竹林の森イベント 激突 最後の切り札
美紀はこの時――知った。
今まで高次元にいると思われた朱音が実は自分が思っているより更に先の高次元にいることを。
その朱音に死を突きつけた蓮見の話は実はネット世界では有名な話。
それは朱音本人が認めているからだ。
美紀のように普通の人が歩む道――すなわち朱音が歩んできたであろう道にある力では短刀と槍が何度もぶつかる度に感じてしまうことがある。
それは――どれだけフェイントを入れても本命の攻撃が読まれていると言うことだ。
「なるほどね~、それでサプライズはもう終わりかしら?」
ゾッとした。
それを悟られないように攻撃の手数を限界ギリギリまで増やしていく。
息が苦しい――それすら忘れるぐらいに集中して。
心臓が悲鳴をあげる――それでも最初で最後のチャンスを手にする為弱音は吐かない。
「……まだです!」
「いいわ。まだペースがあがるのね。でも……」
朱音が攻撃してきた。
この際武器が槍じゃないって言う言い訳はできない。
いや――それもあったかもしれない。
反撃される度にどうしても攻撃の速度が落ちる。
激しい攻防戦は二人の武器がぶつかる度に火花を散らし激化していく。
そして――美紀と朱音の実力差を徐々に明確な物にしていく。
「ふ~ん、なるほど。確かにこれだけの快進撃今のダーリンじゃよけきれないかもしれない。でも里美ちゃんにはあるの?」
「……ん?」
「ダーリンのように私を仕留める一撃が?」
その言葉に思わず手が止まりそうになる。
そう――朱音が蓮見を認めた理由それは――誰もが諦める状況の中でいつも奥の手を隠し持っていてそれが一発逆転の可能性を秘めているから。
それは誰にも通用し朱音クラスの人間ですら嫌でも警戒する絶対的な力――神災。
幾ら真似ごとはできても蓮見が一度使った物では朱音は倒せない。
そんなことはする前からわかっている。だからこそ無意識に出た舌打ちが朱音にそれを悟らせてしまう。
「そう……やっぱりざんn――」
「あるさ。里美が……げほっ、」
背後から聞こえた声はとてもか細く簡単に消えてしまいそう。
だけど激しい攻防戦を続ける美紀と朱音の耳にはっきりと聞こえる声でもあった。
「俺に配慮することを止めれば俺じゃ届かなかった領域に行けるはずだ。そしてお母さんを超える……そうだろ?」
(俺とは違う……今は無理でも美紀なら純粋な力で超えることができるはずだ)
口から血を吐き、既に神災竜の姿が維持出来ず人の姿に戻った蓮見は人魚ではなく人の姿になったメールに支えられている。
この時点で蓮見もメールも七瀬や瑠香と同じくもう戦闘する力はないとわかる。
だけど武器すらもたない蓮見の目はまだ死んでいない。
やはりこうなると朱音が最警戒するのは蓮見――神災である。
「動かないでください」
小百合の警告。
彼女は既に矢を放つ準備を終えている。
後は放つだけ。
それでも攻撃してこないのは朱音と同じくなにかを感じ取ったから。
神災モードの蓮見に対して後一撃で勝てると確信し油断した時ほど皆が敗北するからである。
「里美ぃぃぃ! 気合い入れろぉぉぉ! これが最後の俺様究極全力シリーズ『ア・ビアント』! それをする。後は察しろ!」
蓮見の無茶苦茶。
なんのヒントもなし、打ち合わせもなし。
そんな中でただの幼馴染という信頼関係だけで協力。
普段なら無理な話ではあるが。
今の美紀はなんとなくなんの根拠もなんの確証もないがわかってしまった。
蓮見の足元に空いた不自然な穴。
それは神災竜の身体でずっと隠れていた場所に空いた穴が見えたから。
すなわちエリカはそれを知っていたから――まだ手があるから最後の時間稼ぎそして希望を美紀に託したのかもしれない。
と、言うことは……脳をいつも以上に使い冴えている美紀はこんな時だからこそ――初恋を告白したことがもしかしたら聞かれていたのでは????
と急に不安になった。
「悪いけどさせないわ!」
「まぁいいや、聞かれたら聞かれてたで。どうせもう終わりだし……」
が、朱音が蓮見の方に視線を向け強引に身体を捻って美紀の攻撃をかいくぐろうとするが、美紀がその一歩先を行き、行くてを阻む。
「あ~あぁ……、、、」
もうこの初恋は終わるのだから。
一度は離れ離れになり諦めた初恋。
そんでやっと忘れるかもと思った矢先突然隣の家に初恋相手がやって来た。
死ぬほど嬉しくて、本命の高校を蹴って、親を通して聞き出した蓮見の行く高校に行く事にした。それで今度こそはずっと一緒にいると決めた。だけど夢の方向性が違う二人がずっと一緒にいることは叶わないとある日気づいた。だからなんとか頑張ってみたけどどうやら恋愛は失敗に終わるようだ。それで夢の道も中途半端で終わったら一生後悔するだろう。だからここから先は修羅になると覚悟を決める。
「……うそぉ? 私の速さに付いて来るの?」
「行かせないといいました。それにもう私たちに残された時間はあまりありませんよ?」
「なるほど。ダーリンが今から何をしようとしているのか知っているのね」
「知りません。でも――」
「ん?」
「ずっと好きだったから。ずっと紅のことを馬鹿みたいに考えていたからなんとなく今紅が私に求めていることがわかるし、紅がやろうとしていることもわかるんです。そしてその一撃が朱音さんと小百合を同時に倒す私たちの最後の賭けであることも」
朱音はこの時――美紀に可能性を見た。
まだこの子は大きく成長すると。
リスクリターンを瞬時に判断しての仲間の行動の未来視。
まだ不確実性が高く実用的とは言えない。
だけど蓮見と美紀が過ごした長い年月が今まで誰にも予測が不可能だった蓮見の未来を見通せるように美紀がなれば今後は蓮見ではなく敵の動きの未来視つまり今の自分と同じ領域に彼女が足を踏み入れてくると。沢山の敵と対峙し多くの敵に対してそれをしてきた自分ですらまだ蓮見に対してだけは予測できないのにそれができると言うのだから可能性は十分にある。とんでもない化物を同世代に持った娘たちには残酷な話だ。親としては。だけどなんだろうか――やっぱり蓮見と一緒なら多分娘たちもその領域に近々踏み込んでくるような気配は感じていた。なぜなら自分ですら蓮見と戦えば戦うほど戦闘経験値が未だに上がっていると実感できるのだ。もしそんな男の一歩先を歩き完璧なフォローが出来ると言うのなら、認めるしかないだろう。
「それが本当にできるって自信はあるのかしら?」
「はい。だって――」
「だって?」
「自分が好きになった人が信じてくれたんです。だったら期待に応えたいじゃないですか!」
さっきまで真顔だった美紀の表情が笑顔で一杯になった。
ここに来て格上との戦いを楽しむことを知った美紀は心が躍っていた。
蓮見の力になりたい!
蓮見と一緒にゲームできる残された時間で想い出を作る!
絶対に後悔しない!
そんな湧き上がる気持ちが美紀に驚異的な力を与える。




