竹林の森イベント 本前兆
限界を超えた美紀の動きが朱音を翻弄する。
枷を自らにかけているとは言え、それでも最強が攻めきれない姿は多くの者にとって意外だった。
だけどそれ以上に意外なことは――。
「紅さん貴方は何だって言うんですか!?」
蓮見だった。
武器を持たずに正面から喧嘩を売る不良と言われても仕方がないような蓮見の行動は誰もが理解不能。
武器を持った巫女相手に気合いだけの拳で戦いを挑んだのだから。
小百合が狙いを定め放つも神災モードの蓮見にそれが当たる事はない。
見てからでも避けれる蓮見。
皆が忘れていた。
HPゲージが一。
つまりその時が誰よりも速く、限界速度で突っ込んでくる頭のネジが外れた男こそが最恐であり今回の大将。敵は当然その大将を倒さなければならない以上、これを攻略しない限り勝利の二文字は絶対にない。
「うおおおおおお!!!」
「きゃ!? ちょっと私女の子ですよ!?」
可愛らしい悲鳴が聞こえるも、
「るせぇ! 男女平等主義の俺様にそんなことは関係ない!!! なぜなら俺は知ってるさっきメールが教えてくれたから!」
どうやら本気で殴ることに抵抗がないようだ。
ちょっと可哀想な気もしなくはない。
なぜなら人間の姿でもう戦う力がないメールが笑いをこらえているから。
「な、なにをですか?」
「彼氏いるって!」
「はっ!? いませんよ!? そんな人? そもそも彼氏って誰のこといってるんですか?」
「知らん! でもメールがいるって言ってた!」
「いい加減にしてください! スキル『連続射撃3』『虚像の発火』!」
心の中で無限に湧き上がる力が蓮見に力を与える。
それは敵からしたら無慈悲なエネルギーとしか言いようがない。
それにそのエネルギーのせいか動きにキレがある。
「脱いだら実は大きくて彼氏と手を繋いでこの前水着姿でメールがいる海でイチャイチャしてたって! だから俺は殴る!」
目に見えない壁が蓮見の拳を遮る。
ゴンっと聞こえるがそんなのはお構いなしに攻撃を続ける蓮見。
「だからいませんし、なんで私のバストサイズあの子が知ってるんですか?」
「皆そうやって恋人がいる人に限っていないって言うしモテる奴に限って好きな人が振り向いてくれないとかいつでも恋人を作れます雰囲気を作ることを知ってる俺様にその揺さぶりは無駄だぜ!」
うーん、いまいち話がかみ合ってないし、蓮見の行動原理が少しおかしい気がするが、嫉妬と言う憎悪に駆られた男は本能の赴くままに暴れる。それは敵に本命を悟らせない結果を生む。
「そもそも人間である紅さんが私に嫉妬とか普通あり得ないのでは?」
「ある! だったら聞くが俺が告白したら彼女になってくれるのか?」
「そ、それは……無理です」
「ほら、やっぱり彼氏が既にいるからじゃねぇかああああああ!!!」
「そう言って八つ当たりでさっきから私に攻撃するの止めて下さい! 紅さんの拳は私を殺す可能性があるのですから! それに恋人云々ではなくお互いのことをよく知らないでお付き合いは無理です!」
「お互いのこと? そんなの知ってるじゃねぇか! 俺たちは同じ眼を持ち拳を交えた。後は手を繋いでデートするだけだからな!」
「もう意味がわかりません!!! スキル『猛毒の裁き』!」
でもなんだかんだやっぱり戦場に活気が戻り始める。
どこか一方的な展開に活気がなかった戦場が明るくなっていく。
そして猛毒裁きを躱し、自慢の眼の力を使って手刀で切り落としていく。
アドレナリンが過剰に分泌された脳は不可能を可能にする。
まさかメールの悪戯がここまで蓮見に力を与えると誰が想像できただろうか。
敵からしたら理不尽でも味方からすれば蓮見の復活は好都合なのかもしれない。
それに合わせて戦場もゴゴゴゴゴゴゴっと四人の戦いを盛り上げてくれる。
「あれ? なんかさっきから地面が揺れている?」
「うふふっ、朱音さん? 急にどうしたんですか♪」
朱音が槍を持つ手に冷や汗が流れた。
いやいや、満面の笑みでそれを言うのか? と。
この状況を楽しむ美紀を出し抜いて蓮見の無力化を考えるが、視線の先で交える二人の戦いを見てそれは難しいと判断する。
朱音が最も恐れていた蓮見がそこにいたからだ。
あぁーなった蓮見を止めるのは一番一苦労することを知っているし、この状況を楽しんでいるのか満面の笑みの美紀を無視するのは、、、
「アンタたち似た者同士だったのね……本当にこれはまずいわね」
リスクが高いと判断する朱音。
――。
――――。
地面の揺れが徐々に強くなっていく。
まるでただでさえ緩い地盤がさらに弱くなっているようだ。
「まさか!?」
「あっ!? ようやく気付きました? ここ何回紅の爆発を受けました?」
美紀の言葉にようやく朱音が気づいた。
二人の狙いが。
地面を何度も揺らす大爆発の連発。
そして蓮見の神災は常に次の神災に繋がる連鎖型。
「えきじょうかとか……言わないわよね?」
息を呑み込んだ朱音。
幾ら自分が最強でも待っているのは明確なる死。
地震などの揺れによって地盤が液体のようにドロドロになれば地面の上に立つものが傾いたりバランスを崩し沈下したりする。今自分たちがいるフィールドは既に見た目通りのボロボロ。となると、地中の水圧が高くなり、砂や水が勢いよく飛び出してくる可能性がある。そう飛び出して来るものがそれだけならなにも心配はいらないのだが、蓮見がすることだ――きっとなにかあると思うのが自然であり、この時朱音は自分が空に逃げれないことに気付く。美紀の猛攻がそれをさせないようにしているのだ。
「時は来た! 小百合さん貴女が俺を振った罪は万死に値する!」
突然大声で叫ぶ蓮見に、
「はっ!?」
と、本気で迷惑顔の小百合。
だけどそんな小百合を置いて蓮見は言葉を続ける。
「大地よ! 俺に変わりモテモテ美女たちに鉄槌を。俺様究極全力シリーズ『ア・ビアント』発動!」
その言葉を聞いた美紀が朱音を誘い込み落ちてる槍を足で蹴って素早く手に取り投擲。
狙いは小百合ただ一人。
「ったく、最後まで私に頼って本当に甘えん坊なんだから! スキル『破滅のボルグ』!」
美紀の槍が小百合に向かって一直線に飛んでいく。
だけどそれは小百合の眼によって止められてしまうが。
「いいの? 私の攻撃に貴重なMP使って?」
その言葉に「あっ……?」と。
最強が倒せなくても大将を倒せば勝てるのならその最強を足止めできる力が必要だった。そう蓮見と美紀がしようとしていたこと――それは。




