
メールの元に駆け神災狐となった蓮見はそのまま大きな羽を羽ばたかせ長い尻尾で美紀を回収し爆発の勢いすら利用して急上昇を始めた。
一秒でも速く死ねばその時点で負け。
逆を言えば爆発の中心部から少しでも離れ死ぬのが遅れれば勝てる。
もっと言えば小百合が死ねばその時点で蓮見の目的は達成されるのであった。
地面がメラメラと剥ぎ取られた先に待つのはマントルの海。
そんな中に爆風に飛ばされて着地などすれば死は必然。
だが蓮見より遅い生命体が吹き溢れる爆風の中を飛んで逃げるのは困難を極める。
ましてや反応が遅れた朱音と小百合にそれは難しく。。。
■■■
蓮見の勝ちが決まった。
もう言い訳ができない。
小百合は負け、朱音はどうなったかわからない。
だけど小百合が負けた時点で勝敗は決した。
そして責任者は膝を追って敗北を認めた。
「モニターついに止まったな……」
「あぁ……パソコンの処理が遅延してる時によく見る水色の丸がクルクルしてるもんな」
「やっぱり負荷限界来たか……」
「一発は大丈夫でもそれが連続で何度も短期的に続けばサーバーちゃんだってちょっと苦しいわよね~」
絶対的な上位互換とも呼べるメンバーを招集した。
それでも神災はその上位互換とも呼べる存在を打ち負かした。
これではどっちが挑戦者かがわからない。
だけど世の中は広くたまにはこういったイレギュラーがいるのも悪くないかと責任者は鼻で笑った。
いや本当は心の奥底で望んでいたのかしれない。
こうなることを。
「勝利宣言をしろ。アイツらの勝ちだ。俺はちょっと社長の所に行ってくる」
立ち上がった責任者は清々しい声と表情でそう言った。
「いいの? アンタ……」
「あぁ、今までよく俺に付いてきてくれたな、礼を言う。ありがとう」
責任者は共に運営に尽力してきたメンバーに頭を下げ部屋を出て行った。
「事実上の解散だろうな」
「あぁ……なら最後の仕事するか……」
「…………」
「いやよ! なんでこんな終わり方なのよ! なんであいつは私たちを責めないのよ! プログラムの構成は殆ど私たちがしたのよ! なんであいつは問題が起きた時だけ全部俺がしたみたいな言い方をして一人で抱え込むのよ! 絶対に今回もそのパターンだわ! 私も社長室に行ってくる!!!」
勢いよく立ち上がる女の腕を強く掴みそれを止める男――メンバー。
「止めろ。最後ぐらいアイツの覚悟を受け止めてやれ」
「ふざけないで!」
――パンッ。
女は腕を掴んでいた男の顔に力いっぱいビンタをした。
彼女の全身は小刻みに震えている。
「俺たちはお世話になった社長の喜ぶ顔を見たくてアイツの暴れる姿を華麗にしようとグラフィックの大半を想定し得る全てにつぎ込んだ。その喜ぶ顔がもう何十年って見てなかった顔だったから。それが俺達は嬉しくて。自分達の仕事一つでそれが叶うならと。だけどそれはゲームバランスを考える中で過剰と本当は心の中で誰もがわかっていた。それでも俺たちはした。だとするならやっぱり最後はアイt……橘プロジェクトマネージャーがケジメを付けるしかないんだよ」
「でも!」
「全プレイヤーに対する謝罪は勿論、関連会社や株主に対する謝罪その全てができるのは俺達の中じゃアイツしかいない。全責任はアイツが取るしかないんだよ……俺たちじゃそれができない」
男は悔しそうに涙を流した。
「でもそれだけの理由で今回のイベントを組んだんじゃないのよ!」
「そうだ……それでもダメなんだ……俺たちじゃ……」
この後起こるであろう株価暴落などの後始末は恐らく責任者の人生生命を賭けるほどに大きくなるだろう。会社としてそれだけのリスクを承知で上に黙って意図的にしたのだから。社長は元よりなんだかんだ多くのユーザーがそれを楽しんでいるなら運営として多少無茶しても叶えたいという心が生んだ結果は決して頭を下げれば済む問題ではなかった。
■■■
誰もが予想しなかった結末が待っていた。
世界が崩壊したような酷い環境下で生き残った生物は……。
「いててっ」
起き上がる女性は目の前の光景を見て唖然とした。
「アヴァロン……チート級のスキルを使ってこれとは……運営ちゃんたちの悪い予想は当たったわね。私にどんな攻撃も防ぐスキルを与えてまで土下座して頼んできた結果とは情けないわね」
空を見上げるもそこには真っ黒な空しかない。
「誰でもプロになれる可能性があって、誰でも楽しくゲームをしていればどんな相手にも勝てる可能性があるって小さい子供たちに夢を与えて欲しいって。そのためにダーリンの全力を引き出して欲しいって……」
運営魂と言うべきだろうか。
そこに熱い情熱を見た朱音はその話をずっと前に呑んだ。
「ダーリンと戦えて楽しかったから私はいいんだけど……」
大きなため息をつく朱音は全てを知っていたからこそどこか虚しくなった。
この後美紀は間違いなくプロになるための一歩を踏み出す。
そして今日戦いに参戦したプレイヤーたちも美紀の後を近いうちに追って羽ばたくだろう。そう思った。それは今日皆のために頑張った少年が一番報われないことを意味していた。美紀たちはこの先何度も同じ土俵でぶつかり合い切磋琢磨し顔を合わせるだろうがそこに蓮見はいない。そう――今日朱音の中で一番頑張ったと思える蓮見だけがここで脱落するのだから。
「可哀想過ぎるわよ。ダーリンも運営ちゃんの責任者君も。二人とも大切な仲間の為に多くの物を今から失うなんて」
どんな結果になろうと俺が全ての責任を負うと朱音だけに密かに断言した男もここで脱落するのだろうから。
二人のリーダーは一番過酷な道をそれぞれ仲間の為に歩む。
出会いがあれば別れがある。
正にそんな空虚虚しさ溢れる気持ちにさせられるのはきっと、
「あぁ……私もこの仕事終わったからダーリンと実質的にお別れか……」
娘たちのことを考えると大きな大会がある海外にそのまま家族で住むのが一番理に叶っている。そうなるともう会えない。
いつぶりだろうか……こんなにも別れが悲しく感じたのは。
涙が止まらない。
短い時間だった。それでもとても楽しかった時間。
そこで生まれた数々の想い出。
今まで誰の言葉でも響くことはなかった氷の壁。
勝てなければ意味がないと言う自分の信念で出来た氷の中にある純粋な遊び心を表にさらけ出すきっかけをくれた年下の男の子にここまで情が移っていたとは。
元旦那や娘たち。
そんな身内でも出来なかった朱音の中での偉業を彼は当たり前のようにしたのだ。
だからダーリンと戦えるならと思って安易に引き受けた仕事がまさか最後にこんなに悲しい最後を持ってくるとは……思いにもよらなかった。
「あれ……涙が止まらない……うぇえええええん」
戦場で唯一生き残った最強は誰も見ていない焼け野原で一人泣き崩れた。
本日20時に最終話投稿します。




